7
ユリの体は、薄い敷き布団の上にあった。敷き布団は畳の上に敷かれており、人の皮脂や髪の毛や、砂利や埃がまき散らされ、ざらざらとして清潔な様子をしていない。ユリの両手首は後ろにまわされて、ガムテープで巻かれている。両足は私の体を乗せて押さえつけており、口の中にはタオルが詰められていた。車に乗せたときに強くほおを叩き、顔の色が変わるまで首を絞めたから、ユリはすっかりおとなしくなっている。それでも緊張はゆるめられなかった。いつ何どき、こちらの油断を見抜いて逃げ出してもおかしくはない。
ユリは裸ではなく、衣服をまとっている。薄手のカーディガンを半端な状態で肩に掛けていたし、ブラウスは首から腹あたりまでしかボタンが開かれていなかった。
でも私にはそれで十分だった。すべてを脱がせる必要はなかった。私が考える彼女の性感帯さえ開かれていれば、それだけで十分事に及ぶことができるからだ。
ユリはタオルの向こう側から途切れ途切れに嗚咽し、何事かをこちらに伝えようとしていた。しかし私はそのどれにも耳を貸さず、彼女の顔面に手を伸ばし、彼女の鼻をつまんでみた。たちまちユリは苦しみ出す。口を塞がれているから、鼻を塞がれると呼吸ができなくなるのだ。私は自分の気が済むまで、ユリの小さくて高い、すべすべとした鼻をつまんだ。できるだけ固く。できるだけ強く。
自分の視界から見える、小ぶりなつくりをした鼻をつまむ手。それはとても醜悪なものに見えた。指は太く短く、炙られたソーセージのように脂にまみれていて不潔だった。関節と関節の間に生えている、まばらな指毛がさらにそのことを増長させた。その不潔な指につながる腕も、きれいなものではない。手首までを黒いパーカーでおおい、袖口からは贅肉がつき、しわが刻まれ、毛の生えた腕が見える。しかし、醜悪ではあるが、腕には力がみなぎっていた。肉は重く、余分な脂肪がたくさんついていたが、華奢なつくりをしたユリの腕と比べるとずっと太く、ずっと強大だった。
私はユリの鼻をもぎ取るくらいの気持ちで、指先に力を込める。それでも鼻は強固に顔にくっついたままで、ユリは痛い苦しいと悲鳴をあげた。
私は気が済むとユリの鼻から手を離し、へこんでしまった両の鼻の穴を側面から押して形を整えてあげた。ユリはそんなことにかまわず、むせながら呼吸を整えている。
次に私は、自分の服を脱ぎだした。脱ぐのは下半身だ。下は緩いゴムのスウェットで、これも上半身と同じ黒い色をしている。その下にはいている青と緑のギンガムチェック模様をしたトランクスにも指をひっかけ、体を浮かせて、足首の方におろしていく。
そうすると、トランクスの中から勃起したペニスが飛び出てくる。それは熱くはじけそうなくらい膨らんでいて、この部屋の暗闇の中にあってもなお、濡れて光って見えた。
私は体を起こし、背中をのけぞるようにして、それをユリに見せた。そしてユリは私のペニスに怯えるかのように布団の上から腰を使って後退したが、私は彼女に腰をより近づけることでそれを阻んだ。
気の済むまで彼女にペニスを見せた私は、反った背中を再び丸め、ユリに覆い被さる。そして覆い被さってみて、改めてユリの体は小さく細いと思った。自分の背中で全てを覆ってしまえるくらい小さい。
私はむき出しになったペニスを、ゆるやかな曲線を描く脹ら脛に擦り付ける。脹ら脛は白くなめらかで、たぎった男根をやさしく宥めていやしてくれる。そうしながら、私は手を伸ばしてブラウスの隙間から胸へめがけて右手をつっこみ、下着の隙間を指でかき分けて胸を揉みしだいた。
胸は小さく、ひとつの胸は手のひらの中へ収まってしまうほどの大きさだった。私はそれを、薄い胸板からもぎ取るように根元へ指を立て、何度も揉みこんだ。指先にはあばら骨を感じ、手のひらの中央には固くなった乳頭のしこりを感じた。揉み込むたびにユリから悲鳴があがり、私はそれを心地のいいものとして聞く。
胸は柔らかく弾力があった。私はこの胸を揉み込む権利のようなものを、ユリから無理やり奪い取っている、そのことに強烈な興奮を覚えた。
私はユリの胸から一度手を離し、右胸についた乳首をまさぐると、指先でそれを探し当てて、指のはらを使ってそれをつまんだ。ラジオの音量を絞るように優しく、かつ、力のこもった指先で潰してしまわないように。恋人同士の性交における前戯のように。君の人権のすべてはここにつまっているのだと言わんばかりに、やさしく扱った。
しかし、私がどれだけユリの右乳首に優しくしても、肉は頑なにそれを拒んだ。乳首は私の指先を拒むかのように固く冷たいままで、指でひねればひねるほど、小さくなって逃れていくように思えた。
私はそんな乳首に人並みの温もりを与えたくて、大きく体を前に出してユリの乳首に舌を絡めた。私の口中は私のペニスと同じく、あたたかく湿っていた。乾いて縮こまっているユリの乳首を口に含んでみると、それは氷のように冷たくて味がしなかった。この寝床に連れ込まれるまでに、多少なりとも汗をかいているはずなのに。あるいは、問題があるのは私の味覚なのかもしれない。興奮しすぎて、微細な変化に舌が気がつかなくなっているのだ。
ユリは私の愛撫に悲鳴を上げず、体を硬直させて耐えているように見えた。私はそれが気に入らなくて、優しくこねていた乳首に今度は爪を強く立てた。それでもユリは目を固く閉じ、鼻から呼吸を漏らすだけだった。そうすることで、私という存在がこの空間から消えるのだと、信じているかのように。
私はそれが気に入らない。ユリに、自分の体を犯しているのは誰なのかはっきりと示したいと思った。丸く大きく、無垢な瞳に、私という醜い姿を目一杯に映し、暗い気持ちで心を満たしてやりたい。
私はユリの胸から顔をあげ、唾液にまみれた口元を、一度手の甲を使って拭き上げる。手の甲に、粘り気の向こうから皮膚を突き刺してくる鋭いものを感じた。それは私のあごひげだ。剃っても剃っても生えてくるそれは、もちろんユリの顔にはどこにもない。
自分の股をあげ、ユリがまとっているスカートの中へ指をつっこんだ。太ももの線をたどって指を遡らせると、薄い布地と肌の境目に指が触れる。パンツだ、と思うと、すぐにその境目に指を潜らせて引っ張り、右足からずらした。左足も同じようにずらすと、指先に陰毛の手ざわりを覚える。私はそれを、指でかきまわして弄んだ。
私はユリの脚の間により深く入り込み、脚を開くよう太ももを強く叩いて命令した。ユリは諦めた様子で股を広げた。それでも角度が足りなかったので、膝に手を掛け、押しつぶすようにより大きく広げさせた。
下着を脱がせるのに協力は求められなさそうだったから、枕元に置いていたハサミで腰骨から股下まで切り取り、残りは破って尻の下から引き抜いた。レースで飾られた布地を取り去ると、陰毛をまぶされた女性器が現れる。
私とユリの体の間にできた暗がりの中で、それは沈黙を保ったまま、そこにあった。ユリのヴァギナは性交の喜びに震えるわけでもなく、恐れおののくわけでもない。なにひとつ感情を浮かべず、さっぱりと乾いたままの状態でそこにあった。私はさっそく指を伸ばし、襞をもてあそんだり、尿道をつまんでみたり、狭くて小さい穴を広げてみようとする。しかしどれもこれも見たとおり乾いていて、無表情だった。
私は彼女のつれなさに失望しながらも、それでも腰を進めて自分のペニスで入り口に触れた。私のペニスは熱くぬるぬるしていて、ユリの粘膜は砂漠のように乾いてさらさらとしていた。そこに対話はない。これから毒されるものと、毒すものだけが出せる、不幸な緊張感だけが漂っている。
私はもう待ちきれず、興奮に任せ、肉の中へ自分のペニスを勢いよく突き入れた。筋肉はゆるめられず、拒もうとだけしていたから、私のする行為はユリに傷を与えるものにしかならなかった。ユリの体を踏みつけ、縦半分に切り裂き、血を流させる行為だ。自分の体液だけでは滑らかに進まなかったが、腰をつかんで振っているうちに、すとんと棒が穴へ入るようになった。私はこのことを「よし」とし、ますます腰の振りの勢いを早める。
汗を飛ばして腰を振りながら、私は自分のペニスに向かって気持ちを聞いてみる。亀頭は顔をもたげ、満足したように穏やかで温かい溜め息をついた。彼は性欲をすっかり満たされたようだった。
私は、これからユリを殺さなければいけない。刃物を使ってからだじゅうに穴を空け、それから鉈をつかって首と胴体を切り離すのだ。
ユリの死体の後片付けを考えると、出血はできるだけ少ないほうがいい。そうなると、まずは絞殺して、そのあと刃物で穴を開けるべきだろうか。いや、それとも……
自分の脚の下に敷いたユリは、時折思い出したように暴れ出す。この状況において、彼女はまだ助かろうと考えているのだ。私はそれがうっとうしく思えて、一度彼女の体からペニスを引き抜いた。そして体勢を変えて彼女に覆い被さると、その細くて白い首に手をかけた。
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