6

 それが起きたのは、ユリが殺されてから二ヶ月後のことだった。

 時間は夜の二十時を過ぎていて、私はレンタルDVDを返却し、アパートまでの帰り道をたどっていた。レンタルDVD屋から帰宅するためには、国道に沿って作られた、広く長い坂道を上らねばならない。私は買ったばかりのサンダルを履き、靴擦れに苦しみながらその坂道を上っていた。

 歩行者は私のほかに誰もいなかった。しかし歩いている道は、行き交う車と街灯のおかげで明るい。私は明日の講義や、あるいはさっき返却したDVDのことや、あるいは死んでしまったユリのことを考えながら坂道を上っていた。耳にはカナル式のイヤフォンを深く嵌めこんでいて、右手はキュロットスカートのポケットの中に突っ込み、iPodの音量を調整したり、曲順を送ったり戻したりしていた。

 坂道の三分の二ほどを上り終えたところで、強い衝撃が右肩に走った。痛い、と思う暇もなかった。それぐらい私はうわの空で歩いていたのだ。背後から近づいてくる暗がりに気づくことができなかった。肩が大きな手に掴まれていたのだ。

 それが手なのだ、と気づく前に、私の体は大きく回転していた。私の肩を叩いたものが誰かの手で、男のものであること。その男にどう猛な悪意を向けられていること。それらに気がつくまで、時間がかかってしまった。足首を軸にして体が右側へ半分回転して、立つためのバランスを保てなくなる。

 耳を塞いでいたイヤフォンが抜けて、細いコードが私の首と肩に絡まる。そしてiPodが固いアスファルトの上を滑り、金属がこすれる不吉な音がした。

 アスファルトの上にうつ伏せに転ばされた私は、膝を伸ばして立とうとする。そのときに男の姿を、街灯越しに見た。

 男の顔は、フードに包まれていて見えない。しかしその影は強大で、熊や岩のように見えた。男はかがむと私の体を抱き上げ、運ぼうとする。私は大きな声をあげて喚いたはずだったが、すべてがすぐそばを走る車のエンジン音にかき消されてしまい、たいして効果がなかった。

 坂道のそばには、空きテナントばかりの寂れたビルがある。男はそこへつながる脇道に私を引っ張り込み、ビルの駐車場へ向かっていた。周りに人はおらず、湿っぽい初夏の夜が空間を満たしていた。

 私は「はなしてください」と「ごめんなさい」を繰り返して手足をばたつかせた。できる限り、男との対話を試みようとする自分がいた。男は私の抵抗や命乞いに耳も貸さず、クレーン車でひっぱられているのかと錯覚するような、無慈悲で冷徹なまでの力で駐車場へ運び、私の体はアスファルトの上へ転がされる。

 駐車場に男の仲間がいるのかとも考えたが、だれもいなかった。苔が生えた車止めや消えかけた白線、男が乗ってきたと思われる一台の黒い自動車、それと煤けた街灯があった。男と私を除いて、人の気配はどこにもない。それはそうだろう、きっと男はこの場所に誰も来ないことを知っていて、私を連れ込んだのだから。

 私はキュロットスカートのポケットに入れていたスマートフォンを探すが、それよりも先に男の体がのしかかってくる。男の、板のように思える大きな手のひらが私の肩を硬いアスファルトの上に押しつけ、腹と胸に膝を埋めて体重を掛けられた。白い、刺すような細い光が私の真上で瞬いて揺れて、ペンライトで照らされているのだと知る。

 男の手は私のブラウスの中に入って、カップ付きのキャミソールを剥がして胸に触れる。男の指は乳房をもぎ取るかのように揉み、辱めるように痼りをつまみあげる。そこまできて、私は本当に、これから自分が強姦されるのだ、という実感を得た。廃ビルの駐車場で、砂利と雑草にまみれ、無礼で粗雑な男に、力のままに体を荒らされるのだ。

 男は胸を掴みながら、私の顔を無理やり上に向け接吻をしてくる。かさついた唇が重ね合わされ、そこから粘ついた、生温かい舌がもぐりこんでくる。歯で噛みつこうかとも思ったが、唾液でぬるつき、歯の下から舌が逃げていく。仕方なく、私は男のしたいように接吻をさせ、口中を舐め回された。

 私は男に気持ちの悪い接吻をされながら、すべての自分の行いを悔やんだ。

 どうして夜二十時を過ぎてから外出しようと思ったんだろう? DVDの返却を明日まで待てなかったんだろう? どうして手足を晒した格好で歩いていたんだろう? 

 男がキュロットスカートのゴム部分に手をかけ、ひきずりおろそうとする。それを私は尻を強く地面に押しつけることで阻んだ。男が私の態度にいらだち、舌打ちをする。

「ふざけんな!」

 男が静かに怒鳴った。私はその声にひるみ、尻をあげようとするが、その前に男が腕を大きく振りかぶる。ぶたれる、と思って私が強く目を閉じたとき、透き通った第三者の声が場に響いた。

「なにしてんの?」

 男はその声に素早く反応し、体を起こす。私は自分の体に掛けられた重さが突然なくなり、慌てて呼吸をして、肺に空気を取り込んだ。

「ねえなにしてんの?」

 声は高く、透き通っており、そして私はその声に聞き覚えがあった。視界はペンライトの光に焼かれて見えなくなっているが、若い男が手にしているスマートフォンの白い光だけは感じることができた。

「そこにいるの、***さんだよね? ケーサツ呼んだよ。すぐ来るから」

 若い男は、スマートフォンを自らのほおに当て、携帯電話の向こう側にいる相手へ話し始めた。

「国道***沿いにある、ビルの駐車場です。はい、はい。あーそうです。場所わかりにくいと思うんで、オレ信号近くに立って誘導しますよ」

 暗い街灯の光が、スマートフォンの所持者を照らす。若い男はハルマだった。

 ハルマの態度は、この場所でただひとつ、揺らぎはせず、絶対に正しいものとしてそこにあった。うろたえることも、怒ることも、涙することもない。規律に定められたように、感情の濃さのない顔を浮かべていた。ハルマは通話を終えると、私と、私の身体の上にいる男に声を掛けた。

「ケーサツ、すぐ来るって。ゴーカンで通報した」

 男は、くそ、とか、いつの間に、とか悪態をついていた。私は男がどう出るのか見守っていたが、突然左ほおに衝撃を感じ、右のこめかみが地面にぶつかった。頬を強く殴られたのだ、と気づく頃には男はすでに駆けだしていて、私の脚の上には男の体温と重さの感触だけが残されていた。

「何なんだよ、オトコいんのかよ」

 男――というか、強姦魔の捨て台詞はそんなものだった。強姦魔は駐車場に止めていた自動車まで走っていって乗り込み、急発進と急ブレーキを繰り返すと、左折して国道へ出て行った。

 つまり自分は助かったのだ、と感じられるようになるまで、しばらく時間が掛かった。

 今までに体験したことのない出来事に、脳の処理が追いついていかない。私は男が去ったあとも、自動車が停まっていた場所を見つめながら呆けていた。


 私はついさっきまで、レイプされていた。

 しかしそれらは完遂することなく、男は志半ばにして、やむなく立ち去ることになった。


 ざり、と砂利を踏む音がして、私はそちらに目をやる。そこにはハルマが立っていた。ハルマはスマートフォンを握った右手をぶらさげ、左手はスキニーパンツのポケットに指を掛けている。長い足を持て余すように、身体がわずかに傾いでいた。

 私はハルマに、ありがとう、と声をかけるべきなのか迷った。というのも、ハルマは礼を言われたがっていないように見えたからだ。どちらかといえば、文句を私にぶつけたがっているような、不満を露わにした態度をしていた。

 私が思っていたとおり、礼を言う前にハルマが苛立った声を私にぶつける。

「言っとくけど、ケーサツなんて呼んでない。だるいし」

 彼の言葉に、私は詰めていた息を吐き出した。私は意識を張り詰めさせ、国道を走る車の中からサイレンの音を探していたのだ。

 ありがとう、と言わないといけない。と私は思う。

 私を助けてくれて、ありがとう。すごく怖かったんだ。殺されるかもしれなかった。あなたは命の恩人だよ。本当に本当に、どうもありがとう。

 しかしどの言葉も出てこなかった。代わりに私の口から出てきたのは、質問だった。

「なんで……」

 言葉はそれで終わった。それ以上は続かなかった。ハルマは私の問いに深くため息をついたあと、吐き捨てるように言う。

「車で国道走ってるとき、***さんが歩いてるのを見たんだよ。なんでこんな時間に歩いてるんだよ、ってなんかいらだってきて、引き返した。そしたらこうなった」

 ハルマは私に触れようとしない。それどころか、近づこうとさえしない。三メートルぐらい離れ、いつでも逃げられる場所で私の挙動を見ている。

 そして、ハルマは私の不幸をねぎらおうとはしない。むしろ、私の不注意さを冷静に裁く。大丈夫だった? も、怪我はない? もなく、温度のない声と態度で私に接してくる。

「ていうかさー今何時だと思ってる。真っ暗だろ外。なんで歩いてた」

「ごめん、ごめんごめんごめん……」

 私は両手で自分の前髪をつかんで強くひっぱり、頭を下げてハルマに謝罪をした。視界には乾いたコンクリートの地面と、ハルマが履いているスニーカーの靴先が映る。彼に顔をあげられなかった。それどころか、後退して彼から距離を取った。彼もさきほどの男と同じように、私に加害をしてくるのではないか、と怖くなったからだ。

 ハルマが私へ、そんなことをするわけがないのに。

「***さん、ユリが殺されたこと、もう忘れたの」

 ハルマの声は静かな怒気を孕んでいた。それらは駐車場に響かず、空間へこびりつき、まるで固体のように中空に浮かんでいた。私はうつむいたまま、ハルマの問いに返事をする。

「忘れてないです」

「じゃあ自分だけは大丈夫だと思ってたの」

 私は力なく首を振る。

 いいやちがう、ハルマの言うとおりだ。私は、自分だけは大丈夫なのだと思っていた。私だけは他の人と違って、夜道を歩いていても悪意に晒されず、敵意を向けられず、いつだって何事もなく家まで帰ってこられると思っていたのだ。

 気づけば、私は前髪を繰り返し引っ張っていた手を離し、首の後ろを押さえていた。例の腫瘍が、強く痛むのだ。うすい皮膚を隔てて、濁った体液がそこにたっぷりと溜まっている。そんな痛みだ。私は頭痛と腫瘍の痛みに耐えられなくなり、膝を折ってうずくまる。

 一刻も早くハルマにお礼を言わないといけないのに。

 そして、ここから立ち去らないといけないのに。

 黙り込んでしまった自分の姿が、わがままを言う小さな子どものように思えてきて、嫌悪感が募ってくる。そんな私の焦りを見透かすように、ハルマから頭上から声を浴びせてきた。

「ケーサツ呼ぶの」

 それはいかにも面倒くさそうな、投げやりな言い方だった。私は首を振る。本当は警察を呼んで、今あったことをすべて説明したほうがいいのだろう。男の再犯を防ぐためにも、私自身の安全を確保するためにも。

 しかし、この状況を説明したところで、私が警察から説教されることは明白だった。どうしてこんな夜に出歩いていたの。どうして肌を出すような服装をしていたの。あんな事件があったのに、どうして自らを危険にさらすようなことをしたの。そんな風に。

 膨れ上がった不快感が胃の底に溜まっていき、次第に私は呼吸を詰まらせていく。

「ごめん、離れて」

 私は唇を開き、ハルマに言った。気づけば膝を地面についていて、立てた親指を喉奥に突っ込んでいた。つづいて、自分の右手の平が温かな、胃液と唾液がまざったものに濡れる感触があった。

 駐車場に引かれた白線の上に、吐瀉物がまき散らされていく。その中には黄色いかけらが混ざっていた。それは多分、夕食代わりに食べたスナック菓子だろう。私は二度三度と吐き続け、吐き出したものは鼻からもでてきて、アスファルトの上に糸をひきながら落ちていった。

 うつむいた視界のすみで、吐瀉物が掛からないように後退するスニーカーのつま先が見えた。

 やがて嘔吐の波は終わったが、それでもまだ吐き気は収まらない。

 私は顔を上げ、ハルマに言う。

「あのさ、ごめん」

 胃液で濡れた指で、私は振り返り自分の後方を指し示す。

「本当に悪いんだけど、水を買ってきてください」

 そこには、駐車場に備え付けられた自動販売機があった。この寂れた暗闇の中で、それだけが白く輝いていた。

 ハルマは私の言葉を聞くと何も言わず、その場を離れる。あきれられて帰るのかと思ったが、ハルマの足は自動販売機の方へ向かっていった。私はうつむいて、吐瀉物を眺めながら、自動販売機に小銭を入れる音、ボタンを押下する音、取り出し口にペットボトルが落ちる音、それを取り出す音を聞いていた。やがてハルマが駐車場の砂利を踏みしめながら私の近くへ戻ってくる。ハルマは「どうぞ」や「ほら」といった合図の言葉もなく、動物に餌をやるみたいに、ペットボトルを私の手元に放るようにして渡した。私は吐瀉物に濡れた手でそれをつかみ、蓋をひねって開けて中身を口に含み、うがいをした。

 その後、私は再び嘔吐した。ハルマの視線を感じながら嘔吐をした。私はもう、ハルマにだったら呆れられてもいい、と思った。もともと好かれてなんかいなかった。今更落ちるところまで落ちた印象を良いものにしようなんて、そういう気持ちも湧いてこない。

 ひと通り吐き終えると、ペットボトルの水がなくなるまで口をすすいだ。アスファルトの上にどんどん嘔吐物とミネラルウォーターが混ざった水たまりが広がっていく。残ったペットボトルの水で両手をゆすぐと、すっかり不快感はなくなっており、むしろ吐いたことによる爽快感が訪れた。

 私は空になったペットボトルを、地面に置く。そして顔をあげ、ハルマにお礼を言った。

 ありがとう。

 しかし、もうハルマはどこにもいなかった。

「ハルマ?」

 私は力の入らない足でなんとか立ち上がり、駐車場を見回す。しかしそこには虚ろで広大な空間があるばかりで、誰もいなかった。

「ハルマ?」

 大きな声を出してみても、余計にしずけさが広がるだけだ。もうここにはハルマもいないし、男もいない。男が乗ってきた自動車もない。吐瀉物と、口をゆすいだミネラルウォーターがまき散らされているだけだ。

 私はブラウスの袖で、濡れた唇を拭う。なんなの、とつぶやいてみても、そのつぶやきを受け取って返してくれる者もいない。音はただ夜の空気にとけて、口にした先から直ちに消え去っていく。

私はかがんでペットボトルを拾い、自動販売機まで歩く。そして備え付けのゴミ箱に放り入れると、もう一本ミネラルウォーターを購入した。蓋を開け、手をもう一度すすぐ。そして濡れた指先で、首の後ろへ手を回し、腫瘍に触れる。

 熱を持つ患部に冷えた指先で触れると、とても心地よかった。私は次々と腫瘍に触れる指を代え、できるだけ冷たい指先で腫瘍を癒やそうとする。

 そうしながら、もう一本飲み物を買った。今度はコカコーラだ。取り出し口にかがんで缶をつかんだとき、それは指先が麻痺するかと思うくらい、しっかりと冷えていた。私はコカコーラを開けず、殴られて痛む左の頬に当てた。

 そうしてしばらく、首の後ろに左手を当て、左頬に缶を当てる、というおかしな格好のまま、自動販売機のそばでうずくまっていた。

 いくら待ってもハルマは戻って来なかった。もしかしたら車を持ってここに来てくれるかもしれない、という甘い期待をしていたが、それは見当違いだったのだろう。彼は本当に、私に声を掛けず、ろうそくの火のように、ふっと消えてしまった。

 彼は本当に、気まぐれのみで私を助けたのだ。そこには憐れみも良心もない。押しつけもなければ、思いやりもない。彼の中には私は「ゲロ女」とインプットされた、ただそれだけのことだ。

 ――もしも私がユリだったら、ハルマはどうしたんだろう?

 そのときのハルマの様子は簡単に想像できた。すぐに警察へ連絡し、また自らも強姦魔に立ち向かっていくだろう。それから傷ついたユリの身体を抱擁し、数え切れないほどの労りと謝罪の言葉をユリに掛ける。ユリはハルマの痛いほどの抱擁を力なく受け入れ、痣と傷だらけになった細く白い腕を力なくぶら下げるのだ。

 もちろんこの妄想に意味はない。ユリは死んでしまって、私は生き残った。

 ハルマが助けられなかったのはユリで、ハルマが助けたのは私なのだ。

 私はコカコーラの缶を一度地面に置き、右腕を前方に伸ばす。そこには強姦魔に掴まれた手の痕が残っていた。そしてユリのことを考える。私よりもひどいことをされた、ユリのことを。

 知らない男に殴られて脱がされ、胸をちぎられ、肉を引き裂かれたユリのことを。

 指先は乾き始めていて、腫瘍に当てても、もう気持ちよさは感じられなかった。今度は汗をかき始めたコカコーラの缶を腫瘍に当てた。頬の痛みは諦め、手のひらで覆って隠しながら帰路をたどることにした。感覚のない脚で立ち上がり、ポケットをまさぐりながら持ち物を確認する。家の鍵も、スマートフォンも、財布もある。ここに連れ込まれる途中でなくしてしまったipodとイヤフォンは見当たらないが、急いで必要とするものでもない。

 初夏の夜だというのに、身体の末端すべてが冷え切っているように感じた。とくにつま先が冷たく、凍えて縮こまっていて、足裏で地面を捕まえることができない。

 そのくせ、首の後ろと左頬が熱かった。それぞれ腫瘍と殴打による腫れで痛んでいて、傷自体が痛いと叫んでいるように思えた。私は缶を首と左頬に代わる代わるあてながら冷やし、癒やそうと試みる。

 そんな風に、感覚がバラバラになった身体をひきずりながら駐車場を出て、国道に出る。途中コンビニに寄って、湿布や水を買おうかと考えたが、コンビニの白い光の下で自分の顔を見る勇気も、見られる勇気もなく、諦めた。

 帰路をたどり、ようやくアパートに着いた頃、時間は二十二時を過ぎていた。そして私はベッドにたどり着くこともできず、ドアの鍵とチェーンをかけたとたん、玄関の三和土に倒れ込んだ。頭の中は疑問と不安で満ちていた。

 どうしてハルマは私を助けたんだろう? あのときハルマが来ていなかったら、私はどうなっていたんだろう? ハルマはどうして、私になにも言わず立ち去ったんだろう?

 男は私を殺すつもりだったのだろうか? 男と、ユリを殺した犯人は同じなのか? 男はもう一度私を狙うだろうか? この玄関を開けて、ここまで私を襲いにやってくるだろうか?

 三和土の上は砂利と埃で満ちていたが、それでもサンダルを脱いで上がる気力が起きなかった。冷えた手足は冷えていくまま、汚れた身体は汚れたままでここにある。

 身体がどんどん重くなっていくのを感じると、私はそのまま眠った。眠った、というよりは意識を失ったのかもしれない。

 次に目が覚めたとき、何もかもが夢でありますようにと、そう強く願った。

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