第44話 ダンジョンは物真似で攻略するものです
落ち着くのよ、ティラミス。私は最愛のお兄様を二番目に大好きなラメーン様に託すことを決意し、お兄様が心置き無くお嫁に行けるよう次期当主の座を必ずやゲットしなくてはならないの。今は正念場だわ。きっと私、運命に試されているのよ。大丈夫。きっとできる。ダンジョンなんて、魔物がうようよ居ることぐらいしか知らないけれど、きっと全て上手くいくわ!
そう心の中で唱えた私は、おそるおそる指先から放たれる光を頼りにダンジョンがある地下へと降りていきました。
しばらくは歩きやすい平らな石造りの床が続いていましたが、五分ぐらい歩いたところで突如それが途切れます。土の地面が広がる、大広間のようなところに出たのでした。さらに、闇の中には紫や黄色の光るものがいっぱい! これは、魔物です。
「もうっ、私、急いでますのよ? さっさと道を開けてくださいな」
私は震え声で魔物達に語りかけました。さっさとこんなダンジョンはクリアしてしまって、レバニラ様のところに戻らねば。そして魔法陣を研究して、ルーツポンチに帰ったら魔物園も作らなければなりません。魔法陣を広めるための学校の設立も必要かしら? それから……
あれ。もしかして、私、超忙しい!?
でしたら、一刻も早くここを切り抜けてボス部屋まで行かねばなりません。
私は、先日お父様と対峙した時の感覚を思い起こしつつ、全身から魔力を放出させます。けれど、あの時のように無駄に大量の魔力を垂れ流すことはいたしません。頭の中で、魔物を苦しめて倒すイメージをしっかりと思い描きます。
「あなた達みたいな低級魔物は、私が蹴散らしてくれる!」
するとどうしたことでしょう? 辺りに潜んでいた魔物達は綺麗さっぱり消えてしまいました。ダンジョンの魔物って、倒されると身体そのものが消滅してしまうのですね。中には、
大広間を突っ切ると、大きな扉が待っていました。手で押し開けると簡単に開きます。その向こう側は、全く違う景色が広がっていました。草原です。地下にいるはずなのに、なぜか昼間のように明るく、天井は白く霞んでよく見えません。見渡すと、中型の魔物が近づいてきました。確かあれはオーク。ゆっくりとこちらに近づいて、飛びかかるタイミングを見計らっているようです。
私、冒険者にはなったものの、実戦経験なんてほとんど無いのです。それに今は一人きりで、相手の魔物はたっくさん。
「お願い。あっち行って」
涙目になりながらオークに向かって懇願してみましたが、案の定言葉は伝わりません。そこで、私ははたっと気づきました。もしかして、もしかすると。
「そこのオーク! お前のようなグズはいらん。失せろ!」
私が強い調子で声を出してみると、オークは数本後ずさりしました。どうやら私が強気になると、私から自然と放たれる魔力が強くなり、相手を怖気づかせることができるようなのです。ちなみに今のは、以前ギルド内で見かけた冒険者のオジサマのお言葉です。パーティー内に大きな亀裂が走り、崩壊した瞬間を私はたまたま見てしまったのでした。
そうだ。他の人のも試してみましょう!
「いざ、参らん!」
これはラメーン様の物真似です。ラメーン様はわざわざこうして相手に声をかけてから攻撃に出ることが多いのですが、これはかえって相手に有利になっているような気がするのは私だけでしょうか? 私ならば、何も言わずに神速で相手の背後を取り、バッサリ行きたいところですわ。
私はラメーン様のように剣を持っていませんから、代わりにノコギリを取り出して振り回してみました。もちろんノコギリには魔力を纏わせています。草原を走り抜けながら暴れてみると、襲いかかってきた魔物をズッタズッタと斬り捨てていきます。なんだかストレス解消になりますわね。お陰様で、絶命した魔物の山ができあがりましたわよ?
と、再び辺りを見渡すと、次の扉が見えてまいりました。開けてみると、今度は灼熱地獄。一応道はあるのですが、岩山の断崖絶壁の場所の細道であり、足元に目をやると、遥か下の方にグツグツとマグマを吹き上げる赤いドロドロの沼が見えます。一歩踏み外すと、ジ・エンドですね。
実は私、こんな所までやってくる予定は元々ありませんでしたから、ローヒールの靴を履いているんですよね。さすがにこのまま歩き続けると、疲れも溜まっているので危険です。となると、アレしか無いでしょう!
「魔力ってサイコー!!」
はい。私、お空を飛んでいます。足の裏に魔力を集めて、宙に浮いているのです。これで岩山の上の魔物とは戦闘せずに済むのですわ! と、油断してはいけません。なんとここには、飛ぶ魔物もいるのでした。
じゃ、彼女の真似をしてみましょう。
「そんなに踏みつけてほしいの? いいわよぉ? ちょうど誰かを痛めつけたい気分だったの! さぁ、喜びなさい! これが愛の鞭よ!」
これはラザニア様の物真似ですね。ちょっと妖艶な笑みを浮かべてミニスカを履いていたならば、さらにソックリになったはずです。私は魔力を鞭のように長く引き伸ばして、飛んできた鳥のような魔物に打ち付けます。魔物はボトボトと赤い沼に落ちて、再び浮かび上がってくることはありませんでした。
しばらく飛び続けると三つ目の扉が見えてきます。私は足裏の魔力を消して、扉を押し開けました。あら、今度は雪山です。ブルブルブル。寒いですわ。
などと、様々な空間を渡り歩くことおよそ三時間。分かったのは、お父様の物真似はあまり威力が出ないということ。そして、最強はお母様でした。お母様の物真似はですね、お下品でエッチな言葉を連発する所謂『言葉攻め』が中心ですから、省略させていただきます。うふふ。
そして私は、ついにボス部屋の前に来ることができました。このダンジョンって本当に親切。入口もそうでしたが、ここも古代チャンプルー語で『次はボス部屋』って書かれてあるのです。
では、入ってみましょうか。魔力はまだ十分にあります。負ける気はさらさらございませんわ!
お兄様のためならば、手段を選んでいられません! 山下真響 @mayurayst
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