第85話 狂腐が産まれた理由
「教えて下さい、さっちん様。
その『狂腐』とは、どのような力なのでしょうか?」
ミルが真剣な顔つきでさっちんに質問した。
「文字通り『狂い腐らせる力』です。
しかも対象となるのは『物質』だけに止まりません。
『魂』や『
魂や
聞く限りマズい力であろうことは理解出来るんだが…
スケールが大き過ぎて、今いちピンと来てない俺だったりする(汗
「(ホント世話の掛かる人ですねぇ)
ではシュウイチさんにはこう説明しましょうか。
このテラクラムが『ゲームの世界』だとしたら、狂腐は『ウィルス』であり
『バグとデリートを引き起こす力』であると。
これなら理解できますか?」
それはもう、すごく理解しやすいです!
何度でも言うが、前世はオタク的な男でしたから。
…って
「マジでそんな力が現実にあんのか?
だとしたらめちゃくちゃ怖えぞ?
もし今俺が感染したとしたら、種族や性別が変わったりとか、
今までと違う動きをしたりとか、表示が乱れてフリーズした…」
表示が乱れて? あ、だからか?
しゃべっている最中に急に閃いてしまった俺!
「ロード・ブレーゲルがヴァンパイアからかけ離れた姿になったのは、狂腐に
感染して表示(つまり姿)が乱れてしまったからなのか?」
俺の回答に満足そうに頷くさっちん。
「ようやく判って貰えてきたみたいですね。
出来の悪い生徒に教えるのはホント大変です」
『┓( ̄∇ ̄)┏やれやれ』
↑てな感じで話すさっちん(怒 悪かったな!
「ゲーム世界と言ったのは例えですが、ブレーゲルの変貌については
シュウイチさんが仰ったようなものです。
つまり現実にあるのですよ。
そんな恐ろしいデータウィルスのような『力』がね」
確かにそれは脅威すぎる!
「あの!さ、さっちん様っ!」
横で聞いていたミルが割り込んできた。
「さっちん様は今のヴァンパイア領の状況がお判りになられるのですよね?
どうか教えて貰えないでしょうか?
あの方…私がお世話になったエルダーヴァンパイアさんは
まだご無事でいますか?」
真剣な顔でさっちんを見ながら質問するミル。
「ええ、ご健在ですよ」
その返事にまずはホッとするミル。
けどまた真剣な表情に戻しさっちんに聞いた。
「すみませんさっちん様、もうひとつだけ教えて貰えないでしょうか?
言わなくてもご存知かと思いますが、そのエルダーヴァンパイアさんは
ブレーゲル様の寵愛を受けて唯一残っているヴァンパイアです。
あの方もその『狂腐』とやらに感染しているのでしょうか?
ブレーゲル様と同じように、いつかは変貌してしまうのでしょうか?」
…ミルが真剣だったのはお姉ちゃんが理由じゃなく、そのお世話になったエルダーヴァンパイアさんが心配だったからなの?
しかもそのヴァンパイアさん元ブレーゲルの妾で唯一の生存…じゃなく(アンデッドだからややこしい!)残者だと?
なんでそんな女性が、ミルパパの属下に変わってんのさ?
ミルパパがイケメンだから乗り換えたとか?(怒)
「ミルさんがお世話になったエルダーヴァンパイアさんなら大丈夫です。
狂腐が本格化する前にロード・ブレーゲルから離れましたからね」
さっちんの回答にホッとするミル。
「よかったなミル」
「はい!」
うむ!美女の安心した笑顔はいいね!
しかし…
「なあさっちん。
ヴァンパイアロードの寵愛を受けた女性が、そいつの眷属から外れて
別のロードに寝返るなんて事が可能だったのか?」
気になった事をすかさず聞いてしまう俺(w
「いえ、普通は無理ですよ。
ただミルさんがお世話になったエルダーヴァンパイアさんは色々と
込み入った事情があったから出来たのです…
まあ、機会があればお教えしますよ。
(今話したら、絶対食いついてきて時間が足りなくなりますからね)」
ちぇ、残念。
なんかそのエルダーヴァンパイアさんが気になって仕方ないんだけどな。
なんつうか、俺のセンサーが鳴り響いているような?
「(無駄に鋭いですね。でも教えないですよ!)
さてこの『狂腐』ですが、偶然感染する力では絶対ありません。
ではどうしてロード・ブレーゲルが狂腐に感染したのかと言いますと…」
「言いますと?」
「他でも無い『彼自身から生み出されたから』なんです。
必要以上の大量の血、つまり腐った人族の血を吸い続けた為に、ね」
… … はぁ
ついため息を吐いてしまった。
またか。ここでもまた人族が原因として関わってくるのかよ。
想像以上のこの世界の人族のヒドさだよ。
ヴァンパイア信者や教会といい、シュワンの家族やジャスティス家の執事メイド達といい、ホントにまったくもう…
なんか、アタマが痛くなってきた俺だった。
※ ※ ※
「シュウイチさん、この狂腐発生は人族だけが原因ではないのです。
ブレーゲル自身にもかなり問題があったからなんですよ」
別に俺に気を使ったワケではないだろうが、さっちんが補足してきた。
「ブレーゲルは強欲で、何でも欲しがるヴァンパイアだったんです。
他の魔族やヴァンパイアの所有物であったとしても、気に入れば
『
おお、異世界&ヴァンパイアにも居たんだな。
いわゆる『ジャ⚪アン』的な奴が(w
「更にブレーゲルはロードになっても頻繁に、男女問わず人の血を
吸い続けていたのです。
この時点でもう彼は、普通のロードとは離れていたと言えますね」
ふむ、ブレーゲルは男の血も吸っていたと…
つまりはどちらもOKな両刀使い(?)ヴァンパイアだったのか(w
でも『普通のロードとは離れていた』って事は、ロードになったら同性の血は吸わないのか?
「ええっ?ブレーゲル様はロードになられても頻繁に血を吸って
おられたのですか?」
横からびっくりした声が発せられた。もちろんミルだ。
「なんでそんな驚くんだ、ミル?
ヴァンパイアなんだから血を吸ってもおかしくは無いんじゃないのか?」
「シュウイチ様、確かにグールや
ですが上級ヴァンパイア、特にロードの場合だと違ってくるんです」
ミルが美しい顔をこちらに向けて説明してきた。
「上級ヴァンパイアは下級ヴァンパイア達ほど血を吸いません。
吸わなくても配下のヴァンパイア達が人から血を吸い、取り込んだ力
(生命力や魔力)の一部をパスを通じて献上してくれるからです」
なるほど、手下達が力を貢いでくれるワケか。
「また上級ヴァンパイアは触れるだけで生命力を吸える
エルダーやロードに至っては、ノーライフキングと同じように
狙った生物に近づくだけで吸精が出来てしまいます。
その為、更に血を吸う必要が無くなるのです。
…ちなみに私が食堂近くに居たのも、食堂内に集まった人達から
そ、その…軽く吸精をしていたからなんです…
普通の人より、お腹がその…空いてしまうので…」
あ、なるほど!
だからあんなへんな場所にミルは居たのか!
(あと、食欲はけっこう旺盛なんだな♪)
…あれ、まてよ?
ってことは、離れた場所から吸精が出来るミルは、半吸血鬼人でありながら既にエルダーヴァンパイアと同等って事じゃ…(汗
「あ、話を逸らしてしまってゴメンなさい。
つまりですね、ロードは血を吸う回数は少なくなるはずなのに、
『頻繁に血を吸っている』というのは、どう考えてもおかしいんです」
なるほどね
「確かにその説明を聞くとおかしいな。
という事は、何らかの理由があったってことだよな」
俺はその回答をさっちんに求めた
「はい、ありました。
ブレーゲルがロードになっても血を吸い続けていた理由…
それは彼が『特別な嗜好』を持っていたからなのです」
「特別な嗜好?」
「はい。
私もシグリーシャ様から頂いた知識と記録だけでの説明になるのですが、
まず血にも『味』の違いがあるそうなんです」
味?そりゃ血にも味はあるだろうが、違いなんてあるのか?
『ドロドロ』と『サラサラ』の違いならあるだろうが…
「シュウイチさんは説明を受けましたよね?『魂元素』のことを。
人族も魂元素を取り込み生命力や魔力などを作成してます。
作成された力は、血と一緒に体中を循環しているわけですが、
その力に『味』があるらしいのです」
「一緒に循環している生命力などが、血に『味付け』をしてるってことか」
「そういうことです。そして力が『魂』で作成されている以上、
必然的にその味も『魂』に左右されるワケなんですが…」
あー、何となく判ってきたような気がする…
「ブレーゲルは心が腐っている人…例えば『他者を苛めて楽しむ』とか
『人が⚪されるのを見るのが幸せ』とか、
そういったクズの血が好みだったのです」
「やっぱりか!最悪の嗜好だな!」
肉なんかは腐る直前が美味いとかって前世で聞いたような覚えがあるが、生命力とかもそうだっていうのか?
「そのクズの血というのは、他のヴァンパイアにとっても美味なのか?」
「いえ、ブレーゲルだけのようです。
他のヴァンパイアはシュウイチさんのご存知の通りの嗜好、
『純潔』で『清らか』な乙女の血こそ極上だと言ってますね」
「じゃあブレーゲルだけが特別な『ゲテモノ好き』ってワケか」
「そうなりますね。
でもこれだけにとどまりません。彼はこういったクズが絶望した時の、
要は『ざまぁ』になった時の血が一番好きだったようです。
最後の表情と感情とが、クズの血を更に美味しくさせるとかで…」
…ゲスの極みだな
「我慢を知らない強欲ヴァンパイアと、そのヴァンパイアの
大好物である腐った人族がたくさんいたからこそ産まれた、
人とヴァンパイアのコラボ結晶が『狂腐』ってことか…」
そんなコラボが何千年と続いたのなら、狂腐が産まれても不思議じゃないわな。
『こらぼ?』
知らない言葉を聞いて首を傾げるミル。
「身も蓋もない言い方ですが、まあそうですね」と肯定するさっちん。
「まあいいや。
狂腐の恐ろしさは何となくだけど理解したよ。
でももうシグリーシャが消してくれたんだろ?なら問題ないじゃんか。
そう簡単に産まれる力でも無さそうだし…」
「ならよかったんですけどねぇ。
狂腐は言葉通り『狂っている』ので、予想外の事が起こりやすいのです」
不吉な台詞を呟くさっちん。
辞めてくれそういう台詞は!
「別にアレを倒して~」
「俺、この戦いが~」
みたいな、変なお約束フラグが立ちそうで嫌じゃんか。
「フラグでは無く既に起こってしまった出来事なんですよ。
ヴァンパイア領が出来てから450年(領外なら4500年)ほど経過した時に、
旧ブレーゲル城近くに何の前触れもなく、突如出現したんです。
異世界の『狂腐の塊』がね」
マジかよ!?何故?
「マジです。そして理由なんて分かりません。
一番高い可能性としては、テラクラムで産まれた狂腐に惹かれて
やって来たというのがシグリーシャ様の見解ですけどね」
憎しみが新たな憎しみを生むように、狂腐は遠くの狂腐を引き寄せるとでも言うのか?怖えぇえっ!
「それで、そん時ヴァンパイア達はどう対処したんだ?」
その問いに答えたのはミルだった。
「あ、あのシュウイチ様。その時は私も居ました。
そして遠くから見てましたけど、
ロードも含めたヴァンパイア達は、何もする事が出来ませんでした」
何だと!?
「むしろ近づく事すら出来ませんでした。
その横幅五メートル高さ八メートル程のドス黒い柱に。
近づくと先程さっちん様に見せて頂きましたブレーゲル様のような…
いえ、それ以上の『不愉快な感じに襲われる』為に近づけ無かったんです…」
あのブレーゲルの映像に感じたあの不愉快な感じか!
「でもゴブリンやコボルトのような弱い魔物は逆に近づいていきました。
そうしたら…」
「そしたら…どうなった?」
「その、う、上手く説明が出来ませんが…
まず体が『変異』しました。
目が急に小さくなったりとか、口が無くなったりとか様々で…
あと、急に消滅したのも居ました」
うわ、正にそれってウィルス感染したバグキャラ表示じゃんか!
「それから変な行動を…小刻みに震えたりとか後ろ斜めにゆっくりと
その、歩くというか『ズレていく』行動をしたりとか…」
それもバグったキャラの動きそのまんまだ…
狂腐はまさに世界の『リアルウィルス』だ。
ならばテラクラムに存在する何であろうと、対処なんて出来るワケがない…
「それで、その塊は結局どうなったんだ?」
「すぐシグリーシャ様が降臨して下さり一瞬で消し去ってくれました。
私はその時に初めてシグリーシャ様をお見かけしたのです」
ああ、この出来事が起きたからこそ、ミルはシグリーシャの顔を知ってたのか。
けど、さすがシグリーシャ♪
ヴァンパイア達が近づけない狂腐ですら一瞬て消すとはな。
あと管理神としての仕事も、以外にちゃんとこなしてたんだな(笑)
[💢!]
ビクッ!
い、今なんか狂腐…もとい恐怖を一瞬感じたけど、気のせいだよな?(汗
とにかく落ち着いて正面を向くと、『可哀想に』とでも言いたそうな表情のさっちんと目が合った。
「…なんだ?もしかしてまだ何かあるのか?」
「ふふ、大正解です♪
実はもう一つ、予想外の出来事が起きたのです。
異世界から現れた狂腐を独自に研究して、
ついには小さいながらも疑似の『狂腐』を産みだし、その力で自らを
半吸血鬼人から不死王へと変えてしまった天才がいたのです」
それって当然…
そのさっちんの話に、ミルが勢いよく立ち上がり震えながら呟いた
「まさか、そ、それが、ニルお姉ちゃん…」
さっちんはコクリと頷いたのだった。
**********
=作者あとがき=
作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。
相変わらず更新が遅くなってスミマセン。
そして相変わらず上手く書けずスミマセン…
また今回は結構な長文になってしまいました。申し訳ありません。
いや~、やっぱりスマホは書きにくいです。
早く新しいノートパソコンが欲しいです…
作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。
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