第78話 この世界のヴァンパイア 2
さっちんから聞いたヴァンパイアの話は実に魅力的だった。
おそらく前世の一億人の同志たちも、こんな話があったのなら結構な人数が受けるのではなかろうか?
だってモテない男たちからしたら、未経験のまま独身で終わりるより美女とのエッチ&ヴァンパイアへ転身できる可能性に賭けたいと思って当然だからな。
でも、俺にはなぜそれが結界に繋がるのかが判らなかったので、引き続きさっちんに説明を求めた。
「色々と理由があるんですよ。
まず神族からしたら、いくら人族が望んだからと言ってもヴァンパイアに血を
吸われるのを止めざるを得ないのです。
なぜなら、血を吸われた人の半分近くは屍鬼(グール)になるからです。
グールについてはシュウイチさんも前世の知識で多少知っているかと思います」
「ああ、確かヴァンパイアに血を吸われた人の成れの果ての魔物だよな?
顔とか体格が『化物』に変わるタイプもあれば、ほとんどゾンビと変わらない
タイプもあって、人だけを襲うとかじゃなかったか?」
「はい、この世界のグールは後者で、ゾンビにほぼ近い感じですね。
皮膚は変色していて、知能や意志はありません。
ゾンビと違うのは一応グールもロード支配下の存在となるのでそれなりに身体
は修復されて人の形を保っている点と、ゾンビより早く動くことができて、
亜人を含む人だけを襲う点です。
ゾンビなら動物でも魔物でも生物なら何でも襲いますからね。
そしてグールに襲われて命を落とした人の半分くらいは、またグールとなって
別の人を襲うんです」
うん、まさに俺の知っているグールだな。
どんどんねずみ算式に増えていくという。
「グールにならなかった残り人のほとんどは、シュウイチさんが前世で好きだった
ゲームに近い終焉を迎えることになっちゃいますね。
『身体は(灰ならぬ)塵化して、魂は
こうして血を吸われた人は悲惨な末路を迎えますし、残りは人族の世界に
アンデットを拡散増大していく存在になってしまうから止めたいワケです」
うわ、確かにそれは問題だな・・・・
ヴァンパイア化を望んだが叶わず消失してしまった人に対しては、申し訳ないが自業自得だし本望だろうと思うけど、それで他に迷惑を掛けるのは違うよな
「そうだったのか。
じゃあさっきの美女達が力の一部を分け与えて『美形なヴァンパイアへ転身』
っていうのは、信者を集める為のデマに過ぎないってことか」
「いえ、それが完全な嘘というワケでもないんです。
だから神族も『ヴァンパイアの言っている事は嘘だ』と言えなかったので、
なかなか説得が出来なかったんですよ・・・・」
ため息を吐くさっちん。
「例えばシュウイチさんが血を吸われていたのなら、
転身直後からほぼロードと同等のヴァンパイアになっていたでしょうね。
要は魂力なんですよ」
またまた出た、自覚の出来ない俺の魂力。
だって自分じゃ見れないし感じられないので判らんからなぁ・・・・
「じゃあ何か?
いま仮にミルに血を吸われたのなら、ロードに匹敵する力を有する
ヴァンパイアになれるのか?」
「ええ、なれますね。
とてつもない魔眼と魔力をもったヴァンパイアにね」
ピキーン!
今のさっちんの台詞を聞いて、俺の中にひらめくものがあった。
とてつもない魔眼!?
それは正直ちょっとだけ憧れたりする!
転生モノでは村一番の美女とか美人女僧侶とか領主の美しい娘とか、
とにかくナイスバディのヒロイン的美女との出会いがよくある。
(まあ、俺は既にミルと出会ったが・・・)
そこでだ!!
そういった美女と出合ったときに魔眼さえあれば・・・
『キラーン!』と目を輝かせれば、出会って5秒ですぐ美女の目がとろーんとした状態になって寄ってくるわけだ!(これだけでもかなり萌える!)
そして近くに寄ってきた美女の胸をゆっくり揉みまくる!
そんなことをされてもまだ『とろーん』とした表情の美女にキスをして・・・
『ムフフ』的なことがすぐできるワケだ!
「(よく妄想に入りますね、この男は!)
ではヴァンパイアになりますか?
ちなみにこの世界のヴァンパイアも陽の元では動けませんけどね。
あとそうなった場合、私もこのネットルームも消えてしまいます。
だってシュウイチさんは望んでミルさんの傘下になるわけで、
『シグリーシャの使徒』を放棄することに繋がりますから」
・ ・ ・
うむ、止めておこう!
ネットルームが使えなくなるのは困るし、さっちんが消えるのも嫌だ。
ちょっと惜しいけど、でも俺はこの世界ではちゃんと自分で口説いてエッチしてやるぜ!
「まったくもう・・・・
(でも私が消えるのが嫌と思ってくれたことは嬉しいですね!)
続けますよ?結局そういった事を知らないヴァンパイア信仰の男性達が、
止めようとしてやって来た神族や神族の使いに反発したわけです。
『お前らには関係ないだろう?』
『なら神が美人の嫁を俺に与えろ!』
『そこの天使のお姉さんが俺の嫁になれ!』
とか、もう無茶ばかり言うわけですよ。それこそ先ほどから都合のいい
妄想ばかりしている誰かさんみたいな人がねっ!」
グサッ!(心に大ダメージを受けた)
うう、ごめんなさい。確かに俺なら言いそうだ・・・・
さっきも思ったことだが、俺が初めからこの世界に生を受けて恋人も出来ずに過ごしていたのなら、やっぱりヴァンパイア転身に賭けてみたいと思っただろう。
だって、この世界にはネットとかパソコンなんて無いからな。
前世ならネットで好みのA○女優とかを探せるし、そういった女優の動画やDVDで発散出来たからまだマシだが、でもこの世界にはないからな。
そうなるとやっぱりヴァンパイアとはいえ美女とエッチできるというのは魅力的すぎるだろうし、ましてそれを神に止められたのなら『なら神が俺に美女を~』とか間違いなく言ってそうだ(汗
「テラクラム各所にある人族の場所で、たくさんの男達がそう思ったんですよ。
そして止めようとした有翼人や天使と敵対したのです」
「そうなってしまうだろうなぁ・・・・
ところで、有翼人と天使って違うの?」
「ええ、有翼人は心綺麗な方が多い白い翼を持つ亜人で、
言うなれば『天使予備軍』的な存在です。
その有翼人が神核化したのが天使で、さらにそこから神格が上がっていって
天使→上級天使→大天使→下級神→中級神→上級神→神(大神)となります。
まあ大天使の中には上級神以上の強さを持つ方も居ますので絶対ではないです
けど、おおむねこの順番です。
ちなみにこの天使からが『神族』になり『天界』に住んでますよ」
そうなのか。だから有翼人は『神族の使い』になるのね・・・・
あ、じゃあ有翼人は普通に地上界に居るということだな。
絶対にいつか会いに行こう。
「また話がそれましたけど戻しますね。
そして、ここからがややこしくなっていくんです。
さっきもいいましたが有翼人や天使が説得しにいったのですが聞き入れて
もらえず、逆にヴァンパイアやその眷属との戦いの邪魔をされ、
そのせいで怪我したり殺されたりした天使や有翼人の方も多かったのです。
また中には美しい天使や有翼人もいますので・・・・時にはなんというか・・・・」
ああ、最後まで言わずとも判ってしまったよ・・・・
つまり魔族と一緒に人からも襲われて『集団レ○プ』みたいな事をされてしまったわけだな。
「そうなんです・・・・
そうすると、今度は被害にあった有翼人や天使やその友人などが思うわけです。
『人族なんか守る価値ない!』とね」
「そう思って当然だな。
せっかく世の為人の為に忠告したのに、その対象の人族に邪魔された上に
ヒドイ目にあわされたんじゃな・・・・
その天使たちを陵辱した信者は罰を受けて当然だと思うけど、でもそれでも
人族全員がヴァンパイア信者ってわけじゃないだろうから、
人族全てを守る価値がないって決め付けるのは違う気がするけどな」
「シュウイチさんならそう思うのでしょうね。
でもですね、中級神クラスが出向いてその当時にあった国の王族やら領主に
何度もお願いしたのにも関わらず、結局は何年も住民を管理する事ができず、
ヴァンパイア信者増大を止められなかったのですよ。
逆に王族や領主は『手を貸してほしい』という名目で、天使や神に金銭や
神法が掛かった武具を要請したり、時には口説いたりしたくらいで・・・・」
「アホだ・・・・
それほど昔から、この世界の人族はアホだったのかよ」
「ええ。
まさにそういった面も合わさって、被害にあった天使たちやその主張に共感
する仲間がどんどん堕天していったのですよ。
神は邪神に、天使は堕天使に、有翼人は黒翼人へといった感じで神族から
離れて、神にも人にも敵対する存在になっていったのです。」
あちゃあ・・・・
でもこんな人族を守る神族なんてやってられるか!と思われても当然だよな。
「こうして被害がどんどん拡大していったのです。
ちなみにヴァンパイアロード達はそんな神族や人族を見ては楽しんでいました。
魔族にとって最高の愉悦ですからね」
ちらりとすこし前に戻ってきて一緒に話を聞いていたミルを見ると、申し訳なさそうに俯いていた。
「そんな状態が数百年続いて、人族の数が減少しヴァンパイアの勢力が増大して
いったので、ついに主神ベルゼスト様が決断して動きました」
おお、ここでついに主神までもが登場するのか!
早く続きを話してくれてと、俺はさっちんに促したのだった。
**********
=作者あとがき=
作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。
いま修一・・・・じゃなくて週一で病院に通院中です。
やはりまだ体調が良くなくて・・・・コロナではないですけどね。
皆さんも体調には本当にお気をつけて!
作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。
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