第64話 遭遇 執事編

 さて、元シュワンの部屋でやりたかった事も終わった。


 食堂では朝食の配膳が開始されている頃だろう。

そろそろ食堂に行かないとな。


 また少しだけ緊張してきたけど、まあ大丈夫だろう。

『よっしぁ』と気合を入れなおして先程の階段を降りたところで・・・・


『ピロリロリーン!』と、注意を促す警報音

 

 ・・・・


 『はあ~』と、ため息が出る

何で「いざ」とか「さあ」って時によく茶々が入るんだろうな?

なんていうか、『買い物に行こうと外に出たら急に雨が降ってきた!』

みたいな?


 呆れていたら、階段近くにあるドアがゆっくり開きはじめたのに気づいた。

俺はとっさに、階段真下の空いているスペースに隠れた。


 シュワンの記憶だと、あそこは物置で普段は入ったりしない場所だ。

なんでそんな場所のドアが?


 隠れて見ていると、執事とメイドが出てきた。

周りを確認しながら出てきて、身なりを整えている。

俺には気づいていないようだ。


 状況から見て、こいつらあの物置で朝からさかっていたか、

もしくは『ゆうべはおたのしみでしたね!』だったんだろうな。


 まったくもってうらやましい!


 けど、次の瞬間・・・・

俺はそのうらやましい色男の顔をしっかり確認した途端に、固まった。


 何故なら、こいつは以前「家畜が入り込んでいる」とか言ってシュワンを殴ってきた奴だったからだ。その事を思い出して、怒りとも苛立ちとも取れる感情が込み上げてきて固まってしまった。


「これはちょっとマズイですね。寝過ごしたようですよ、ツミノキさん。

 他の執事やメイドが全く見当たりません」


「昨晩寄り道したこの部屋でオリカンが興奮して遅くまで『しちゃった』

 からでしょう? まあ、私も興奮してついつい受けちゃったんだけどね♡」


 ・・・・ちくしょう。実にうらやましい会話までしてやがる・・・・


 執事の方の名は「オリカン」と言うのか。

そして良く見ると隣りにいるメイドにも見覚えがあった。

シュワンがこのオリカンとか言う執事に殴られていたのに、何もせず無視していたメイドの1人だ。前は肩まで伸びてる髪を整えていたから気づけなかった。

「ツミノキ」って名か。よく見るとまあまあの顔だな。


 話の内容からすると、昨晩はここで『らぶらぶ』してたってか!

部屋でやれよ!まったくもってうらやまけしからん!(本心ダダ漏れ)


 ふぅ・・・・ 俺はまた深呼吸して心を落ち着かせた。


 そうだ落ち着け俺。こういうときは一旦落ち着いて現状確認からだ。

まず急いで食堂へ行きたいが、だからといってこいつらを見逃すワケにはいかないよな。

何故なら、シュワンの記憶を持つ俺からすればこいつらも報復対象だからだ。


 出会ってしまった以上は、報復するべきだろう。


 可能なかぎり早く終わらせて食堂に向かう。これがベストだな。

ただ、いきなり出て行って『ぶっとばす』というのは、さっきのメイド達にも思った事だが、何か違う気がするんだ。


 だからまずは『俺』自身が、あいつらと話をしてみてからだな。

どの程度まで『ぶっとばす』かは、その時のあいつらの態度次第で決める。


 うん、これでいい。

 

 よし、じゃあいくか!



 俺は階段の隅から出て行った。



 ***



「良き朝に感謝を!こんな所で何しているんだ?」


 内心はどうであれ、まずは朝の挨拶をきちんと元気にする俺。

挨拶は大事だからな。


 オリカンとツミノキはびっくりしてこちらを見たが、

その後あきらかに安堵していた。


「びっくり致しましたよ。

 まったく、汚い家畜が気安く話しかけてこないで欲しいですね」


「ホントよね。

 あ、でもこのクソ豚を躾けていたって事にすれば、

 グリトラ様に言い訳できるんじゃないかしら?」

 

「おお、それは良い案ですね。ツミノキさん!」


「そうでしょう?じゃあ早く片付けてよね♪」


「お任せください!」

そう言って拳を固めるオリカン。



 ・・・・


 俺は呆れた。

さっきのメイド達といい、こいつらといいまったく・・・


 どうして仕えている立場で、平気で暴力や暴言を振るえるのかな?

王家に例えるなら王子に手を上げるのと同じだと考えられないのか?


 でもまあ、予想どおりといえば予想どおりなのかな。

元々『ぶっとばす』予定ではあったんだ。

これで遠慮なくそれが出来るってことだ。


(我が管理神よ!【プロテクション】)

俺はパスを繋げてプロテクションを掛けた。


「勝手に入り込んできた醜い家畜め!」

オリカンが迫ってきたので、俺は両腕で顔をガードすると

彼は腹を殴ってきた。


 ドス!ボコ! 

オリカンの拳が俺の腹に何度も直撃する。



 が・・・・全く痛くなかった。当り前だけどね。


 

 プロテクションのおかげではあるが、プラスして俺自身が鍛えられたからってのもかなりあるだろう。

あとは前からあったシュワンの脂肪かな(笑



 すぐに反撃してもよかったが、俺はそのままオリカンに殴られ続けてやった。

別に痛くないし、こうなると心の余裕も出てきたからな。


 あと、ちょうど聞きたい事も思いついてしまった


 よし、その質問の返答でこいつらの運命を決めてやるか。

まずは心の中で【センスライ】を掛けてから、彼らに問いかけた。


「いいかげん止めてくれ、オリカン。

 以前は仲良くしてくれただろう?なのに何故こんなことをするんだ?

 そこのメイド、確かツミノキと言ったか

 ツミノキも以前は優しくし接してくれたじゃないか。

 なんで急に冷たい態度に変わってしまったんだ?」


 これが、さっき思いついた『聞きたい事』だった。

以前と態度が変わった理由を、直接聞いてみたくなったんだ。


 運命が掛かった質問に、果たしてこいつらは素直に答えるかな?


 けど、そんな心配は杞憂だった。


「は、何をおっしゃるのかと思えばくだらない!

 リオナさんが居なくなったからに決まっているでしょう?

 わたくしは あなたなんて どうでも良かったんですよ。

 リオナさん そしてレオナさん と親しくなり たかった。

 だからあなた と仲良くしていた。それだけですよ!」


 ここでオリカンは殴るのを止めた。

息が上がったからだ。


「ハァ・・・・そして・・・・あわよくば彼女たち美しい華2輪を、

 わたくしのものと・・・・ ハァ・・・・したかったのですがね・・・

 ハァ、ハァ・・・」


 嘘の反応は無かった。

なるほど。それは非常に判りやすいし納得できる回答だ。

あと、あれだけカッコよく啖呵切ったくせに、もうバテてるなんてダセェぜ!


 こんなやつにリオナさんとレオナさんが好意を持つワケがないな。

まあちゃんと話してくれたし、最低限の報復で済ませてやるかな。


 もう一方のツミノキも余裕そうに答えた。

「見限ったからに決まってるでしょ。

 アンタに優しくしてたのは打算があったからよ。あたりまえじゃない。

 何せアンタは先代メイド長様に気に入られていたし、

 専属でリオナが仕えていたのよ?

 そんなアンタが将来当主になる可能性が高いと考えるのは当然でしょう?

 だから優しくしていたの。私の将来の為にね。

 でも、見事に期待はずれだったわ」


 両手を軽く広げて『やれやれ』って感じのポーズをするツミノキ。


「けど、見限ったのは私だけじゃないわよ?

 おわかり?『お人よし』しか取り得の無い汚豚さん。

 つまり大半のメイドがアンタを見限ったってワ・ケ。

 まったく、無駄にした私の貴重な時間を返して欲しいわ」


 こちらも嘘の反応は無かった。

なるほど、理由も納得できるな。くやしいけど。

じゃあ最近冷たい態度を取っていたメイド達は全員、俺ことシュワンを見限ったからってことか。


 自分達が優勢だからなのか知らないが、俺の問いに2人はべらべら答えてくれた。

 

 でも、嘘は言わず正直に答えてくれたのはありがたかったからな。

なら最低限の報復で許してやろうと思っていた。


 『この時』までは。





 けど・・・・





 次の言葉と行動が、こいつらの運命を変えた。






「ねえオリカン、もう面倒だから気絶させてここに置いておくってのはどう?

 見ているだけで気持ち悪くなるし、食事にも間に合わなくなるわよ?」


「そうですね。

 ハンサムのわたくしと違って、こんな醜くて汚い存在に

 時間を消費してしまうのも勿体無いですからね」


「あ、そうだ。あそこに良さそうなモノが無かったかしら?」

と、ツミノキが指差したのはさっき俺がいた階段真下の空間。


 前世の学校とかでもそうだったが、階段真下の空いている場所には

色んなモノが置いてある事が多い。

それはこの世界でも同じみたいで、階段下には壊れた家具とか色々置いてあった。


「ああ、そういえば」とオリカンが階段に向い・・・・


「ちょうど良さそうなのがありました。

 これを使ってさっさと終わらせてしまいましょう」


「あら、いいわね。

 それでコイツの頭でも殴って倒してから、食堂に行きましょうよ。

 コイツのせいで遅れたって言ってね♪」


「ええ。そして一緒に朝食を食べましょうか。」


 そういって持ってきたのは・・・・半分に割れたレンガだった。


 ・・・・


 さっきまで俺は比較的冷静でいた。そのつもりだった。

けど、レンガを見た今では怒りが沸いて冷静さを失っていた。


 レンガで殴る?仕えている公爵家の息子を?

レンガで頭なんて殴れば、大怪我どころか死ぬ事だって当然あるだろう。

なのに『一緒に朝食を』だぁ?

そんな事をした後で、平気で飯が食えるって事かよっ!

 


 今の回答で、俺の対応も決まった。


『サイレンス!』

俺は再度、音を消し去る神法を使った。







 こいつらも







「答えてくれてありがとうよ、2人とも。おかげでスッキリしたよ。

 そして安心しろ・・・・」


 レンガを持ち上げて近づいてくるオリカンに、俺は言った。


「何がですか?

 どうも今日のあなたは上からの物言いで気に入りませんね。

 言葉も以前までとは違って偉そうですしね。

 とっとと倒れてください!この汚豚!」


 オリカンはレンガで俺の頭を殴り掛かってきた!


 ・・・・


「グ、グェエーー!!」

「ど、どうしたの?」


 急に悲鳴をあげたオリカンにびっくりするメイドのツミノキ。

彼女の場所からは死角で見えてないからな。


 別に大した事じゃない。

レンガで頭を殴りにきたオリカンの右攻撃を避けて、

カウンターをわき腹に叩きこんだだけだ。


「安心しろって言ったのはな、オリカン。今日の朝食のことだ。

 何故なら、今から俺がからだ」


 レンガを落とし、後退してからわき腹を押さて座り込むオリカン。


 そんなオリカンに俺は近づいていく。



「い、痛っ! ま、待ちなさい!」


「は?何がだ?」


「わき腹が痛いのです!止まりなさい!それ以上近づかないでください!」



 ・・・・


 はあ・・・・ 


 漫画とかでも、こういう奴っていたよなぁ。

本当に呆れるし、理解出来ない。




 何でテメエらはまらないクセに


 どうして




 ああホント腹が立つ!

俺は当然歩みを止めずに、オリカンの前までいった。

そして、こいつの目を見ながら言い放った。


「オリカンよぉ・・・・

 てめえ、さっき公爵家3男たる俺の腹をさんざん殴りまくってたじゃねえか。

 今日だけじゃねえ。つい先日も『豚臭い』とか言ってよ?」


「そ、それは・・・・」


 さっきまでと違って、怒りを全開にする俺!

そんな俺を見てオリカンは震え始めた。


「だというのに、テメエは一発殴られただけで『止まれ』だぁ?」


 俺はオリカンの髪の毛を両手でしっかり掴み・・・・

 

「止まるワケ無いだろうが!」


 そのままオリカンの顔を勢いよく落として、その顔に右膝蹴りを見舞った!!


「ガッ!」


「それに『上からの物言い』は当り前なんだよ!

 俺の方が身分が上なんだからな!何勘違いしてるんだテメエはよ!」


 ドカ!!ガス!!ガッ!!

膝蹴りを数回繰り返してから、顔を上げさせた。

左目が陥没して、鼻が折れ曲がり鼻血が出ていた。

前歯も数本無くなっている。


「うぅ・・・もう・・・やめて・・・・くれ・・・」


「『やめてくれ』だ?『やめて下さい』だろ?

 言葉使いがなってねぇんだよ!

 それにな・・・・」


 俺は拳を握り


「こういう時はまず真っ先に謝罪するんだよ!ボケが!」


 今度はオリカンの腹のど真ん中に、鉄拳を5発叩きこんだ!


「ヴッ!!・・・・ガッ・・・・」


 腹を押さえてうずくまるオリカン。

痛みで呼吸すら満足にできず痙攣している。

わかるぞ、その腹痛は正に地獄だろうよ。


 せいぜい苦しみやがれ!



 ・・・・


 さて・・・・と

俺はメイドのツミノキを見た。


 呆然としていたツミノキだが、俺と視線があった途端に思考が戻ったのだろう。

小刻みに震えながら謝罪してきた。


「あ、あの・・・・申し訳・・・御座いません・・・でした。

 先程の・・・あの・・・・無礼・・・は心の底から・・・・お、お詫びいたします」


 今の俺がよほど怖いのだろう。

コイツの股間部位が濡れて、異臭を放っていた。


「許されると思っているのか?」


 俺の冷徹な言い方に、涙目になるツミノキ。


「そ、それはその・・・・

 で、ですが私はあの、シュワン様に対して直接なにかを、したワケでは・・・・

 な、なのでどう・・・・どうかご容赦をーーっ!」


 最後は正座して額を地面につけて謝罪してきた。


 俺はツミノキの前まで行ってひざを付き、「顔をあげろ」と言った。

しかし、彼女は顔を上げない。

 

「顔を上げろって言ってんだよっ!!」


 そう怒鳴ると、恐る恐る顔を上げるツミノキ。

涙しているが、一切容赦する気はない。


 俺は彼女の襟首を左手で掴んで持ち上げて、右手を彼女の左目付近に添えた。


「俺をレンガで殴れとか言っておいて、『申し訳ありません』で済むと、

 本気で思っているのか?」


「申しわ けございま せん。

 あ あの・・・ でも 私は何も してはおりません ので

 どうか お許し を 申し訳 ござい ません 」

恐怖で嗚咽しながら謝罪するツミノキ。


「さっきまでの偉そうな態度はどうした?

 俺を『クソブタ』とか言っていたじゃねえか」


「ごめんなさい!すみません!ごめんなさい!ごめんなさい!」

もう言葉使いなど構っていられないのか、とにかく何度も謝罪してきた。


「劣勢になってから謝罪しても遅いんだよ!

 直接暴力は振るってないから許してくれ?

 ふざけてんじゃねえぞ!!」


 俺は神法を心の中で唱えた


 【スパーク】!


 俺は添えている右腕の手の平に、小さな炎を出現させた。


「きゃあ!熱い!あついーーー!!」

彼女は悲鳴を上げ、非力な腕で俺を放そうとするが放せられるワケがない。

もちろん俺自身の手も熱いが、構うものか!!


 人の頭をレンガで殴れと示唆したんだ。

なら、テメエにもそれ相応の事をしてやる!!


 【スパーク】! 【スパーク】!

幾度も連続して手の平の到る所に小さな炎を出現させる!

 

「熱いっ!熱い!!申し訳ありません許してぇ!!!」

大泣きしながら懇願するツミノキ。


 俺は右手を放してやった。


「熱い!私の・・・・私の顔がぁ!髪がぁ!」

左側の髪が焼けて焦げた匂いが漂い、顔の左側各所がやけどして赤く腫れていた。

でも、当然の報いだ


「公爵家子息をレンガで殴れと示唆したんだ。

 その程度の罰は当り前だ。これからは心を入れ替えて生きていきな!」

 

 俺は最後にツミノキの腹を思いっきり殴ると、彼女は白目を剥いて気絶した。



 ***



 ふぅー! 


 報復が終わったあと、俺は息を吐いて座り込んだ。


 右の手のひらがズキズキ痛む。


 今だ蹲っているオリカンと気絶しているツミノキを見ると、

こいつらの自業自得とはいえ、胸の方もズキズキ痛んだ。

「やりすぎたかも」と、不安にもなる。


 でも、この胸の痛みも不安も、感じること自体は間違いなくはずだ。

少なくとも何も感じないよりは、絶対にな。



 さあ、食堂へ急ごうか!

俺は右手に【ヒール】をかけて治してから立ち上がった。


 

 そんな時、「ピピピ!」と警報音が鳴る


 俺は即座に、警報が示すほうを向いた。



 そこには・・・・


 あの猿人執事と、グリトラの専属長たる初老の男がいた。

こちらに向かってきている。

 


 どうにも、なかなか食堂には行けないようだな。


 俺は再度気を引き締め直し、やってくる2人に向かっていった。





**********

=作者あとがき=


作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。


また更新が遅くなってしまいました。

何度も修正してました。申し訳ありません。


ただ、その分自分が想像していた内容が書けた気がします。

多分ですが(w


作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る