第59話 シュワンが壊れるまで 6
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=作者前書き=
作者の獰猛死神です。読みに来て頂いてありがとうございます。
まず最初に、この回の話は人によってはかなり精神的にツライかもです。
苦手な人はどうか注意して下さい
では どうぞ!
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~ シュワン Side ~
涙を流しながらいったいどれくらいの時間、星を眺めていただろう?
すると・・・・
「よう!迎えに来たぜシュワン。こんな所で星見かよ?」
急に声を掛けられて、びっくりした。
振り向くと、そこには・・・・
いつの間にか、アーレン兄様が居た。
「アーレン・・・・兄様・・・・」
僕は・・・・恐怖で震えた・・・・
だって・・・・兄様の後ろにはあの猿人が居たから・・・
何度もこの猿人執事に殴られた・・・・
だから、この猿人を見ると体が震えてしまう
「迎えに来たって・・・・何の・・・・ようです・・・・?」
僕は・・・・後ずさって部屋へ戻ろうとした
「ククク、後ろのコイツが怖いか?
いいねぇ、ますます俺の望む
僕はそんな兄様の言葉を聞いて・・・・すぐ振り返って部屋へ駆け出した。
だけど・・・・すぐに猿人に捕まってしまった。
「ヒッ!」
情けない声が出てしまった。
でも、仕方がない。
僕はどうしようもなく、この猿人が怖かった。
猿人はそんな僕の顔を見て『ニィ』と笑い、
そして・・・・
「ガフッ!!」
また・・・・顔を殴られた。
「ゴフッ!!」
今度は・・・・腹だ。
痛いっ!なんで殴るんだ・・・・
何で何でっ?!
「ううっ・・・・
何でっ・・・・僕が殴られなければいけないんですか?
何でアーレン兄様はぐすっ・・・・止めるように言ってくれないのですかっ!
僕がっ・・・・ 僕がいったい何をしたって・・・・
ぐすっ・・・・いうんですかぁ!」
僕は泣きながら叫んでいた。
「まず先に言っておくけどよ。俺はソイツに何も指示してねぇからな?
下手に『殴れ』なんて指示したら、神に当主選抜して貰えない可能性が
更に高くなっちまう。これ以上はさすがにやべえだろうからな・・・・
どうにもソイツは、テメエを殴るのが楽しいらしくてな。
勝手に殴ってるだけだ。
あと、俺にはそれを止める気は全く無いぜ。
何でか、理由を聞きたいか?」
兄様が近づいてきて、僕の胸倉を掴んで耳元で言った。
「テメエがあのクソバカ兄キを次期当主に推していたからだ」
・・・・えっ? 今・・・・
「今・・・・グリトラ兄様を・・・・『クソバカ』と言った・・・・のですか?」
「ああ言ったぜ。ちゃんと聞こえていただろう?
俺はな、昔から次期当主の座を狙ってたんだよ。
だっていうのによ、テメエはあんな奴を
『当主にして皆で支えましょう』
なんて抜かしてやがったからな。
だから止めねえのさ!」
アーレン兄様が僕の胸倉をさらに強く掴んだ。
「痛!グスッ、お願いです止めてください・・・・
あとどうして・・・・グリトラ兄様が次期当主では・・・・ダメなんですか」
「は、どうしてもこうしてもねえだろう?
アイツが相応しくねえからだよ。
ただ一番早く産まれたってだけの野郎だ。
頭も別に切れねえし、武芸に秀でているワケでもねえ。
だというのに、『次期当主は自分で当然』って態度が気にくわねえ」
アーレン兄様は、心底嫌っているような顔をしながらそう言った。
「でも・・・・アーレン兄様はグリトラ兄様を立てていたじゃ・・・・ないですか。
現に僕の・・・・あの部屋だって・・・・グリトラ兄様に・・・・」
僕がそう言うと、アーレン兄様はため息をついた。
「オマエも大概バカだな・・・・
初めから表立って反抗するわけねえだろう?
反抗すんならよ、ちゃんと勝利する目処が立ってからに決まってんだろが。
そしてな・・・・」
アーレン兄様はいつものようにニヤリと笑い・・・・
「部屋を譲った事に関してはな・・・・
小細工がやりやすかったからさ。
テメエに現実を見せるためのな!!」
僕に・・・・現実・・・・?
「いいからついて来な!
ああ、あと声を出したり騒いだりしたら、
ソイツが今まで以上に強く殴るからな」
ヒィ!!
後ろを見ると、猿人がニヤニヤ笑っていた。
それを見て・・・・体がガクガク震えだした。
嫌だ!もう殴られたくない!
僕は頷いて・・・・アーレン兄様の後について行った
***
連れて行かれた場所は何のことはない。以前の僕の部屋だった。
今は・・・・グリトラ兄様の部屋だ。
かつての僕の部屋のドアを見ていると、急に布を口に巻かれた!!
これでは話す事が出来ない。
後ろから猿人が手を押さえつけているので身動きも取れない。
僕は何かされるのか?と一瞬焦ったけど、
やんわりと話しかけてくるアーレン兄様を見て、とりあえず落ち着いた。
「さてシュワンよ。
テメエ以前からクミンが好きだって言っていたよな?
それをグリトラの兄キにも言っていたよな?
将来はクミンと結ばれたいってな」
喋ることができないので、僕は首で頷いて返事をした。
最近は言っていなかったけど、幼い頃の僕は
『クミンが好きだ。クミンと結婚したい』
って、ずっと兄様や姉様に言っていた。
幼かったとはいえ、思い返すと少し恥ずかしい。
でも・・・・今も変わらない僕の正直な気持ちだ。
「ククク・・・・その結果を今から見せてやる。
さっき言った事忘れてねえよな?
絶対に声を出したり暴れたりすんじゃねえぞ」
え・・・・結果って・・・・何?
どういう・・・・事?
アーレン兄様は鍵を取り出して、扉の鍵を外した。
あれ?何でアーレン兄様が・・・・
グリトラ兄様の物になったこの部屋の・・・・鍵を持っているの?
鍵を開けるとアーレン兄様は顔だけ動かして合図した。
どうも『入れ』と言っているようだった。
僕は猿人に押されて部屋の中に入っていく・・・・
入ってすぐの待合場所に、この前僕を家畜扱いして殴った執事と僕を見下していたメイド2名が座っていた。
どうも今日のグリトラ兄様専用の夜番みたいだ。
だけど・・・・目をつぶって横を向いていた。
まるで『見てない、知らない』と言わんばかりに・・・・
その前を猿人に押さえられながら、ゆっくり歩いていく・・・・
少し歩いて右に曲がると、目の前は以前僕が使っていた居間があった。
少し暗いけど、窓から差し込む月明かりではっきり室内を見ることが出来た。
そして左隣が寝室・・・・あと少し進めば前に僕が使用していたベッドがある。
けど・・・・なんだ・・・・
何か・・・・声がする・・・・
この声は・・・・クミン?
え、何故?何で?
何で・・・・クミンの声が・・・・
グリトラ兄様の寝室から・・・・聞こえるの?
猿人に口と手を抑えられながら進み・・・・寝室のドアをゆっくり開けて・・・・
顔だけ覗く体制のまま・・・・体を固定された
なので必然的に・・・・
寝室にある・・・・ベッドを・・・・
覗かされた・・・・
そこには・・・・
一糸まとわぬ姿で抱き合っている・・・・
グリトラ兄様と・・・・
クミンが見えた
口づけを交わし、裸で激しく抱き合っている2人を・・・・
しばらく・・・・見させられ続けた・・・・
***
気づいたら・・・・庭に戻っていた・・・・
いつ戻ったのか・・・・ぜんぜん覚えてない・・・・
いや・・・・そんなことはどうでもいい・・・・
僕は・・・・口から布を外されて・・・・
庭についた途端に・・・・蹴っ飛ばされて倒れた・・・・
痛い・・・・
でも・・・・
痛みも倒れたことも・・・・どうでもいいと思った・・・・
「ククク・・・・嬉しいか? シュワンよ。
これがよ、オマエが推していた次期当主様の真の姿だぜ?
気に入った女なら、弟の想い人でも平然と『モノにする』な」
涙があふれ流れて・・・・止まらなかった。
「いつ・・・・か・・・・ら・・・・」
「クミンが15歳になってからすぐだったぜ。
つまり1年と少し前からだ。
テメエがクミンを愛おしく思っている横でよ、
テメエの事なんざ無視してあいつらはずっと愛し合っていたんだよ!
でも文句は言えねえよな?
だってよぉ・・・
テメエが推していた次期当主様が望んだ事で
テメエが愛した女が受け入れた事なんだからよ。
情けねえよなぁ?
ざまあねぇよなぁ?
惨めだなぁ?
なあ、シュワンよ?
ハッハッハ、ハーハッハッハ!!」
大笑いしながら、アーレン兄様は去っていった
・・・・
ウソだ・・・・
『私も好きだよ!シュワン!』
こんなの・・・・嘘だ・・・・
『将来結婚しようね、シュワン!』
幼い頃、確かにクミンと僕は・・・・そう・・・・約束したんだ・・・・
グリトラ兄様も・・・・知っていた・・・・ハズだ・・・・
それなのに・・・・
クミンは・・・・グリトラ兄様と・・・・・
裸で・・・・愛し合って・・・・いた・・・・
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
「ウソだぁあああっあーーーーーー!!!!!」
*****
~ 修一 Side ~
「修一さんっ!それ以上は危険です!
シュワンさんのトラウマがそのまま修一さんのトラウマになってしまいます!」
さっちんが止めてきた。
「ああ、判っている。大丈夫だ。」
俺はここでシュワンの記憶を見るのを止めた。
激しい悲しみで、また絶望に落ちそうだと感じたからだ。
俺自身はクミンに対して何も想いなんぞ持ってないけど、そんな俺でさえ思い出しただけでこれだけ絶望感に襲われるんだ。
シュワン本人にとって・・・・どれだけ辛く悲しかったことなのか・・・・
想像できるわけもない・・・・
これでシュワンは・・・・半分壊れた。
無気力になり、ほぼ部屋から出なくなった。
ただ日々を寝て過ごすだけで、何もしなくなった。
その後しばらくして遠征から戻ってきた父から、超高価な『青ブドウ』購入によりかなりの散財をした件で厳しく叱責されてしまう。
否定したが、兄2人に姉・弟・そしてクミンや複数の執事とメイドからもシュワンの責だと証言された。
リオナさんとレオナさんは遠征に追従していた為にこの件の詳細を確認出来ておらず、また相手が多勢だった為にシュワンを擁護する事が出来なかった。
四面楚歌状態になったシュワンは・・・・これで完全に壊れてしまった。
責を取る為に公爵家の独房に収容されそうになったが、直前に離れへ逃げてしまう。
また離れまで追ってきた執事や公爵家の兵士に対して、溜まっていた自身の汚物をばら撒いて退けた。
全てに絶望して自害も考えたが怖くて出来ず、ベッドに入ってずっと消えたいと呪いのごとく強く念じて・・・・
結果、自身の強大な『魂力』で本当に自分の『魂』を消してしまった。
これがシュワンという男の生涯。
更にいうなら、この魂が消えた日が奇しくもシュワンの15歳の誕生日だった。
**********
=作者あとがき=
作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。
これが作者の考えていたシュワンの生涯です。
一応設定としてですが、管理神たるシグリーシャはこのシュワンの最後まで純粋でかつ誰かを憎んだり恨んだりしてない事に好意を抱いていたという設定でした。
でも自分の文章力では、そこまで書けませんでした。申し訳ありません。
この後は、修一がいよいよ今後の対策を考えた後ネットルームから出てジャスティス家と対面する予定となっています。
乞うご期待を!
作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。
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