第57話 シュワンが壊れるまで 4

 ~ シュワン Side ~

 

 アーレン兄様と一緒に夕食を取ってから10日ほど経過して・・・・

アーレン兄様が僕の部屋にやって来た。


 見た事のない執事を後ろに1人連れていた。

獣人・・・・それもめずらしい猿の獣人だった。

大きい。2メートルくらいありそうだ。


「ああ、こいつはつい先日雇ったばかりの見てのとおりの猿の獣人だ。

 親子3人の猿人を、高待遇で雇ったんだよ。

 こいつは見てくれじゃ判らないだろうが、息子のほうだ。

 執事の格好をさせてちゃいるが、その実態は優秀な護衛なんだよ」


 たしかに猿の獣人は数こそ少ないが、人族より凄く強いと聞いたことがある。

腕力も脚力も人族の倍近くある上に、その長い手と速い動きで敵を倒す事で有名だ。


「ドウモ」

そう言って僕を見る猿顔の執事。

全然僕を敬っている感じなんてしなかった。


「ああ、今日はコイツの紹介が本題じゃない。

 別の話があるんだ」

そう言ってアーレン兄様は、ここに来た要件を話し始めた。



*****



「何故ですか!『この部屋から移れ』とはどういう事ですか?!」

僕はアーレン兄様の話を聞いたあと、そう叫ばずにはいられなかった。


 僕の部屋は本館すぐ横に増設された2階建新館の2階にある。

僕の母を気に入っていた先代公爵夫人が、妊娠した母の為だけに後から本館横に増設してくれたそうで、本館より立派な作りになっている。


「オマエの部屋をグリトラあにキの部屋にする為さ」


「何故急にそんな事を!

 僕は何年もこの部屋で・・・・・

 母が僕を産んでくれたというこの部屋で過ごしてきたのですよ?

 今更そんな事言われても困ります。

 それに、父様が了承するわけがない!」


 今日までずっと、この部屋で過ごしてきたんだ。

僕自身は母の事は覚えていないけど、僕の母が過ごしていたという大切な場所だ。

長年過ごしてきたのだから、当然愛着もある。


「無論当主から許可を貰っている。グリトラ兄キからな。

 親父が遠出で不在の今、グリトラ兄キが当主代行だからな」


「そんなっ!!理不尽すぎる!」



 僕がそう文句を言うと・・・・



 ビクッ!!



 僕は恐怖で固まった。



 何故なら・・・・








 

 アーレン兄様が今まで見た事がないような・・・・




 怖い形相をしていたからだ。










「理不尽だぁ・・・・?


 おいシュワン。オマエよく考えてからモノを言えよ・・・・

 

 まず・・・・だ、

 そもそも3男のオマエが、何故兄である俺やグリトラ兄キより立派な部屋に

 住んでんだ?

 理不尽ってんならよ、その時点で俺達の方が『理不尽』だろうがよっ!」


「そ、それは・・・・」


「今までは先代メイド長やらその夫である先代公爵夫人の専属執事・・・・

 それになによりも『リオナ』が居たから、それが通ってたんだよ。

 けどよ・・・・先代方はもう引退したしリオナはオマエ自身が専属から外した。

 今、この広い新館はオマエとクミンだけだ。

 そんな豪華な場所に住まわせて貰っているオマエが何をしているかといえば、

 ここ最近は何もせず食っては寝てるだけだ。

 そんなオマエなんかよりグリトラ兄キのほうが、この部屋にふさわしい

 だろうが!」


「だってそれは・・・・」

リオナさんの事は、クミンがどうしてもって言うから・・・・

あと最近何故か、よく眠くなったりお腹が痛くなる事が多いんだ。

症状が治まった後も体が重く、ぼーっとして何もする気が起きない。

そのせいなのか、ますます太ってしまった。


 僕はその事を正直にアーレン兄様に話したけど・・・・


「都合のいい嘘ばかり言ってるんじゃねえっ!

 そんなオマエなんかに、この部屋は勿体なさ過ぎるってんだよ!」


 まったく信じてもらえなかった。

僕は嘘なんて言っていないよ!


「それによ・・・・」


 今まで怖い形相だったのが、今度はいつも通りのニヤケ顔になった。

「グリトラ兄キのなんだ。

 なんせここ最近、ずいぶんとそのメイドに入れ込んでいるらしいからな」


 それは・・・・初耳だった。

グリトラ兄様は24歳でアーレン兄様は22歳。つまり2人とも既に成人だ。

だからその・・・・一部のメイドや奴隷とをしているのは知っていた。


 僕ももう少しで15歳の成人になる。

成人になればそういう行為もできる。内心では興味があった。


「とにかくそんなワケでよ。グリトラ兄キの為にもこの部屋を譲るべきだ。

 何せオマエ、グリトラ兄キに次期当主になって貰いたいんだろう?

 そう言っているオマエ自身が、グリトラ兄キに自分より劣る部屋で過ごさせる

 なんて言わねえよな?」


 有無を言わさないようなアーレン兄様の言葉。


 そして僕は・・・・何も言い返せなかった。

理屈は通っていると思ったから。


 でも・・・・どうしても何かが釈然としない。


 なんなのだろう・・・・この胸のもやもやは!


 そんな僕をさらに落としめる声が、真後ろから聞こえた。

他ならぬクミンだった。


「賛成です!大賛成ですっ!!

 この部屋の豪華さや高貴さはグリトラ様にこそ合うと私も思っていましたので。

 では、念の為これから掃除をしますね!


 ・・・・ああシュワン、アンタはさっさと出て行きなさいよ。

 持ってくのは服だけにしてよね。

 グリトラ様にアンタの服なんて合うわけないしね」


 クミンのその台詞と態度に・・・・僕は呆然としてしまった。


 クミン・・・・君は僕の専属のはずだろう?

将来は僕と一緒になってくれるって、約束しただろう?


 なんでそんな言い方を僕にするんだ?

なんで僕の事など知ったことではないと言う態度を取るんだ?

なんで前にように、僕に笑顔を向けてくれないんだ?



 本当になんだ・・・・なんなんだよ!



「悪いなクミン。俺の専属メイドにも手伝わせるからよ」


「ありがとうございます!」


 アーレン兄様とクミンのやり取りを納得出来ずに震えながら聞いていると、アーレン兄様が僕の次なる部屋の場所を教えてくれた。

けど、その部屋の場所がまた納得出来なかった。


「ああシュワン、言い忘れたがオマエの次の部屋は北西のだからな」


「何でそんな所なんですか!

 そこは本来なら庭師の家族に使ってもらう場所じゃないですか!」


 今は庭師が不在で確かに空いている。

しかし、この離れだと一度外に出て庭を通らないと本館には来れない。

なぜそんな場所に移らなくてはならないんだ?


「俺はグリトラ兄キに言われただけで理由なんて知らねぇよ。

 じゃあ、さっさと出ていけよ」


 伝える事は伝えたといった感じで、僕にもう関心ないようにクミンや専属

メイドと話すアーレン兄様。


 僕が納得出来ずさらに話しかけようとすると・・・・

急に視界が遮られた。


 アーレン兄様が雇った、猿人の執事だった。


 ゴフッ!!

 

「グエェッ!」

僕は奇妙な奇声をあげてうずくまった。

目の前の猿人に腹を殴られたからだ。


 そして猿人にずるずるとドアまで引きずられる。


 腹の痛みに苦しみながら、何とか片目を開けると・・・・









 薄ら笑いをして僕を見ている















 クミンが見えた












 そうして僕は猿人に部屋から放りだされ・・・・




 目の前でドアが閉められた。





**********

=作者あとがき=


作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。


いや~、もとから最低野郎・・・・もとい最低女設定のクミンなんですが、

書いていると作者自身もイラついてくるものですな。


作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。

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