第52話 『力』を取り戻そう! 2
『憑依』を再度会得する為の、さっちんの修行内容はと言うと・・・・
俺が想像していたのより、もの凄くキツイ内容だった。
「左腕を切り落とすだって!?」
「はい、切り落とした瞬間に『EXヒール』を掛けてください。
それをどんどん続けてください」
との事だった。
なぜそんな事をするのかと問うと、それを短時間に繰り返す事によって俺の左腕が通常状態と霊状態への切り替えを自覚しやすくなるからとの事。
あとは俺自身がその切り替えを会得できれば、切り落とさなくても左腕部位だけが霊状態となり、その左腕を相手の頭に入れる事で『憑依』したのと同じ状態にできるらしい。
「それが出来るようになりましたら、この方の記憶を読み取ってもらえますか?」
と、さっちんが出現させたのは・・・・
ジャスティス公爵家の末っ子でシュワンの弟である・・・・
四男 デクス・フォン・ジャスティスだった。
「なんで、彼の記憶を読まなければならないんだっ!」
俺はさっちんに問わずにはいられなかった。
何故なら、デクスもシュワンを裏切った兄弟の1人だったからだ。
シュワンはデクスにも優しく接していて、当然いじめとかをした事はない。
デクスは左足が悪く杖を使わないと歩けない、か弱い弟だったからだ。
だというのに、デクスはシュワンを裏切った。
俺は厳密にはシュワンでは無いけど、だからといってシュワンの記憶を持つ俺がコイツと仲良くできるわけがない。
「その理由も、彼の記憶を読んで頂ければ判るかと思います。
その後でどう接するのかは、もちろん修一さんにお任せします」
俺にそう言ったさっちんは、また真面目な表情だった。
さっちんは当然、コイツが裏切った理由を知っているのだろう。
知っていて俺に教えないという事は、これもまた人族の醜さとやらが関係しているからなんだろうな・・・・
俺は深呼吸を一度すると、さっちんによく切れる刀を出して欲しいと言った。
さっちんはすぐに出してくれた。
「どうぞ。修一さんとは違う世界の名匠が作った刀です」
それは、一振りの小太刀だった。
抜くと引き込まれるほどの美しさを持つ刀身が現れた。
「我が相棒たる管理の女神よ!」
俺はパスを繋げて、小太刀にホーリーウェポンを掛けた。
そして歯を食いしばったあと、左腕に小太刀の刃を・・・・
軽く振るった。
はじめは軽く傷つける程度で徐々に・・・・そう思っていた。
だというのに、小太刀の刃は左腕にスッっと入っていったかと思うと・・・・
左腕の力こぶ付近から先が、ポトリと落ちた・・・
次の瞬間、久しく感じてなかった強い「恐怖」が俺を襲った。
何故なら、切ったのに全く痛くなかったからだ。
最近鍛えていてそれなりに筋肉がついてきていた左腕が、痛みも何も感じずにいとも簡単に切れて地に落ちていった・・・・
それが・・・・こんなにも怖い事だったなんて!
俺は即座に「EXヒール」をかけた。
落ちていた腕と切り口からの血しぶきが光となって俺の左腕に集まったかと思うと、腕の形になり元に戻った。
俺はその後続けて左腕を切ることが出来なかった。
元に戻った左腕を押さえて・・・・
地面に、座り込んでしまった。
*****
俺はその後何とか立ち直って、左腕を切り落として復活させるを繰り返した。
それだけを・・・・ただただ繰り返した。
左腕だけを霊状態にする事が可能になったのは、この訓練を開始してから60時間ほど経過してからだった。気づいたら神法レベルもMAXまで上がっていた。
「修一さん、あの・・・・大丈夫ですか?
何なら、気晴らしにバーベキューでもしませんか?
前世でいうA5和牛とか用意しちゃいますよ♪」
さっちんがそう言って俺に気を使ってくれていたが、今回ばかりは落ち込みからすぐに立ち直れずにいたので断った。
落ち込んだ理由は・・・・記憶を読んだからだ。
俺は霊状態になった左腕を、弟たるデクスの頭の中にいれて記憶を読んだ。
このデクスは本物ではなくさっちんが作った偽者だが、その記憶は本物から写し取ったもので事実との事。
その記憶を読んだら・・・・
はっきり言って、デクスが裏切っても仕方が無いと思ってしまった。
*****
デクスの母親は「アーリシス」という名前で、父親であり現ジャスティス公爵家当主である「マドラス・フォン・ジャスティス」の専属メイドだった人だ。
父に早くから専属で仕えていたおかげで第二夫人となり、2人の子供を産んだ。
次男たる「アーレン」と、8歳年下で四男たる「デクス」だ。
デクスがまだ幼いときに、彼は左足を壊された。
壊したのは他でもない。実の兄であるアーレンだった。
そしてなんと、母であるアーリシスもその場に立ち会っていた。
「お前は俺の為に存在するだけでいいんだ。
これは、お前が出しゃばり過ぎないようにする為の処置だ!」
「貴方は兄であるアーレンが、次期当主になる為だけに存在すればいいのです。
そうしないと、貴方も含め私達は居場所がなくなるのですから」
・・・・これだけでも、デクスにとっては辛かった事だろう。
だが、デクスの悲劇はこれだけでは終わらなかった。
デクスは前世でならBL本に出てくるような、男とも女とも判断つかない美形な顔立ちだった。
だからだろう。王家から下ってきた現ジャスティス公爵夫人たるグーネラと、その娘である長女プメラから異常に愛されていた。
そしてデクスが12才になった頃から、2人に「玩具」にされていたんだ。
この場合の「玩具」がどのような事を指しているのか・・・・言うまでもないだろう。
グーネラとプメラは今の俺とさほど変わらない体格、つまり「豚」ってわけだ。
その2匹の牝豚に強引に玩具にされる屈辱は、とても俺には計り知れない。
グーネラの息子にして長男のグリトラは、デクスが玩具にされている事を知っているが、我関せずで全く助けなかった。
そんな、デクスにとって地獄とも言える環境なのに・・・・
いっさい何も知らないシュワンは、彼に対してこう言った・・・・
「兄弟で争うことはない。
家族全員で、仲良くやっていこうよ!」
・・・・
そりゃあ、俺もデクスの立場だったらシュワンを憎たらしく思っただろうな。
「何も知らない癖に!」てさ。
無論、シュワンは本当に本心からそう思ってデクスに言っていた。悪意など全く無い。他の奴らとは違って。
だからといって、デクスからしたら到底許せるものでは無かったのだろう。
少しでも自分と同じ境遇に落ちろと思っても不思議じゃない。
俺は、デクスへの対応を変えることにした。
また、こんな義母、義姉、義兄と戦うことになるかと思うと・・・・
正直、うんざりする気分になった。
**********
=作者あとがき=
作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。
この回、いろいろ書いていたらけっこう内容が重くなってしまいました。
苦手な方がいましたら申し訳ありません。
作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。
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