第54話 シュワンが壊れるまで 1
~ シュワン Side ~
最近、クミンと全然会っていない。
いや、食事の時間とかでは会っているんだけど、それ以外の時間に会っていない。
思い返して考えてみると、もう半年くらい前からたびたび居なくなる事が多い。
その頃から、僕に対する態度も本当にそっけなくなった。
以前は笑顔で接してくれていたのに・・・・
おかしいよ、クミンは僕専属のメイドのはずなのに。
僕専属なんだから、基本僕の側に居て然るべきはずなのに。
メイドだから色々やる事は多いということは、理解出来るんだけど。
それにクミンが何度も言うから仕方なく、物心ついた時から僕の専属メイドをやってくれていたリオナさんに話をして、専属を外れてもらったんだし・・・・
今思い返しても・・・・あの時ほど後味が悪かった事もなかった。
リオナさんはピンクと赤の中間の髪色をした凄い美人だ。
性格は温和で抜群のプロポーションの上に、家事掃除何でも完全にこなす正にメイドの鏡だ。その実力は100名近くいる我がジャスティス家のメイドの中でも5本の指に入るほどで、昨年ついに高齢で引退した先代筆頭メイドから若干20歳でこのジャスティス公爵家のメイド筆頭を任命されたほどだ。
それだけでも凄いのに、リオナさんは冒険者としても強い。
双短剣の使い手で剣士相手に互角以上に打ち合い、盗賊顔負けの動きをする。
我がジャスティス公爵家が管理しているダンジョンの攻略にもよく参加していて、活躍してはダンジョンの財宝を見つけて帰ってくる事もすごく多い。
なので当然、多くの男性からもてる。
長男グリトラ兄様、次男アーレン兄様から何度もアプローチを受けてるようだけど、どの告白も了承していないようだ。
マドラス父様さえもこっそり口説いていると他のメイドが言っていたな。あと他の公爵家や伯爵家からさえアプローチを受けているとか・・・・
それだけ凄いってことだけど、ジャスティス家筆頭メイドが他家に引き抜かれたら、名誉回復の為にもその相手と戦争になるだろうな。
まあ、リオナさんに限ってそんな事は無いだろうけど。
そして、妹のレオナさんも青い髪の凄い美人だ。
プロポーションも姉のリオナさんに引けをとらない。
リオナさんと同じ20歳。実の姉妹ではあるが半妹らしい。
ただ、姉と違ってレオナさんは控えめな性格。陰の実力者的な存在だ。
レオナさんは姉であるリオナさんをもの凄く信頼していて、かつ生涯のライバルみたいに思っているらしい。現在ジャスティス公爵家の次席メイドを勤めている。つまりはナンバー2のメイドだ。
僕専属で色々な事を教えてくれた姉であり教育係であるレオナさんと、専属ではないけれど常に姉リオナさんの側にいる事が多いレオナさんって感じかな。
ただ・・・・この2人の側で僕専属として仕えていたクミンからしたら、片身が狭く不機嫌になる理由も判らなくはない。
クミンはメイドとしては、下から数えた方が早いからね。
「シュワン!リオナさんをシュワン専属から外してよ!!
いちいち比較されて、本当に私嫌なんだからね!!
それともやっぱりリオナさんが好みなの?私なんてどうでもいいの?!」
そう泣きながら何度も言われて、ついに僕も受け入れるしかなくなった。
だって僕は幼い頃に、クミンに心を奪われてしまっていたから。
でも普段笑顔のリオナさんの、「専属を辞退してほしい」とお願いした時に見せた表情を思い出すと・・・・心が痛んで仕方無かった。
そうして僕専属のメイドはクミン1人になった。
それなのに、そのクミンがたびたび居なくなるのではリオナさんに専属から外れて貰った意味がないじゃないか。
僕は最近どうにも、
時期的にはリオナさんに専属を辞めてもらった時から・・・・
どうにも、嫌な予感がしてならなかった。
*****
「シュワン、昼食よ!」
そういって、クミンは深めの木皿いっぱいの数種類の野菜が入った岩塩スープ、鳥の蒸焼を一羽まるまる、それにブドウパンとブドウジュースを載せた。
「クミン・・・・以前にも言ったけど量が多すぎだって。
それにいい加減に僕を『様』をつけて呼んでほしいと、何回も言っているよね?」
もうずいぶん前から量の多い食事を出す。おかげで僕はかなり太ってしまった。2ヶ月前に王都へ出向した父様に同行していった、リオナさんに言われた内容を守れてない。
『シュワン様、最近お太りになられましたよね?
私はご存知のとおりマドラス様に同行して王都へ出向した後、
領内の迷宮調査をしてからの帰還になる為長期不在となりますが、
きちんと運動して痩せてくださいね。
戻ってきてお変わりなかったり、さらにお太りになられていたら・・・・
おわかりになりますよね?』
そう言ったリオナさんの笑顔が、とても怖かった。
どうなるか・・・・考えただけで震えてくる。
だというのにこの量を食べていたら、いくら運動していても痩せれない。
「シュワン、本当に私の料理にも行動にも口うるさいよね?
私は人形じゃないのよ?これでも一生懸命頑張ってるのよ?
あとシュワンって本当に、私の事愛しているの?
なら呼び方くらい多目に見てって、何度も言っているでしょ!」
うっ、まただ。最近怒りやすい。
これじゃ僕の方が主じゃなくて下僕じゃないか・・・・
「でも、僕にも立場があるし、
それに他のメイドにも示しが付かないっていうか・・・・」
「他のメイドなんてどうでもいいでしょ。
あと前にもいったけど、今料理を必死で覚えてる最中なのよ。
だから少し量が多くたって頑張って全部食べてね」
そういって、まだ食事を始めてない主の前から消えようとするクミン。
「待ってよ、どこに行くのさ?僕まだ食べてないよ?」
「食べ終わったら片付けて部屋隅に置いといて。私は他にやる事があるのよ」
「クミンは僕専属のメイドのはずだろう?主の僕の食事が終わってないのに
何処に行くのさ?」
「だから他にやる事が色々あるんだって。ちゃんと全部食べてよね」
そういって、礼もせず出て行くクミン。
・・・・こんな感じで最近そっけない上に言う事を全然聞いてくれない。
どうしてだよ。おかしいよ・・・・
*****
~ 修一 Side ~
俺は修行後の休憩をとりながら、シュワンの記憶を思い出していた。
そして、このクミンのあからさまな態度を思い出すと苛立ってくる。
「どう考えても、シュワンを好いている態度じゃないだろ・・・・」
好意とか、主への忠義とか、そういったものが全く感じられない。
感じるのは、こいつは私の言うことならなんでも聞くって確信して見下しているような、そんな傲慢な態度だけだ。
「そうですね、この頃クミンさんは長男グリトラの虜でしたから、
シュワンさんの好意を逆に利用していたのでしょう」
俺の思考を読んでいたのだろうさっちんが、相槌をいれてきた。
こんなクミンがずっと好きだったなんて、どんだけ純心だったんだよシュワン。ピュア過ぎるだろう。
それに、リオナさんにレオナさん。
シュワンの記憶で見るかぎりだけど、この2人はシュワンの記憶の中にあるどのメイドより礼と忠義を携えていた。その上プロポーション抜群の美人だ。
この美人姉妹を、あんな
リオナさんの専属辞退を言われた時の顔は、ただ記憶を読んでるだけの俺でも胸が痛くなるぞ?
俺はシュワンの一途さに対して少し腹を立てながらも、
再度シュワンの記憶を読んでいった。
**********
=作者あとがき=
作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。
シュワンの過去を今書いているのですが、なんだか自業自得じゃん!
って思われる展開になっています。
作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。
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