第33話 初めての契約

 俺は改めて小さな精霊に丁重にお願いした。


「もう一度、改めてお願いしたい。

 俺には、君のような優しい精霊が必要なんだ。

 どうか俺と、契約してくれないか?」


「シュワン様・・・・

 あのね、シュワン様。私はたいした精霊じゃないの。

 契約しても、あまりお役にたてないと思うの・・・・」


 さっきまでと違い、元気を無くす小さな精霊。


「俺と契約しても、役に立てないって?

 例えば、綺麗な水を作ってもらうとか出来ないの?

 俺が飲めるような水をさ」


「それなら契約して精霊力を別けて貰えればいくらでも出来るの。

 でも攻撃とか防御の類は、いっさい出来ないの・・・・」


 そういって、更にしゅんと落ち込んでしまう小さな精霊。


「そんな事はないんだ、この井戸に宿る小さな精霊さん。

 今の俺にとって、その水が何より大事なんだ。

 改めてお願いしたい。どうか俺と契約して欲しい!」


 俺は丁重に頭を下げて、改めてお願いした。


「・・・・わかったの!

 こんな私でいいのなら、喜んで契約するの!」


 またぴょんぴょんまた跳ねる小さな精霊さん。


「ありがとう。

 あ、でも俺、契約のやり方知らないんだった!」


 やべ、そういえば精霊の存在はシグリーシャに聞いていたけど、

契約のやり方なんて聞いてなかった。


「簡単なの!お互いが契約したいって強く念じればいいの!」


 え、そんな簡単な事でいいの?


「こういう場合は、水精霊さんに俺が名前をつけるとかじゃないのか?」


 名前をつけて契約するのは、俺の世界のラノベとかでは定番だ。


「名前をつけて貰えるのは嬉しいけど、もう少し成長してからお願いしたいの!

 いま名前をつけられると、このままで固定されて進化できないの!」


 ・・・・微妙にラノベとは違うんだな。

まあそれならば!

俺は失礼かもとは思ったが、この小さな水精霊の両手を俺の指先で軽く、でもしっかり握った。

水精霊さんは微笑んでいるだけで、嫌な素振りなど全く見せなかった。

それを見届けてから目を閉じて。そして・・・・念じた。

この小さくも優しい精霊と、契約したいと。


 しばらくすると・・・・


 水精霊が・・・・俺の手の指から離れて丸い水球になってしまった。


 あれ、失敗なのか?

俺が焦りだすと、水球が割れて・・・・


 さっきより一回り大きく、そして全身水色でさっきまでとは違って汚れなど一切ない、羽衣をまとった水精霊さんが現れた。


「マスター、すごいの!

 以前より大きい存在の精霊になれたの!

 これもマスターのおかげなの!ものすごい大きくて密度の高い精霊力なの!

 ありがとうなの!」


 そういって、今度は空を飛びながら喜ぶ俺の水精霊。


「あれ、マスターって?

 しかも空飛べたの?」


「契約したから、私の「マスター」になったの!

 以前から空は飛べたけど、さっきまでは力が無くて飛べなかったの!」


 そうなの?まあいいか。


「なら早速お願いしたい。

 この井戸から俺が飲める綺麗な水を出してくれないか?」


「了解なの♪」


 そういって水精霊さんが腕を振るうと、井戸の最上部まで水が溢れてきた。

透き通った綺麗な水だ。汚れなどは全く浮いてない。

これが水精霊の力か。


 俺は井戸に顔を近づける。危険察知は反応しない、大丈夫だ。

がまんできず俺は、顔ごと井戸につっこんだ。


ゴクゴクゴクゴクゴク・・・・


ぷはぁあああ! うめえぇええ!!


 やばい、また涙が出てきた。

ただおいしい水が飲める事。

それが・・・・それだけの事がこんなに大事だったんだ。


「おいしいの?マスター」


そう俺をみて笑顔で聞いてくる俺の水精霊に

「ああ、すっごくおいしい!」


「よかったの~!!」


そういってまた嬉しそうに飛ぶ俺の水精霊。

その姿を見ると心が和む。


この精霊と契約出来てよかった。


この優しい水精霊を消滅させなくてよかった。


心の底から、そう思った。

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