第32話 汚くても美しい存在
「何をしているか気になるの!」
そんな声が聞こえた。
俺は振り返り、井戸を見た。
そこには、15センチ程の水で出来た人形のような存在がいた。
所どころ黒ずんでいて、顔や手の形が崩れかけている。
「君は・・・・精霊かい?」
俺は小さい存在に問いかけながら近づいた。
「あれ、シュワン様私が見えるの?」
「ああ。それで君は?」
「すごいの~!シュワン様、精霊力をたくさん貯めれたってことなの!
しかもすごく強い精霊力なの~!」
と、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる小さな存在。
見ていて楽しいけど、こちらの問いに答えてほしい。
「あ、ごめんなさいなの。
私はこの井戸に宿っている
短い間だけど宜しくして欲しいの!」
「こちらこそ宜しくね。
でも、短い間って?」
すると水精霊は悲しむことなく
「もうすぐこの井戸は完全に枯れちゃうの。
それと一緒に、私も消えちゃうの!」
そう笑顔で言った。
・・・・消えてしまうのに、それを何とも思ってない水精霊。
その姿と笑顔を見て悲しくなる。
「ならさ、何処か水のある場所に移ればいいんじゃないか?」
俺は小さな精霊にそう言った。
が、精霊は首を横に振った。
「私はここで生まれたの。だからここが好きなの。
確かに、前は一緒にいた仲間たちと共に移ることも出来たけど、
今はもうそんな力も残ってないの。
それに、井戸だけ枯れるのは寂しいと思うの。
だから、私が最後まで一緒に居てあげるの!」
にっこり笑う小さな精霊。
その笑顔は、
黒ずんで汚れていても、形を失いつつも・・・・
とても美しかった。
そしてその笑顔は、シュワンの壊れた心と重なっていた俺の心に・・・・
深くしみ込んでいった。
涙が出てきた。
だめだ、この小さくても素晴らしい精霊を消してしまうわけにいかない!
「水精霊さん、俺と契約してくれないか?
俺が精霊力を分けてあげられたら消えなくて済むんじゃないか?」
「シュワン様が私と?
それはダメなの」
「何故だい?俺では精霊力が足りないのか?」
「ううん、違うの。
シュワン様は凄い精霊力があるの。もっといい水精霊と契約できるの。
だから、私じゃだめなの」
・・・・俺はその言葉を聞いて、また涙が出てきた。
この小さな精霊が俺との契約を拒否した理由は、俺ならもっといい精霊と契約できるから。それだけだ。自分が消えることよりも、相手想う気持ちが強いから拒否する。
これが・・・・精霊か。
シュワン、悲しいな・・・・
お前には「力」の素質があるとシグリーシャは言っていた。
なのになんで、お前は精霊力を貯めて精霊と契約を結ぼうとしなかったんだ?
こんな心の美しい精霊さんがすぐ近くに存在してたんだぞ?
もし水精霊さんと契約出来ていれば、お前はそこまで悲しい想いなんかをせずに済んだんだ。
シュワンの記憶を探っても、シュワンは精霊との契約など全く考えてなかった。
あるのは、兄弟仲良くする為にも自分が目立ちすぎないよう気をつける・・・・それだけだった。
シュワン、お前はホント優しすぎる・・・・
俺はシュワンに対し、そう思わずにいられなかった。
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