第31話 暗くて汚い中で・・・・

 改めて俺こと諌山修一は、転生を果たした。

女神シグリーシャが管理している世界「テラクラム」に。

転生先はジャスティス公爵家3男、シュワンの肉体にだ。


 でも転生直後の光景は、全く想像してない状況だった。

転生して目を覚ました場所は、部屋の中だった。

レンガで造られてる壁に床、木製のテーブルに木製のベットらしき物。


 転生先が貴族の3男で、目覚めた場所が部屋の中。そこまではいいんだ。

ただ問題なのが、部屋の中がな点だ。

・・・・「転生して気づいたら汚物まみれでした」なんて、

本にしたら誰が買うんだよ・・・こんな転生者が他にいるか?


 更にだ・・・・この汚物の元も、汚物を撒いたのも「シュワン」本人なんだ。


 理由は・・・・裏切られたからだ。ずっと好きだった幼馴染のメイドに。

その上2人の兄と1人の姉、そして弟も・・・・兄弟全員から一斉に。

ずっと自分の味方だと思っていたメイドも、完全には信じてくれなかった。


 シュワンからすれば、将来の自分の嫁になってくれると思っていた人と、ずっと仲良くして行きたいと思っていた兄弟全員に裏切られた。

 

 ・・・・そして、絶望に打ちひしがれて「壊れた」


 誰も信じられなくなった。部屋に入れたくなかった。

その為、この部屋のトイレ・・・・要は「おまる」にあたるわけだが、その中身を自分でぶち撒けて誰も来れなくした。

そしてベッドに潜り込んで現実逃避を続けて・・・・

心を、「魂」を殺してしまった。


 シュワンもまだ15歳なったばかりで、自害する勇気までは持てなかった。

かといって、このまま生き続けるのも嫌だった。

だからシュワンはずっと「消えたい」と願っていた。

このまま消えたい、はやく消えたいと念じていた。


 つまり、自分の魂力をもって自分自身(=魂力)を消したいと願った。

結果として、望みどおり魂を消してしまった・・・・か


 ・・・・こんな部屋で1人で・・・・悲しいな、シュワン。

管理神たるシグリーシャも、手助けすることが出来なかった。

たから悲しかったんだろうな・・・・


 くっ!

この汚臭が酷い部屋は、長い時間見続けるのも居続けるのもつらい!


 がっちりカンヌキで閉じてあった外に通じてる扉を開け、俺は外へ出た。


 ・・・・


 外に出て真っ先に目に付いたのは・・・・5メートルほどある石の壁。

それがぐるりとこの公爵家を囲んでいる。


 空には星と、大きい赤い星があった。あれがこのテラクラムの「月」に該当するものだとシュワンの知識から理解できた。

大きい月だ、地球の月より3倍は大きく見える。

「赤いと3倍」っていう法則は、この世界でも同じなのか?


 この月のおかげで、電灯がないこの世界の夜も真っ暗という訳じゃない。

まあ、俺には「夜目」があるからもともと大丈夫だけど。

 

 庭を見渡すと、公爵家とは思えないくらい寂れていた。

正面ではない裏庭で、かつ隅だからだろう。

手入れがされてないと思われる小さめの木がたくさん生えていた。

その木々と壁の間に井戸と小さな石囲いがあるのが見えた。

俺はその場所へ向かっていった。


 シュワンの記憶から判っていた事だが、その井戸は枯れていた。

暗い井戸の底を夜目で覗いてみると、うっすらと汚れた水溜りがあるだけ。

そして井戸の横には、石で作られた囲いがあった。

一時的に水を貯めておくために作られた囲いの中は、濁った黒い水が溜まっていた。


 これは汚いけど、上の部分くらいなら飲めるか? 

何しろこのシュワンはもう数日間、一切何も飲み食いしていない。

喉がカラカラで痛いくらいだ。


 そう考えながら手を伸ばした途端・・・・

【ピピピ!】

と、警報が鳴った。


俺はびっくりして飛びのき、あたりを見回した。

が、何もないし誰も居ない。


あれ?

俺は警戒しつつも、もう一度囲いに近づく。


(この水は飲めるのか?)

さっき考えたことをもう一度考える。

【ピピピ!】

と、警報が鳴った。


 ピンと来た。これは「危険察知」の能力だ。

便利じゃないか!これなら毒とか気にしないで済む。

能力発動なんて、ようやく異世界らしくなってきたな。


 にしても飲めないのか。

では体を洗うのに使うのは・・・・

【ピピピ!】

それもダメってか。


 この危険察知って有能だな。

もっと検証したいけど、まずは水の確保と体を拭くことが先だ。

さてどうするか?

夜番で起きているだろう警護の所にでも行くしかないか?


 しかたなく俺はきびすを返そうとした。

その時・・・・


「あれ、シュワン様が来ているの。めずらしいの。

 何をしているか気になるの」


急にそんな声が聞こえたので振り返った。

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