第17話 修一の分岐点

 [・・・・本当に殺してしまうのですか?]


 再度、同じ問い。

いつもと違い、会話になるようだ。


「・・・・俺の勝手だ」


 [真に「悪霊」となってしまいますよ?]


「・・・・だから、コイツを見逃せというのか?コイツが可愛そうだとでもいうのか?」


 [いいえ、彼女は酷い裏切りをしました。あなたが恨むのも憎むのも当然だと考えます]


「なら止めるな。引っ込んでろよ!」


[悪霊にならないよう、これまで頑張ってきたのではないですか?それを無駄にしてしまう気なのですか?]


 ・・・・


[それに・・・・]


 ・・・・


[まだ・・・・最後まで「見て」はないでしょう?]


 ・・・・


[・・・・もう一度だけ、彼女を記憶をよく見て下さい]



 ・・・・



[それでも、まだ彼女を殺したいと思うのであれば・・・・そこまで恨んでいるのであれば、私に止める資格はありません]



 ・・・・ちくしょう・・・・



[・・・・もう一度だけ、彼女を見てあげて下さい]



 ・・・・



 俺はもう一度だけ「憑依」した。



 ***



 数分後・・・・


 憑依を解除して・・・・もう一度コイツ・・・・いや、かつて想い恋した人・・・・

白川薫をよく見た。


 涙して寝ている姿を改めてみると、髪の根元が白い部分が結構あった。

知っている、これも見たから。

既に白髪が多く出来ていて、染めて隠している事を。


 それだけじゃない・・・・


 テレビに取り上げられた事で親戚や近所にも知られ、それが原因で両親の仲が悪化し離婚になった事も。

 

 離婚して引き取られた父親に暴力を振るわれるようになり、家を出ざるを得なかった事も。


 俺や彼女の両親を不幸にしてしまった自分が許せなくて、己への罰も兼ねて風俗で働きはじめた事も。


 また、風俗譲になってからの記憶も見た。


 後悔してたくさん泣いた事。

仕事が辛くてたくさん泣いた事。

うつ病になりずっと薬を飲み続けた事。

それでも働く場所と店を変えながら、風俗譲を続けた事。

辛いから自分自身に対する罰になると思い込んでた事。


 全て・・・・知ってしまった・・・・


 馬鹿だよ・・・・

俺はそんな償いなんかされても・・・・嬉しくもないし報われもしない。


 そんな時、もうほとんど意識がないはず彼女がつぶやいた。


「・・・私の事・・・大事・・・思ってく・・・たのに・・・・裏切って・・・・」


「・・・本当に・・・ゴメンなさい・・・・修一さん・・・・」




 ・・・・それを聞いて、彼女を「殺そう」という気持ちが・・・・失せてしまった。


 

 同時に、俺の中の俺を縛っていた「何か」が、全て切れたのが判った。




 ああ、そうか。


 たった今、俺は地縛霊でなくなったんだ。




**********

=作者あとがき=


作者の獰猛死神です。読んで頂いてありがとうございます。


ようやくここから主人公がといきたいのですが、

その前にいろいろと設定があったりします。

なんでつまり・・・・まだプロローグ続きます。


作者はチキン野郎ですので、誹謗の類はご遠慮下さい。

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