トキー④

 演奏が終わった。先生が立ってと合図で立ちあがり、客席からパチパチと拍手がなった。照明が消え、移動をする。次の学校が待っているから。

 演奏が終わって自分達の楽器をしまうところにきて、ようやく緊張が少しとけたのか、楽器をしまいながら会話をする余裕がうまれた。

 「皆さん、お疲れ様でした。素晴らしい演奏でした。そうですね、山口先生」

 「お疲れ様。本当今日のが一番のできだと思います」

 「山口先生のお褒めの言葉がでました。私も今日が一番いい出来だと思います。まだ演奏している学校と結果が残っています。片付けをして戻りましょう。まだ、安西と泉山校が残っています」

 「「「はい」」」

 俺自身も先生の言葉を聞く前から今まで一番良かったという、手応えを感じた。

 みんなが楽器を片付けている。ふっとここにいない結唯にも聴かせてあげたいと思った。

 「皆さん、片付けましたね。移動します」

 ゴロゴロと外で雷の音がした。

 「雨が降りそうだな」

 「そうだね。降水確率60%って言っていたし。雷まで鳴ってきたし」

 「大会が終わるまでもつといいけど」

 移動しながら外で雷の音が聞こえてきた。空もいかにも降るぞといった空模様だった。





       ****






 「最後に泉山校なんて、迫力がすごすぎます」

 「本当」

 「あと15分で結果がでる」

 演奏が全校終わり、今は結果発表を待っていた。結果発表されるまでの待っている時間も嫌なものだ。

 「違う意味で気持ち悪くなりそう」

 「しっかりなさい。まったく」

 「時間だ」

 『お待たせしました。第56回北関東音楽祭の結果発表をおこないます。まずは……』

 アナウンスが流れた。今、音楽祭の会長の挨拶が始まった。次に審査員の代表の人の挨拶と流れで結果発表。

 俺達は北関東のブロック。関東は多いので北と南で別れておこない、ここで金賞をとれば地区大会。関東の北と南の代表校が集まり、そこで2校だけが地区代表。そして全国と#駒__こま__#を進める。流れ的には、野球やサッカーみたいなもんだ。簡単にいうと。

 『では、結果発表に参ります。プログラム番号1番……』

 とプログラム順番に発表していく。

 『プログラム番号5番、兼森高等学校、銀賞』

 パチパチと拍手の中、泣き声も聞こえてくる。

 「兼森校が銀。今回の審査、厳しいの?」

 「分かりません」

 強豪校と呼ばれている学校の一つが銀となれば、驚きだ。それから結果発表は続いていく。

 その後の強豪校に入る古舞駑校が金安西校が銀となっている。

 20校が参加で金賞が6校、銀賞が8校、銅賞が6校になるらしい。アナウンスで始めの説明で言っていた。

 次が俺達、星崎校の番。

 『プログラム番号15番、星崎高等学校、金賞』

 「……っ」

 「やったー!」

 「嘘でしょう!」

 俺達が座っている席から喜びの声があがった。拍手の音も聞こえる。

 「おめでとう、白銀君」

 「遠堂先生……ありがとうございます」

 ブー、ブーと遠堂先生の隣にいた山口先生のスマホがなった。先生が席を外していく姿を見て、急に不安になった。

 会場=ホールの中は、4ヵ所の出入口がある。俺達が座っている場所から、右下の出入口が一番近い。少したってから山口先生が戻ってきた。

 「遠堂先生、白銀君、冬馬君、四宮さん、ちょっといいですか」

 山口先生に肩をポンと叩かれ、先生達のあとに続いた。右下の出入口に出た瞬間に山口先生が話す。

 「早乙女さんの容体が急変したそうです。私は今から病院に行ってきますので遠堂先生、あとをお願いします。白銀君達は、表彰式までみんなにバレないようにお願い」

 「「はい」」

 「白銀君、大丈夫ですから」

 「……」

 「……山口先生。達也を連れて行ってあげられませんか?」

 「……冬馬」

 「……私からもお願いします。あとは、私と山之内君で何とかします」

 「四宮さんまで……分かったわ。白銀君、一緒に行きましょう」

 「はい。ありがとうございます」

 「鞄は俺が預かっておく」

 「ありがとう、冬馬」

 「行きましょう、白銀君」

 「はい」

 俺は、山口先生の車に乗せてもらい、一緒に結唯がいる病院へ向かった。

 病院へ向かっている最中、やはり雨が降ってきた。しかも強い雨。上から車を叩きつける音がずっと鳴っていた。





 音楽祭の会場から山口先生車で50分ぐらいで病院についた。たまたま、隣町だったけど夕方の時間帯と前もあまり見えない雨のせいで遅くついた。

 俺と先生は手術室へ向かった。先生はあらかじめ、電話がかかってきた時に話を聞いたんだろう。急いで手術室へ行く。

 走って、走ってようやく手術室を見ると泣いている結唯のお母さん、それを支えているお父さんの姿が見えた。

 結唯はどうなった?

 「早乙女さん!」

 「! 山口先生。達也君!」

 先生は結唯両親のところへ行った。俺もゆっくりと。

 「遅くなって申し訳ありません。早乙女さんは?」

 「……つい、先ほど亡くなりました……」

 「そ、そうですか……」

 「うっ……結唯、結唯……」

 「……」

 俺はゆっくりと歩き、まだ手術室から見える結唯に叫んだ。

 「結唯、結唯! 目を開けてくれ! なぁ、結唯。二人で約束しただろう。大会で金賞をとるって。金賞をとってきたのに結唯が、結唯が目を開けないで、どーするんだよ。なぁ、結唯!」

 「達也君!」

 俺は手術室から見える結唯に向かって叫び、そしてドンドンと叩いた。強く。結唯に目を覚ましてほしいから。

 どんなに叩いても、叫んでも、結唯は反応してくれない。結唯の近くに行きたい。でも、俺と結唯との間には、ガラス越し、透明なガラスの板がある。結唯の元へ行けない。

 「結唯、結唯!」

 「達也君。これ以上は、君の手が壊れてしまう……」

 結唯のお父さんに後ろから両手首を掴まれ、叩くのをやめさせられた。

 「っ……うっ……っーーーーーーー」

 俺は泣き崩れた。けど、俺の声は外の激しい雨の音によってかき消された。

 俺の泣き声は、その場にいた人しか分からない……。

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