トキー②

 「いらっしゃい、達也、冬馬君、香織」

 「結唯、夏風邪は大丈夫なの?」

 「うーん、まぁまぁかな。たまに、咳が出たりするの。だからマスク。マスクしながら話するね」

 「気にしないで。はい、これ花束」

 「ありがとう、みんな」

 四宮さんが結唯に花束を渡した。

 「お母さん」

 「花束ありがとうね。花瓶に生けてくるわ」

 結唯から預かった結唯のお母さんは花束と花瓶を持って席を外した。

 「結唯ちゃん。俺からの突然案だから一度しか見られないけど、これ」

 「スマホ?」

 「3年メンバーで動画撮ったんだ。結唯ちゃんへのメッセージ。風邪も引いているって言っていたから。画面をスタートすれば見れるから」

 「ありがとう。さっそく見るね。じゃあ、冬馬君。少しスマホ借りるね」

 「どうぞ」

 結唯はスマホを操作して動画を見始めた。俺達は黙って見守る。

 そう、お昼休憩の時に冬馬が言ったのが動画だった。学校の部活中で本格的な物を使ってメッセージビデオとか、準備をする事は出来ないけど、スマホで結唯へ動画メッセージなら出来ると思いついた冬馬はすぐさま行動をとった。

 一人ずつじゃあ長いから、二人あるいは三人で撮る。その場で思いついたメッセージ動画だった。

 しばらく、結唯はその動画を見て、冬馬にスマホを返した。

 それと同時に結唯のお母さんが戻ってきた。

 「達也、冬馬君、香織。素敵なメッセージ、ありがとう」

 「あら、何か貰ったの?」

 「うん、同じ部活仲間、3年のみんながね、メッセージ動画をくれたの。冬馬君が撮ってくれて、それを見ていたの、ごほん!」

 「分かったから興奮しないの。風邪だって治っていないのに安静にしなさい!」

 「嬉しくって、つい」

 「まったく……。結唯が興奮するぐらいだから素敵なものだったのね、ありがとう」

 「良かったな、冬馬。成功して」

 「あぁ」

 「じゃあ、私達はここで失礼します。結唯だって本調子ではないので」

 「そうだな、俺達が長居していると結唯ちゃん、落ち着かなさそうだし」

 「え~そんな事ないのに」

 「元気になったらたくさんいろんな事、出来るだろう」

 「……うん、そうだね」

 「「「お邪魔しました」」」

 「気をつけてね。あっ、結唯。お母さん、トイレに行ってくるわ」

 「……あーはいはい」

 「四宮、行こうぜ」

 「あっ! そうですね」

 「先に行っているぞ、達也」

 「あぁ」

 三人が病室から出て行ってしまった。

 「「……」」

 お互いにどっちから話していいのか、し~んと静間になってしまった。何か話さないと病室の外で待っている二人に悪い。

 「なんか、気使わせたな。冬馬や四宮さん、それに結唯のお母さんにも」

 「そうかも。ねぇ、達也」

 「ん?」

 「お願いがあるの」

 「お願い?」

 「そう、聞いてくれる?」

 「難しいのは無理だぞ」

 「分かっているよ、そんな事は」

 結唯が頬をふくらませ、その光景にお互いにクスッと笑った。

 「じゃあ「手を握ってほしいの。ダメかな?」

 「! いいよ」

 結唯のお願いは、手を握ってほしい事。それくらいならと俺は結唯の近くまで行き、結唯の手を優しく握った。握った瞬間に結唯は、嬉しそうに微笑んでくれた。

 俺は、手を握ったまま、結唯に話し掛ける。

 「明日、本番だよ」

 「そうだね、明日だね。私の分も頑張ってね!」

 「もちろん、頑張るよ。結唯の思いと一緒に。そして二人で約束した金賞。金賞をとってくるから」

 「! うん。達也達なら大丈夫だよ。たくさん練習してきたんだから」

 「ありがとう。もう、行くよ」

 「うん」

 俺は結唯から手を放した。ゆっくりと結唯から離れていった。

 「また、明日来るよ。金賞をとって次の大会の切符を持って。そして今度は結唯も一緒に大会に出よう」

 「うん。信じて待っている……」

 「じゃあね」

 「うん、達也。大好きだよ」

 「……っ。俺も好きだよ、結唯」

 最後に一言、結唯に言った瞬間、顔が赤くなるのを感じながら病室を出た。

 「お待たせ」

 「じゃあ、帰ろうぜ」

 「そうですね」

 結唯に自分の思いを伝えた。あとは、明日の大会。いわゆる予選みたいなものだ。絶対に金賞をとると心に決めて。

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