時間(トキ)

 真夏の時間は、あっという間に過ぎていく。始めの頃は、夏の大会までまだ時間があるなんて言えたのに、もう夏の大会まで1週間となった。早いし、あっという間だ。

 今日も連絡にはげむ。今日の練習を含めてあと6日。本来なら土日は練習しない。しかし、大会前ということで、日曜日は練習ありの月曜日が最後の練習となる。みんなの気持ちも高まっていると思う。

 「達也、今日早く部活が終わるから結唯ちゃんのお見舞いに行こうぜ」

 「いいよ。二人で行くのか?」

 「うーん、一応、四宮にも聞いてみるわ」

 「分かった」

 「じゃあ、あとでなぁ~」

 今は休憩時間。冬馬が俺のところに来て、結唯のお見舞いに一緒に行こうと言ってきた。もちろん、予定がないし、結唯に会いに行ける時間があるなら行きたいと思っていたから。

 本当は俺から冬馬にお見舞いに行こうと部活後に言おうと思っていたけど、先にこされたか。

 「白銀先輩」

 「茉莉奈まりなちゃん、何か心配なところでもあった?」

 「あっ、いいえ」

 同じホルンの1年生の茉莉奈ちゃんが話をしてきた。

 「今日、結唯先輩のところへ行くんですよね?」

 「そうだね」

 「あの、結唯先輩に渡したい物があるので、結唯先輩に届けてもらってもいいですか?」

 「いいよ。何を届けるの? 内緒だったら聞かないけど」

 「CDを届けて欲しいんです」

 「CD?」

 「はい。先輩のお見舞いに行ったら、好きな音楽の話しをした時に偶然にも、私と先輩の好きなアーティストさんが一緒だったので意気投合して、その好きなアーティストさんの最新曲が出たのと先輩が聞きたいと言っていた、CDを持ってきたので」

 「それを渡せばいいんだね。いいよ。今、ちょうど休憩時間だから、預かろうか?」

 「えっ、いいんですか。お願いします。帰りだと忘れそうなので。今、取ってきます!」

 茉莉奈ちゃんは、CDをとりに教室を出ていった。2、3分後に茉莉奈ちゃんが戻ってきた。

 「すみません、これお願いします」

 「分かった、預かるよ」

 小さめのバックにCDが入っていた。本当に小さめのバックなのでCDケースが少し見える。チラッと見えた俺は、何もないかのように預かった。

 (結唯が好きそうな曲ばっかりだな)

 「すみません、部長。遠堂先生が呼んでいます」

 「分かった、ありがとう。職員室?」

 「はい、そうです」

 俺は楽器をその場に置いて、職員室に向かった。


 



 練習が早目に終わって、冬馬と結唯のお見舞いに行く約束をしていた俺は今、駅の中にいた。冬馬が四宮さんも誘ってみると言っていたけど、予定がある四宮さんは今日は来ない。

 俺と冬馬だけだ。

 それに部長が早目に終わっても、その後の仕事を終わらして駅に来たのもいいが、結唯がいる町へ行く電車は、もう行ってしまった後だった。次の電車は、15分後らしい。待っている時間は暇だ。

 「ほれ、ジュース。俺のおごりなぁ」

 「ありがとう。明日は槍が降ってくるなぁ」

 「うわぁ、ひでぇーー。それなら、返せ」

 「冗談だよ」

 俺は、冬馬が買ってきてくれたサイダーを一口飲んだ。シュワシュワと炭酸がひろがる。隣には、冬馬がいる。冬馬は何を飲んでいるのか、気になった。

 「あれ、冬馬が炭酸じゃあない!」

 「そんなに驚かなくっていいだろう」

 「だって、冬馬の炭酸好きを知っている俺から言えば、炭酸を飲んでない、冬馬を見るなんて驚く! 明日、槍が絶対に降ってくる」

 「また、言うかそれ!」

 「それくらいの驚きだ」

 「そーかい。おっとそろそろ電車が来る時間だ。移動しようぜ」

 「そうだな」

 ジュースのグイっと残りを飲み干して、空き缶を缶捨て場に捨てて、目的地に向かう電車が丁度、来たので乗り込んで、そのまま出発した。




       ****




 病院に来た俺と冬馬は、さっそく結唯のもとに向かった。結唯がいる2階へ行き、205号室につくと面会謝絶になっていた。

 俺と冬馬は、お互いにあれと顔を見合わせて、もう一度、何で?と言いながらドアの前で動きが止まった。

 「面会謝絶って、何で、どうしたんだろう、結唯?」

 「気になるけど、これじゃあ中に入れないし、どうする? それ、渡してほしいと頼まれた物だろう?」

 「そーなんだよな。どうしょう?」

 「あら、こんにちは、達也君、えーと冬馬君よね」

 名前を呼ばれて、声が聞こえた方を見ると買い物に行っていたのか、結唯のお母さんの姿が見えた。

 「「こんにちは」」

 とりあえず、挨拶をして面会謝絶の理由を聞く事にした。

 「あの、面会謝絶って、結唯に何か……」

 「これね。結唯ね、夏風邪を引いてしまったみたいで熱が高いから熱が下がるまで、面会謝絶にした方がいいだろうってお医者さんから。他の人にも風邪、移したら悪いし、ね」

 「夏風邪ですか。じゃあ、これ結唯に渡して下さい。なんか、後輩と約束したみたいで本人が見れば、分かると思います」

 「分かったわ、渡しておくわね」

 「じゃあ、俺達は帰ります」

 「せっかく来てくれたのに、ごめんなさいね」

 「いいえ、お大事にと伝えて下さい」

 「ありがとう、達也君」

 「失礼します。冬馬」

 「あぁ、また来ますね」

 「ありがとう」

 俺と冬馬は、結唯のお母さんに渡す物を渡して、挨拶して帰ることになった。

 「結唯ちゃん、風邪かぁ~。この事、みんなに知らせるか、達也。結唯ちゃん、本人に会えないし」

 「そうだなぁ。明後日までは、行かないよう、伝えておいた方がいいかな、とりあえずは」

 「そうだな。夏風邪は治るのが遅いし、厄介やっかいだよな」

 「そうだな」

 「……元気だせ、達也。また、お見舞いに来ればいいんだから」

 「! ありがとう、冬馬。そんなに暗かったか?」

 「まぁ~な。恋人が心配なのは、分かるけどな」

 「ありがとう、冬馬。帰ろうぜ」

 「そうだな」

 俺は冬馬にお礼を言って一緒に帰った。

 結唯の体調が元気になってくれる事を祈りながら。

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