思いー⑤
今日は部活が休み。そして、今日は結唯のお見舞いに冬馬と四宮さんと行く事になっている。昨日の夜に結唯に明日、お見舞いに行くとラインしたら、〈遅いよ!〉という返事がきた。〈ごめん〉と返したら、〈私の好きなシュークリームが食べたい。買ってくること、そしたら許す〉ときた。
その内容を見た俺は、ぶぅと吹き出して微笑んだ。
そして今、俺は駅向かっている。もちろん、結唯のリクエストの品物を持って。そこで、冬馬と四宮さんと一緒に二つ先の駅に行って、そこから降りて歩いて10分くらいのところに結唯が入院したいる病院がある。
冬馬と四宮さんは電車通だけど、真逆だから一度、集合して三人で行く事にした。
俺は、バックからスマホをとり、時間を確認する。
「そろそろ、二人がつく時間かな?」
少し早足で駅まで歩き、駅の中に入った。
「よっ、達也!」
「こんにちは、白銀君」
「ごめん、待った?」
「大丈夫です。さっき着いたばかりです」
「そっか~」
「じゃあ、結唯ちゃんのところへ行くか」
「そうですね」
俺達は、さっそく結唯がいる病院を目指した。俺達は目的地に向かう往復切符を買って電車に乗り込んだ。
色紙が冬馬、千羽鶴は四宮さんが持ってくれている。俺は結唯に頼まれた物。
俺が持っている物に興味がわいたのか、冬馬が聞いてきた。
「達也、その箱はなんだ?」
「あっ、これ、シュークリーム」
「へぇ~、達也のチョイスか。やるじゃん!」
冬馬の言葉を聞いて、俺の心の中で『うっ』と呟いた。俺のチョイスじゃあない、もう、何もかも話してしまえと心の中で思った。
「……結唯に頼まれた……」
「結唯!」
「どういう事。なんでまた?」
「……お見舞いに来るのが遅いって。シュークリームを買ってきたら許すって」
「あはは……結唯ちゃんらしい!」
「まったく、あの子は……」
そのあとも話をしながら目的地まで、電車に揺られていた。
「ここに結唯ちゃんがいるんだ。大きい病院だな」
「本当に……」
降りる駅について、降りてから歩いて本当に10分くらいのところに大きな建物が見え、そこ行ってみると大きな病院だった。
事前に結唯から病院の名前をラインで教えてもらっていたので、間違いなくここであっている。しかし、本当に大きい病院だ。
「結唯ちゃんは、何階の何号室?」
「えーと、2階の205号室だって」
エレベーターで2階に行き、205号室に向かった。205号室に向かっている時、俺の心臓はずっとドキドキしている。ようやく結唯に会える、まるで告白をした時と同じあるいは、それ以上かもしれない。
「ここですね」
コンコンと四宮さんがドアをノックして、中から答えが聞こえた。『どうぞ』と声を聞いてドアを開けた。
「「「こんにちは」」」
「やっと来てくれた~」
中から明るい声が響く。
「こら、結唯。静かにしなさい。先生から安静にって、言われているでしょう!」
「だって……」
「ごめんなさいね、どうぞ、入って」
中には、結唯と結唯のお母さんがいた。
「学校のお友達かしら?」
「えーと……」
結唯のお母さんに話しかけられ、二人は固まってしまった。二人共、病室には結唯しかいないと思っていたのかな。
俺は面識があるので普通に態様した。
「こんにちは。お久しぶりです」
「あら、達也君。本当に久しぶりね。まぁ、ずいぶんと大きくなったわね。ご両親、元気にしている?」
「はい。元気過ぎるくらいです」
「そう。あっ……なるほどね。達也君が来るから、あんなにそわそわしていたのね」
「ちょっとお母さん!」
「あはは……。これ、シュークリームです」
「ありがとう。そっちのお二人さんは?」
「同じ部活の仲間です」
「そ~なの。結唯の母です」
「結唯と同じクラスの四宮香織です。部活も一緒です」
「友達だよ」
「初めまして山之内冬馬です。同じ部活仲間です」
「そーなのね。どうぞ、ゆっくりしていって」
「「「はい」」」
俺達は結唯のお母さんに進められパイプイスに座った。
「あっ、いけない。忘れ物を思い出した。達也君達はまだ、ここにいる?」
「あっ、はい」
「じゃあ、ごめんなさい。今からちょっと家に忘れ物を取ってくるから少しの間、結唯の話し相手をお願いしてもいいかしら?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとう。じゃあ、結唯。お母さん、一旦、家に戻ってまた来るから」
「分かったから気をつけてね」
「うん、行って来るわ」
結唯のお母さんは、バックを持って病室を出ていった。さっきまで騒がしかったのが、急に静かになった。まるで台風が去っていったように感じる。5秒くらい、みんなして一言もなかった。
「変わらずマイペースなお母さんだよね、結唯」
「まぁね。でも今日は達也がお見舞いに来たから余計にそーかもね」
「そっか。でも四宮さんも結唯のお母さんに会うのが始めてなんて思わなかったよ」
「そうですね。いつも結唯と遊ぶ時は外ですしね」
「まぁ、高校生になるとあまり家にいないだろ」
「それと同じですね」
俺は、四宮さんは結唯のお母さんと顔合わせた事があると思っていたけど、実際、初めて挨拶をした事にちょっと驚きを感じた。
結唯も点滴のおかげか、元気に見える姿に少しほっとした。
「結唯ちゃん。ここ、個室だよね」
「うん。ここしか、空いていなかったみたい」
「そうなの。まぁ、私達みたいなお見舞い者がたくさん来る人には、ありがたいですけど」
「だな。会話の内容とか気にしなくってもいいし」
「そうだね。あっ、達也。本当にシュークリームを買ってきてくれたんだね。ありがとう」
「だって、結唯が買ってきてって、言ったんだろう」
「そうだけど、本当に買ってくるなんて思っていなかったから嬉しいよ、ありがとう」
「良かったな、達也。あっ、これ」
冬馬と四宮さんが結唯に色紙と紙袋を渡した。色紙は、一つにまとめてリボンをしてあるから分かるけど、紙袋は分からないだろう、中を開けないと。結唯の反応が楽しみだ。
「わぁ~これ色紙。部活のみんなから?」
「そうだよ。達也が発案したんだよ。なぁ、四宮」
「そうですね。結唯が学校で倒れた日に3年で集まって」
「そうなの、嬉しい。で香織が持っている紙袋は何?」
「後輩達から預かってきたの」
「後輩から? なんだろう?」
結唯が四宮さんから、渡された紙袋を開けてみた。
「わぁ~すごい! 千羽鶴だ。これ、本当に後輩のみんなで」
「そう。3年には内緒で作っていたんだよ。色紙を書く事は、みんなに伝えたんだけど、なかなか色紙の進み具合いが悪かった。それで昨日、冬馬が色紙の件をみんなに言ったら」
「千羽鶴のおまけ付き。千羽鶴が完成したら、色紙も完成。だから一緒に持ってこられた」
「そーなんだ。みんなにありがとうって伝えてね」
「分かっていますよ」
その後は、結唯のお母さんが戻ってきて、みんなでシュークリームを食べながら、いろんな会話をした。部活、テレビ、日常とたくさんのお話を。
今日、境に結唯の様子が急変していくなんて、誰も思っていなかった。
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