思いー④

 「今日の練習はこれで終わりにします」

 「「「ありがとうございました」」」

 今日の練習が終わった。楽器を片付けを始める。俺はみんなが楽器を片付けを始めた時に音楽室にある、大きなグランドピアノのところに山口先生が用意してくれた、色紙を置いておく。これを朝の練習前にも置いておく。そして練習時間になったら回収をする。その繰り返し。

 色紙を3枚を並べておく。1、2年生が多いからとりあえず、3枚置いておく。結唯宛ての色紙に言葉を書いた人は、色紙の横に名簿があるのでチェックマーク、〇をつけてもらっている。じゃないと確認が大変だ。

 あと少しで、全員が書き終わるみたいだ。

 今が夏休みだから、部活の始まる前や終わった後に書いてもらっている。みんなにかくしているみたいで、申し訳ないと思う。  

 さて、俺も楽器を片付けないと。




 「部長。今日は私達で結唯先輩のお見舞いに行って来ます」

 「分かった、ありがとう。色紙の方はまだ、全員そろってないから内緒で」

 「はい。では失礼します」

 「よろしく~」

 今日は2年生がお見舞いに行ってくれた。

 俺も結唯のところへ行きたいが、まだ、行っていない。部長の仕事が大会に近づいていくにつれて、なぜか忙しく感じている。

 一応、ラインを送っているが、そろそろ結唯の顔を見たい。もう、お見舞いに行ってくれた、後輩達や同じ3年の仲間から結唯の話を聞いている。が、やっぱり顔を見ないと寂しいと感じる。

 「達也、色紙の方はどうだ?」

 「おと数人ってところかな。やっぱり、こういうのって女子はすらすら書けるけど、男子は苦手意識、多いよなぁ~」

 「なるほど、残りの数人って男子が多いと」

 「その通り。同じ学年だったら、まぁ~なんとかなるけど、違う学年だと難しいだろう」

 「そうだな」

 「良かった、まだ白銀君と山之内君がいて」

 「あれ、四宮。今日は部活後に予定があるからって、先に帰ったはずだよな?」

 「遠堂先生に捕まりまして、明後日の予定変更があるから最後、寄ってほしいと確かに伝えました。また、明日」

 「わざわざ、ありがとう四宮さん」

 「急いでいるんだったらそのままでいいのに。どうせ、鍵を返すのに」

 「四宮さんは、真面目で責任感が強いから」

 「……確かに。どっかの誰かさんも同じだよな~」

 「それは俺か?」

 「他に誰がいる?」

 「……」

 今日、四宮さんは部活後に用事があるから今日の戸締まりは、俺と冬馬。だからもう帰ったはずの四宮さんが、音楽室に現れた時はさすがに驚いた。

 「さて、帰りますか」

 「そうだな」

 音楽室の戸締まりを確認して、鍵をかけて職員室に向かった。

 「ところで結唯ちゃんは元気なのか? ラインぐらいやっているんだろう、達也」

 「うん、ラインはやっているよ。文章の内容は元気そうに思える。けど、実際に会わないと分からないだろう」

 「まぁな。早く会いたいくせによく、我慢できるね、恋人君」

 「うるさい!」

 「あら、あらあら~照れているの、かわいいなぁ~達也君」

 「……っ」

 ドスッ!

 「うっ!」

あまりに冬馬がからかってくるから、横腹をパンチしてやった。会話をしながら職員室に鍵を返して、遠堂先生のところに行き、先生の話を聞いてその後は、冬馬と正門で別れて家に帰った。





 「これで今日の部活を終わりにします」

 「「「ありがとうございました」」」

 「先生の方から連絡があります。朝、部長の白銀君から聞いたと思いますが、明日の練習はお休みになります。以上です」

 「「「はい」」」

 「では、白銀君、戸締まりをお願いします」

 「はい」

 先生が音楽室を出ていくと片付けが始まった。

 「なぁ、達也」

 「ん? どうした、冬馬?」

 「明日、休みなんだし、結唯ちゃんのお見舞いに行かないか?」

 「えっ、でも色紙がまだ全員じゃあ」

 「マジで。見せてみろよ」

 「はい」

 まだ色紙をピアノに置いていないので、冬馬に色紙を渡す。

 冬馬は、色紙を見るとまぁ、正確にはチェックシートだけど。

 「あと少しかぁ~。今日で終わるんじゃあないのか?」

 「分からないよ」

 「本当にバカがつくほど真面目だよな。まったく」

 「うっ」

 冬馬の言葉が胸に刺さる。本当は、すごく結唯に会いたいし、行きたい。でも…。みんなが書いてくれている色紙を持っていかないで、お見舞いなんてと思う、もう一人の自分がいる。

 本当に冬馬のお気楽なところ見習わないといけないかなぁ。

 「はぁ~。冬馬、ついでにそれピアノのところに」

 「置くんだろう。いいぜ。おーい、みんな注目!」

 冬馬は声に片付けしているみんなが冬馬を見た。

 「色紙をピアノのところに置くけど、まだ書いていない人、早めに書いてくれ。でないと頭の堅い部長がお見舞いに行けん。よろしく~!」

 「冬馬!」

 冬馬のしゃべりが終わった瞬間、俺は冬馬を呼んだ。

 「じゃあ、よろしくなぁ~」

 「「はーい」」

 部の中で笑い声が響く。まったく冬馬の奴。覚えていろよと心の中で呟きながら、俺は楽器を片付けた。





 冬馬の呼びかけのおかげか、今日はみんなの帰りがいつもより遅いような気がする。気のせいか?

 「あの部長。これ、どうぞ」

 俺は突然、部室いわえる準備室から出て来た、2年生三人から紙袋を渡された。

 「これって?」

 「開けてみて下さい、部長」

 「なに貰ったんだ、達也?」

 「なになに?」

 様子を見ていた、冬馬と同じ3年の赤羽あかばねさんが俺のところに来た。赤羽さんは結唯の次、あるいは、同等の明るさからムードメーカ的な存在。

 俺は二人に急かされるまま、紙袋を開けてみた。中には、折り鶴が見えた。もしかして。

 「千羽鶴?」

 「はい。私達、1、2年で作りました」

 「あと、部長遅くなりましたが、色紙これで全員です」

 「えっ、あ、ありがとう。千羽鶴、折るの大変だったよね。3年の集まりでも千羽鶴の話がでたけど、折るの大変だからってやめたのに」

 「そうなんですか。女子が多いので鶴を折れる人は鶴を折る。出来ない人は、色紙で時間稼ぎさせて頂きました」

 「やられたね~達也君」

 「そうだね。ありがとう、みんな。あとお疲れ様。明日、届けに行って来るよ」

 「「はい」」

 まさかのサプライズだ。俺達3年が知らないところで後輩達が、千羽鶴を作ってくれた事に。とてつもなく嬉しさご込み上げていた。

 「あれ、まだ残っていたのかい、みんなして?」

 「わぁ、先生。今から帰ります。みんな、音楽室を出よう。気をつけて帰ってね」

 「「はい」」

 いつまでも鍵を返しにこない事に不思議に思ったのか、遠堂先生が様子を見に来てくれたのだ。

 「いいですよ。様子を見に来ただけですから。白銀君、その紙袋?」

 「1、2年生からの千羽鶴です」

 俺は先生のところに行き、紙袋の中を見せた。

 「これはすごい。皆さん、頑張りましたね」

 先生に誉められ、嬉しそうにする後輩達。

 「明日、千羽鶴と色紙を持って、みんなの思いを届けてきます」

 「そうですか。きっと喜びますね」

 「はい。みんな本当にありがとう」

 最後にもう一度、お礼を言って、今日の部活は終了になった。

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