思いー①

 「暑いなぁ~」

 「そうだなぁ~」

 「本当に暑い!」

 「そりゃ、夏だし暑いに決まっているぜ、達也」

 「そうだなぁ~、夏だもんなぁ~」

 誰も使っていない教室で俺と冬馬はそこにいた。窓を開けて、外を眺めながら『暑い~』とさっきから言い合っていた。これで何度目か。

 今日も夏の大会に向けての練習がある日だ。もう、夏の大会まで2週間はきった。あと、わずかな時間しか残っていない。

 今、練習しているのかというと違う。

 夏の練習は、外も室内もかわらず、地獄だ。外は、日差しが室内はずっと戸締まりをしているから、ムシムシとまるでサウナの中にいるんじゃと言いたくなるほど、外と違う暑さがある。

 そんなサウナ状態の中でいきなりの練習は濃くなものと言える。

 だから、部長と副部長が早めに来て、部活で使う教室の窓を開け回っているのだ。

 顧問の先生は部活の他に学校のお仕事がある。だから朝、生徒より早く来ている先生が窓を開ければ、いいじゃんと思えるが、俺達の前、さらに前、前の先輩達が先生の負担を減らそうと部長と副部長が部員より早く来て、部活で使う教室の窓を開け回って行った事から、代々それが受け継がれていった。

 もちろん、今でも受け継がれている。

 なにせ、昔は生徒の数が多くって朝、学校に来てそうそう、練習に身がはいらなかったみたいだ。

 その窓を開ける当番が今日は俺と冬馬。

 いつも練習がある日は当番制。部長は関係ないが副部長は、二人いるので交代制でやっている。

 そして今、最後の窓を開け終わって、少しのんびりしていたところだ。

 始めは、もちろん音楽室。窓を開けて、机をどかして、イスだけを残しておく。一人でやると大変だが、二人でやると少しは時間をとられるが早い。

 音楽室が終わったら次に3階の金管楽器が練習で使う教室。ついでに廊下も。いつも、使う教室は決まっているので3階が終われば、2階。2階は木管楽器の練習場。2階も同じく決まっているから、教室プラス廊下も窓を開けて、少しでも快適にしておく。

 これを練習が始まる、9時までにおわしておく。とても、大変な仕事だ。

 「おはようございます、白銀君、山之内君」

 「おはよう、四宮さん」

 「おはよう、四宮。四宮が来たから音楽室に戻るか」

 「そうだな」

 教室からゆっくりと2階の廊下を歩いていたら四宮と遭遇した。

 「音楽室に行ったら見せたいものがあります」

 「「見せたいもの?」」

 四宮さんの言葉に見事にハモった俺と冬馬。

 「はい。先生から預かってきました」

 「じゃあ、早く音楽室に行こうぜ」

 冬馬は、少しはや歩きで俺と四宮さんから2、3歩先と歩いて行く。

 「さっきまで暑い~っていいながら各教室を回っていたのに……早く行くなぁ~」

 「えっ、気になるから」

 「あ~そう。冬馬は、本当に元気だよなぁ~」

 「まぁ~な」

 「バカと元気は〇〇〇が好きって言いますよねぇ~。それと似たようなものかしら」

 「ぶぅ―ー」

 「どうした?」

 「なんでもない、なんでもない」

 「そうか?」

 俺は四宮さんの言葉を聞いて、思わず吹き出した。それに気がついた冬馬だけど、俺がなんでもないと言ったら、冬馬は気にしないで歩きだした。

 それを見た四宮さんがさらに一言。

 「鈍い人というより、お気楽ですね」

 「あはは……誉めているんだよね?」

 「そうですね」

 俺は、哀れ、冬馬と思いながら四宮さんと一緒に冬馬の後を追い続けた。




 午前の練習。各パートで練習をする。俺は、自分のパート、ホルンのメンバーを見ていた。今は、全員で課題曲から合わせていた。

 「ストップ。今のところ、ちょっとズレたから気をつけて」

 「「「はい」」」

 「あと、青山君。今のところもう1回吹いてくれる」

 「あっ、はい」

 俺は、1年生の青山君にさっき吹いていたところを吹いてもらった。俺的にちょっと違和感を感じた。

 「ありがとう。ちょっと音のブレが目立ちそうだから、気をつけて」

 「はい」

 「じゃあ、ちょっと休憩にしょうか。他のパートは、やっているから教室から出ないように」

 「「「はい」」」

 「何か、聞きたい事があったら質問、受け付けるよ」

 「「「はい」」」

 「じゃあ、10分休憩で」

 10分の休憩をとった。その間に質問がなければ、自分のソロを練習する。

 「あの、白銀先輩」

 「どうした?」

 「さっき、音がブレを指摘された時、僕やっぱりと思いました」

 「なんで?」

 「音のブレをずっと気にしていて、どうすればいいのかなって」

 「そっか、悩んでいたんだな」

 「はい」

 ホルンのメンバーの中に唯一の男子。かわいい、後輩だ。

 「そうだなぁ。青山君は、

 『白銀君、大変です!』と廊下から声が聞こえ、話し声をやめると

 「白銀君、大変です!」

 「落ち着いて、四宮さん!」

 と俺は四宮さんをなだめた。

 「落ち着いて、何が

 「結唯が、練習中に倒れて」

 「えっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る