夏ー②
『そろそろ、達也とのソロのところだ』
先生が(いいですか)と目線で語ってくる。いよいよだ。
「っ!」
なんで音が出ないの!あんなに練習してきて、ここで音が出ないなんて……そんな……。
……今度も手に異常があるの?
「どうして音が出ないの……っ!」
「なんで!」
はぁ、はぁと走ったあとのように呼吸が繰り返される。落ち着くまで何度も呼吸を繰り返す。
「……夢……っ」
結唯は頭を押さえた。悪夢を見るようになってから、まともに寝た感じはしなかった。
そのせいか、頭痛がする。
「……っ。怖いよ。なんで……」
涙が溢れてきた。
****
「結唯ちゃんがお休み。本当に!」
「嘘を言ってどうするんですか」
「悪い」
お昼休みに四宮さんが俺と冬馬がいる教室に来て、四宮さんに呼ばれて廊下に今、いる。
「四宮さん。先生はなんて?」
「体調が優れないから様子見させていただきますって練習があったみたいです」
「そうかぁ。とりあえず、明日来ることを願って、今日は出来るだけ、フルートの1、2年生のホローしてあげよう。昨日の様子からして1、2年生は心細いかもしれないし」
「そうですね。同じ木管楽器の3年生にも声かけして、様子を見にいける時は、お願いしましょう」
「そうだな。俺と達也も手伝うから、何かあった時は言ってくれ」
「はい、そうします」
俺達でそれぞれ今日の部活の事について話し合った。結唯が休みだから、1、2年しかいないフルートを時々、様子を見にいくことを決めて、今日いない結唯は明日、また様子をみようと話し合った。
****
「おはよう、結唯」
「おはよう、達也」
偶然にも朝、結唯に会った。いつも、俺はわりと遅めの登校している。もちろん、遅刻しないように。だから、朝は結唯とは会わないで休み時間とかに会う。
「昨日は大丈夫か? 四宮さんから結唯が休んだって聞いたから、心配していたんだ。みんなで」
「ありがとう。昨日は親に止められて」
「そっか。今日は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
『大丈夫』と言った結唯の顔色は、あまり大丈夫そうには、見えなかった。とりあえず、俺は、そのまま話をする事を選んだ。
「そうか。まぁ、昨日休んで本調子じゃあないと思うから、あまり無理するなよ」
「うん、ありがとう」
そのまま、二人で学校に向かった。
下校。俺は結唯と一緒に帰っていた。
部活でもいや、部活以外の時間でも結唯の様子は変だった。部活のメンバーも結唯の行動を心配していた。
俺はパート練習の時に結唯に気づかれないようにもし、気づかれても大丈夫なように四宮さんと冬馬を呼んで、こっそりと話をしていた。
俺達、三人が集まって話し合いしていると思われるし、もしもの場合も考えて同じ3年メンバーが協力してくれた。あとから聞いた事だか、2年生も何人か協力してくれたみたいだ。俺達の話し合いが終わるまで時間稼ぎをしてもらった。おかげで、三人で話し合いができた。
そして、俺がまず結唯と話し合うという結論になった。
「なぁ、結唯。あそこの公園に寄って行かないか」
「えっ、急だね」
「ダメかぁ?」
「ううん、いいよ」
結唯のOKをもらい、そのまま小さい公園に向かった。二人の秘密の場所に。
公園についた俺と結唯は、お互いにベンチに移動してベンチに座った。ベンチに座って落ち着いた頃に俺こら話を切り出した。
「結唯。最近、何かあったのか? 顔色悪いし、本当に大丈夫か?」
「うん。……あるかな」
「話してはくれないか?」
「そうだね。……話せば少しは楽になるかもしれないし。達也、聞いてくれる?」
「もちろん、聞く。だから落ち着く場所に来たんだ」
「ありがとう」
(少しは元気でたかな。結唯の笑顔がでてきたかな)
顔色が悪いが、今までの
「最近、怖い夢を見るの。しかも毎日」
「毎日!」
「うん」
だから顔色が悪いのかと思った。
「ハナシシタクないならいいけど、どんな夢なんだ?」
「……足が石になって動けない、音が出ない、みんなが私に気付かないとか……」
「それは、怖いなぁ……」
「うん」
「病院には、行ったのか?」
「うん。お母さんと一緒に」
「そしたら?」
「ストレス。心のストレスじゃあないかって。私自身、そんな事はないと思うけど、無意識に部活の大会のプレッシャーや不安で心が疲れているんじゃあないのかって。それでよく眠れるように薬を貰ったの」
「効果ある?」
「まだ、貰ったばかりだから分からない」
「検査とかするの?」
「薬を飲んでダメなら一度、やった方がいいって」
「そっか」
結唯の話を聞いて、そんなにプレッシャーや不安をどれくらい感じているのかは、本人じゃあないから分からない。3年で選んだ曲は、確かにどのパートにも見せ場があるからプレッシャーは感じる。俺だってそうだ。
でも、本当にそれだけなのかと俺は思った。
何かいい方法はないのかと思った。1日、本当は毎日がいいけど、結唯がぐっすり眠れる方法はないかと考えた。
(何かないか……もし本当にプレッシャーや不安なら1日でもいいから忘れさせれば、ぐっすり眠る事ができるかもしれない。そーしたら……)
俺は結唯の話を聞いて、何かないか考えた。そしてあることを思いついた。
「結唯。土曜日と日曜日、どっちか空いているか?」
「えっ……うーんと日曜日なら大丈夫かも」
「日曜日……俺も大丈夫だと思うから、気分転換にどこか出掛けないか?」
「どこに?」
「それはまだ未定。急の思いつきだから……結唯の行きたい所とか」
「考えてみるね」
「あと、四宮さんや冬馬も誘ってみるか。四人で遊びに行こう。二人が予定なければ」
「うん」
「楽しい事をすれば、不安とか忘れるって」
「ありがとう、達也」
「俺から冬馬にラインするから」
「香織には私からするね」
「決まりだな。じゃあ、帰ろう、結唯。帰ってゆっくり休んで」
「うん。……達也」
「ん?」
ベンチから立ち上がって歩こうとしたら、結唯に呼ばれて、結唯を見た。
「ありがとう」
結唯からお礼を言われた。
「何か不安な事があったら、ラインでも電話でもいいから言っていいよ。相談にのるから。俺は結唯の笑顔が好きだから」
「! ……ありがとう」
俺と結唯は帰り始めた。どれくらい公園にいたかは、分からない。けどやっぱりこの計画が少しでも結唯にとって、プラスなものになってくれたらいいなぁと歩きながら俺は思った。
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