夏ー①
「早乙女さん、今のところ入りが早いですよ。ワンテンポ、早いです」
「……」
「早乙女さん」
「先輩」
「はい!」
「大丈夫ですか? 少し顔色が悪いですよ」
「大丈夫です。すみません」
「では、今日はここまでにします。少し早いですが、もう少しで夏休みになります。夏休みの部活の予定表は、もう貰ったかと思います。これから夏の大会に向けて頑張りましょう」
「「「はい。ありがとうございました」」」
「部長と副部長は、戸締まり後に職員室へ鍵を返したら、先生のところに来て下さい」
「「「分かりました」」」
山口先生と遠堂先生が音楽室を出ていき、みんな片付けを始める。片付けしている間、ガヤガヤと話し声がする。俺はチラッと結唯を見た。結唯は後輩と話し込んでいた。
俺と四宮さんと冬馬で音楽室の鍵を返してから、遠堂先生のところに向かった。
遠堂先生は、俺達を見ると山口先生を呼んで職員室の中にある来客用の小さいテーブルとソファーがある場所に移動してから話し始めた。
「皆さんに聞きたい事とお知らせがあるので職員室に来てもらいました。皆さん、お時間の方は大丈夫ですか?」
「「「はい」」」
(結唯を先に帰して正解だった)
いつもは、四人で正門まで行動を共にするが俺は、先生に呼ばれた瞬間に話でもしこうな、そんな予感がして結唯に先に帰ってもらった。それに結唯自身、体調が悪そうに見えたし。
「お話は二つあります。一つは、夏の練習ですね。皆さんは知っている通り夏の大会までは、体調管理に気を付けるよう皆さんに話してほしいのと、水分補給をとりながら練習するように伝えて下さい。特に1年生は始めての夏なので、必ずペットボトルや水筒を持ってくるように伝えて下さい」
「「「はい」」」
「あと一つが」
「早乙女さんの事よ」
先生の話しは夏の練習の事からって三人で話していたけど、結唯の話がでてくるなんて驚きだ。
「今日の早乙女さん、様子が少しおかしかったから、仲のいいあなた達なら何か知っていると思って。何か本人、言っていた?」
「私も今日の結唯ちゃんの様子に違和感を感じて、どうしたのと聞いてみました」
「本人はなんて?」
「夢見が悪かったと。怖い夢を見てそれで寝不足かなって言っていました」
「白銀君と山之内君は?」
「結唯ちゃんとは、今日はそんなに話していないです。話したのは、『合奏を始めるよ』と伝えに行った時です。その時は何も、いつもの結唯ちゃんに見えました」
「白銀君は?」
「四宮さんと同じ事を言われました。遠堂先生に頼まれた部活の予定表を持って行った時に四宮さんがいなかったので、早乙女さんに渡しました。その時に顔色が少し悪く見えたので、聞いてみたら、四宮さんと同じ答えでした」
「そう……本人が寝不足かもって言うならそうかもしれないわね」
山口先生と遠堂先生がお互いに困った顔をしていた。
「明日、元気に学校に登校してくれる事を信じましょう。本当にただの寝不足ならそれでよし、夏風邪の一歩前でしたら、部活を休んでゆっくり治してもらいましょう」
「そうですね」
先生達も結唯の事が心配だったみたいだ。
確かに今日の結唯は元気がなかったと言える。顧問の山口先生は結唯と四宮さんの担任。だから、余計に心配していたんだろうと俺は思った。
「話はここまでです。三人共、気を付けて帰って下さい」
「「「はい。失礼します」」」
俺と四宮さんに冬馬は、職員室を後にした。昇降口に三人で向かっている間に俺達は、結唯の事を話し合っていた。
「四宮さん。結唯は授業中もぼっーとしていたの。今日の部活みたいに? 俺と冬馬はクラスが違うから分からないけど?」
「そうですね。まぁ、確かにぼっーとしている事が多かったですね」
「やっぱりただの寝不足かぁ~。達也と四宮は本人からそう、聞いたんだろう?」
「確かに聞きました」
「とりあえず、少し様子をみよう。今日、たまたま本当に寝不足だったという事もあるし」
「そうですね」
俺達は、とりあえず様子を見るという意見をだして、『また明日』と言って別れた。
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