昔ー③

        ****



 「結唯ちゃん。まだ残って練習するの?」

 「はい。まだ不安なところがあるので」

 「そう? 結唯ちゃんはパートの中じゃあ、一番練習していると思うけどなぁ~私は」

 「ありがとうございます、神楽かぐら先輩。でも……」

 「うーん……。分かったわ。30分だけね。それ以上」

 「はい」

 「じゃあ、戸締まり「結唯、帰るわよ!」

 「香織!」

 「すみません、神楽先輩。結唯を今すぐ連れて帰ります」

 「四宮ちゃん。すごいタイミングがいいわね。違う意味で驚きだわ」

 「また残って練習するんだろうと思って」

 「さすが、その通り」

 「帰るよ、結唯」

 「でも……」

 「でもじゃあない。先輩にも迷惑かけて。先輩は最後の戸締まりがあるんだから。結唯が残っていたら迷惑でしょうが」

 「……」

 一瞬、し~んと静間しずまにかえる。

 「帰ろう。ねぇ、結唯」

 「……分かった。片付けするね」

 「うん」

 「お疲れ様です」

 「お疲れ様です。神楽先輩」

 「あれ、どうしたの二人して?」

 「山口先生が音楽室の鍵を早めに持ってきてほしいと頼まれました」

 「えっ!」

 「このあとに急に職員会議になるそうです」

 「分かった。ありがとう、達也君に冬馬君」

 「いいえ」

 「すみません、お待たせしました」

 「じゃあ、鍵閉めるね」

 部長の神楽先輩が鍵を閉める。

 「よし、これで大丈夫ね。じゃあ、みんな気を付けて帰ってね」

 「「「はい」」」

 先輩は急いで音楽室から職員室へ向かう階段を降りていった。

 「俺達も帰ろうぜ」

 「そうですね」

 「そうだな。冬馬と四宮さんは電車通だよね。時間、平気?」

 「まだ、大丈夫です」

 「俺も!」

 「ごめんね、私のせいで……」

 「誰もそんなこと言っていないでしょう!」

 「うん……」

 「結唯ちゃん、元気ないね。何かあった?」

 「ううん、平気。元気だよ」

 「……」

 「なに、達也?」

 「いいや、別に……。悪いが先に行ってくれないか。ちょっと、トイレに行ってくる」

 「分かった。昇降口で待っているから!」

 「分かった」

 「結唯。ごめん、先に行って」

 「香織?」

 「四宮もトイレかぁ?」

 「バカ!」

 冬馬と結唯が先に昇降口に向かい、俺と四宮さんがその場に残った。二人の足音が聞こえなくなった瞬間に俺から四宮さんに話し掛けた。

 「四宮さん。結唯に何かあった?」

 「どうして?」

 「何か、俺達の前じゃあ空元気からげんきのような気がするんだ」

 「さすが幼なじみですね。長い月日を一緒にいただけはありますねぇ」

 「それ、めているの?」

 「誉め言葉として受け取って下さいな。確かに最近の結唯は……何か、あせっているような気がします」

 「焦っている?」

 「何でかは、分かりません。今日も部活後に一人残って練習しょうとしておりました」

 「だと思った。最近、やけに遅く家に帰って来るって聞いたし、逆に聞かれた」

 「そうですか……」

最近の結唯は、おかしいなぁと俺も思っていたし、自分の勘違いかも知れないと気持ちが半々だったから、結唯の一番の友達の四宮さんに話を聞きたいと思っていたが、四宮さんに話を聞けて良かった。けど、四宮さんにも何となくしか、分からないのか。

 「あの白銀君」

 「ん?」

 「白銀君の方でも話を結唯から聞いてあげて下さい。きっと、幼なじみだから言える事もあるんだと思います」

 「分かった、聞いてみるよ。四宮さんは優しいね」

 「! さぁ、行きましょう。先に行った二人が待っています」

 「そうだね」

俺は、二人が待っている昇降口に四宮さんと一緒に向かった。

 「待たせた」

 「おっ、やっと来たかぁ~。じゃあ、帰ろうぜ!」

 「そうですね」

 「うん」

 四人 そろったところで俺達は歩き始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る