昔ー③

 「……」

 「……」

 会話がない。いつもは、結唯の方がたくさんしゃべってくるのに。四宮さんと冬馬と別れてから一言もしゃべっていない。

 「結唯、具合いでも悪いのか?」

 「なんで?」

 「いつもより元気がないから」

 「そんな事はないよ」

 (いや、そんな事あるだろう)

 どうみても元気がないのは分かる。何かあったのだろうか。また、黙ってしまった結唯を見て、しばらく俺なりで考え始めた。そして。

 「結唯、まだ時間あるか?」

 「うん、大丈夫だけど。どうしたの急に?」

 「ちょっと寄りたいところがある。一緒に行こう」

 「……うん、いいけど」

 (よし、今から行けば、丁度いい時間帯だ。あそこで話を聞いてみるか。あと……)

 結唯を誘う事が出来た俺はそのまま、どこに行きたいのかを言わず、結唯と一緒に歩く。どこに行くのか不思議そうにしている結唯は、『どこに行くの?』と聞いてきても『行けば分かるよ』しか、俺が答えないのでますます、不思議そうにしている。

 (あの景色を見て元気になってもらうか!)

 俺は歩きながらスマホの時間を見て、まだ間に合う事を一応、確認しておく。

 「まだ、歩くの?」

 「あと少しでつくから」

 「うん」

 少し歩いて俺が見つけたお気に入りの場所に来た。そこは小さい公園。ベンチとブランコ、砂場しかないところ。

 「達也が来たかったところって、ここ?」

 「そう。ベンチに座ってみな、結唯。町が見えるから」

 俺に言われて結唯は、ベンチに座ってみた。

 「わぁ~すごい! けっこう見えるね。もしかしたら町全体が見えちゃうかもね」

 「そうかもよ」

 俺と結唯が通っている星崎高等学校は、わりと高台の方に建てられている。

 何でも昔は、大きな川に囲まれていたみたいで、今は昔より川の数が減ったって聞いた事がある。昔は雨が多く、よく川が反乱していたとおじいちゃんから聞いていた。今では昔より雨が降るのが少ないとも言える。でも大雨になって、川の水が溢れ、大惨事をおそれて今でも高いところで建てる家や建物が多い。

 ここの公園もその類いに入るのかなと俺なりの考えだ。

 「そろそろかな」

 「ん?」

 「間に合った。夕日がきれいに見えるよ」

 「わぁ、本当だ。夕日がきれいに見える。よく、こんな場所を知っていたね、達也」

 「俺もわりと最近知ったばかり。部活や嫌な事があった時に歩き回っていたら、ここを見つけて、叫ぶより夕日を見ていたら、元気になれたというか、落ち着いた感じかな」

 「何か……分かるような気がする」

 「ベンチに座ろうぜ」

 「うん」

 俺は結唯に一緒にベンチに座ろうと誘い、一緒に座って夕日を眺めていた。夕日を眺めながら結唯に話し掛ける。

 「最近、何かあったのか?」

 「なんで。何もないよ」

 「本当に?」

 「うん……」

 一度、俺は結唯を見てまた話をする。

 「嘘だな」

 「なんで、そう思うの?」

 「だって、何年一緒にいると思っているんだ。小さい頃からの付き合いだ。結唯がなに悩んでいるのかは、知らないけど元気がないことくらい分かるぞ。これでも」

 「……」

 「内緒にしたい事か?」

 「……違う」

 結唯が下を向いてしまった。

 「……俺なぁ、結唯から高校で一緒の部活に入ろうって、言ってくれた事が嬉しかった。中学じゃあ、部活は男女別だったから好きな音楽、吹奏楽には入れなかった。その分、高校は男女別はない。だから好きな音楽、憧れた楽器も触れた。まぁ~希望していた楽器とは、いかなかったが今、やっているホルンだって愛着がわいて楽しい。これも結唯のおかげだと思っている」

 「……でも、楽しいだけじゃあ……」

 ボソッと結唯が言った言葉を聞いて俺はもしかしてと思って、聞きづらいし、言いづらいが言う事にした。

 「もしかして、去年の大会での失敗の事か?」

 「!」

 やっぱりそうだ。大会の話題をだしたら、下を向いていた結唯が顔をあげて、俺を見てきた。

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