昔ー①

****


 「ストップして下さい。クラリネット、今のところ、もう少し大きく音を出して下さい」

 「「「はい」」」

 午後の合奏の時間になって遠堂先生の指示のもと、自由曲を合わせていた。楽譜を貰ってから二週間は過ぎた。みんな、それぞれ弾ける人がいれば、もう少し時間がかかりそうな人もいるだろう。

 それをふまえての自由曲の方を今日、遠堂先生が合奏すると言ってきたのだ。

 課題曲は、早めに練習していたから、今日は合わせる事をしないで、自由曲の今の仕上がりを見たかったかもしれないと俺は思っていた。

 「トランペット。第4章節の頭からキレがいい音だしと、音の確認をしっかりやっておいて下さい」

 「「「はい」」」

 「もう一度、今のところから始めます」

 「「「はい」」」

 遠堂先生は、部活の顧問でいるが生徒に教えている教科は、音楽。普段は少しおっとりして優しい先生だが、音楽つまり部活に入ると、人がすごっく変わるとは言わないが、おっとりしているのが、シャキーンと目が覚めたという感じの印象を受ける。部活だけにあって、指摘が鋭い。

 「止めて下さい。ホルン、もう一度音を下さい」

 「「「はい」」」

 先生に言われて音を出す。

 「一人ずつ、お願いします。白銀君から」

 「はい」

 俺から音を出していく。パート全員の音を聴いた、先生は

 「白銀君。すみませんがもう一度、全員でチューニングをしてきて下さい」

 「はい」

 先生に言われて、俺はチューナーを持って後輩を連れて、音楽室を出た。廊下で一人ずつ音を出してもらい、音が正確か確認していった。

 そしたら、1年生の音が正確ではなかった。全員の音を最後に確認してから音楽室に戻った。

 「終わりましたか」

 「はい」

 「では、音を出して下さい」

 「「「はい」」」

 音を出して、先生は耳をかたむけながら、音を聴いていた。

 「はい、大丈夫です。合奏前にパート全員で音を確認しておいて下さい」

 「はい」

 「これは、ホルンだけでは、ありません。各パートにも言える事です」

 「「「はい」」」

 「では……第10章節の頭からやります」

 「「「はい」」」

 その後は、演奏しながら、先生の指示を受けながら少しずつ進んでいった。

 「では、時間もなくなってきたので、最後にフルートとホルンのソロをやって終わりにします」

 「「「はい」」」

 時間が迫ってきたので、最後にソロをやることになった。

 まだ、自信がないところだ。俺的に何か納得していないところ。ヤバいかも……。

 「では、いきます」

 先生の指揮で演奏をする。

 ホルンの俺とフルートの結唯。二人でやるソロは長く、歌で表現するなら先にフルート、次にホルン、一緒に歌ったり、追いかけたりとそんな感じでお互いの音を聴きながら演奏をしていく。もちろん、つられてはいけない。曲の目玉と言っていいくらいだ。

 「白銀君。もう少しゆっくりと」

 「はい」

 「もう一度」

先生に一度、指示を受けてから、まるで俺自身のないのが音にも影響しているかのように何回も、先生の指示を受けてしまった。

 「時間がきたので、今日はここまで」

 「「「ありがとうございました」」」

 「気を付けて帰って下さい。最後の戸締まりを忘れずにお願いしますね、白銀君」

 「あっ、はい」

 いつものように先生に戸締まりを任せられて、楽器を片付ける。

 俺の心の中は、モヤモヤとした気持ちが渦を作って回っている。

 (どうしたら、いいんだか……)

 モヤモヤした気持ちのまま、俺は考え事をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る