319.林の如き静けさに
その後もアグニの猛攻をアヤネは耐えしのぎ続ける。
少しずつ余裕ができはじめたことで、俺も炎魔法による攻撃を加えてみるが……全部、刀で斬られてしまうな。
まったく、どういう反射神経と攻撃力をしているのやら。
「にゃにゃ! まずは右腕防具、破壊させていただくにゃ!」
『むっ!?』
俺の攻撃に気を逸らされていた間に、リオンがアグニの右腕防具を破壊した。
今まではそれすらもできなかったのだから、進歩したとみて間違いないだろう。
「次! 左腕もいただきます!」
『さすがにそうはいかぬ!』
続けて左腕の防具を破壊しようとしたミキだったが、それはアグニにかわされてしまった。
しかし、ミキの攻撃を無理矢理回避したアグニの体はバランスを崩しており、そこを突いて俺の炎魔法が炸裂することになる。
『ぬぅ……さすがに息の合ったチームプレイだ』
「これでもずっと一緒でしたから!」
「くぐり抜けてきた死線の数が違いますにゃ」
「まったく。そのたびにすれすれの戦いになる私の身にもなりなさいっての」
誇らしげに語るミキとリオン、それに疲れたように続くアヤネ。
本当にいいパーティになってきたものだ。
「フート、アンタからはなにかないの?」
「うん? そうだな、いいパーティだと思うよ。本当に」
『確かに。お前たちを見ていると昔を思い出す』
「昔?」
『吾がモンスターになる前のことだ。モンスターに墜ちる前は、吾も赤の明星として旅をしていた。その頃は、気の合う仲間たちとともにさまざまな困難や問題に立ち向かっていたものよ』
「へぇ。アグニが元赤の明星だというのは聞いていたけど、そんな頃もあったんだな」
『ああ。今となっては遠き日の幻影に過ぎぬ。だが、吾が完全にモンスターとなりはてるまで持ち続けていたい大切な記憶だ』
ここまでの話を聞き、やはりアグニも元は人間だったのだなと痛感する。
それと同時になんとか倒してやることこそが、アグニへの手向けであるとも。
『感傷にひたってしまったな。さて、続きといこうか』
「そうですにゃ。まだ、戦いは終わっていませんのにゃ」
「ですね。今年は無理でも、来年には確実に仕留めてみせます」
「できれば今年って断言したいんだけど、この調子じゃ無理っぽいものねぇ……」
「だな。ともかく、今はもちうる限りの技を出し切っていくぞ!」
一時の休憩となったアグニとの会話のあと、再び戦いが始まる。
手は止まってしまったが誰も動きに精彩を欠くことはなく、果敢にアグニを攻めている状況だ。
むしろ、先ほどよりアグニの動きが悪いか?
「にゃー! 両肩と右腕は破壊できましたがにゃ!」
「左腕を破壊させてくれるタイミングがなかなかありませんね。爆爪を使おうにも、確実に決めないともったいないですし」
「そうね。守りはわりと余裕あるし、爆炎いっとく?」
「お願いします。フートさんもタイミングを合わせて炎魔法を」
「わかった」
「タイミングはアヤネ殿に任せますにゃ!」
「わかったわ……ここ! 炎龍王の爆炎!」
『くっ……またこの技か!』
アグニは炎龍王の爆炎により再び体勢を崩される。
その隙を突きミキは左腕を、リオンは頭部を狙っているようだ。
俺の炎魔法は……胴に打ち込むべきかな。
「いくぞ! 〈炎魔法レベル4:炎槍〉」
ミキの一撃は確実に左腕の防具を破壊し、リオンの攻撃は兜の一部を破損させた。
俺の炎槍はと言うと……うん、胴防具をほとんど焼き払うことができたようだな。
『く……さすが、と言うべきか』
「どうよ! この連携!」
「アグニだからと言って恐れはしませんよ?」
「恐れていたら戦いには来ませんにゃよ」
「それはそうだ」
『ふむ……防具はほとんど破壊されたか……。よいぞ、この調子で吾を追い詰めよ!』
アグニの望みは自らの消滅。
そのために俺たちへと挑んできたわけだ。
この結果は、奴の望んでいる結末に向けて確実に歩みを進めているということになる。
そして、再度激突が開始されたとき、俺の頭の中に声が響いてきた。
〈やれやれ、ようやく繋がったようだ。アグニを滅ぼすのは順調……ではなさそうだな?〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます