320.雷霆一撃

 アグニとの激戦が続く最中、俺にテレパスを送ってきた相手に怒鳴りつける。


〈誰だ! こっちはアグニとの戦いで手一杯なんだぞ!〉


〈おお、怖い。それは知っている。だが、旗色はよくないだろう?〉


〈それはそうだが……〉


 実際、先ほどの大攻勢以降は目立った戦果を上げられずにいる。

 アグニとの根比べ、と言えば聞こえはいいが、消耗が激しいのはこちら側だ。


〈それでひとつお前に力を授けてやろう。直接会うわけではないので渡せる力には限りがあるがな〉


〈力?〉


〈そう、力だ。それが手っ取り早いだろう〉


〈確かにそうだが……〉


〈では渡すぞ。健闘を祈る〉


〈あ、おい!〉


 一方的にテレパスは切られてしまい、声は途切れた。

 与えられた力ってなんだろうか?


《条件を満たしました。『雷魔法レベル9』を取得します》


 与えられた力ってこれか。

 魔法名は『マキナ・ハンマー』と。

 俺の苦手な接近戦用の魔法だな。

 でも、これを決めないと勝利はなさそうだ。


「皆、俺が前に出る! すまないが少し時間稼ぎをしてくれ!」


「はぁ!? なに考えてるのよ!」


「この時点で前に出るっていうんです。なにか考えがあるんですよ!」


「全力でサポートですにゃ!」


「わかったわよ! 無茶するんじゃないわよ!」


 前に出るだけでも十分に無茶なんだけどね!

 そうは言ってられないので、前線との距離を詰める。

 有効範囲は……10メートルほどか。

 ハンマーにしては広くないか?


「なによ、その距離でいいの?」


「おそらくは。これから詠唱だ。詠唱中はほかの魔法を使えないから注意してくれよ」


「わかってるわよ。さっさとやんなさい」


 理解が早くて助かるよ。

 さて、呪文はっと。


「〈雷精の集いたるは我が手の内に。汝らが形作るは破壊の象徴。青電をおびし機械の槌。我はそれを握りて我が敵を押しつぶし破壊せん。招くは雷霆。轟は強雷。我が求める結果を導け、電子の破壊者よ!! マキナ・ハンマー!!〉」


 呪文が完了すると、目の前に人の背丈よりも長い柄を持つ巨大なハンマーが現れた。

 これがマキナ・ハンマーということだろう。

 さて、早速手に取ってと。


「うん!?」


「フート?」


 青白い輝きを放つハンマーを手に取った途端、強力な破壊衝動が襲いかかってきた。

 俺は気合いでなんとかそれを押さえ込んだが……かなり危険な魔法じゃないか!


「大丈夫なの、フート?」


「あまり大丈夫じゃないな。一気にケリをつけてくる」


「わかったわ。皆! フートの攻撃が行くわ!」


「了解にゃ!」


「わかりました!」


 ふたりが退避したのを確認して、俺はアグニめがけて一気に駆け出す……つもりがものすごい推進力を得て飛び込む形になった。


『む! その魔法、次の段階の聖句か!』


「俺に聞かれてもな! とりあえずぶっ潰れろ!」


 勢いそのままに上段からのフルスイングでアグニを叩き潰す。

 さすがにアグニもこの程度の攻撃は読めていたようで、しっかりとガードした。


「ほらほら、次行くぞ!」


『む!』


 今度は推進力を利用した横回転の叩きつけ。

 これもアグニは受け止めるが、体が完全に揺らいでいる。


「もう一回!」


 コマのように回転し、同じ方向から更にハンマーで叩きつける。

 すると耐えられなくなったのか、アグニの体が宙に浮き、吹き飛ばされていった。


「さあ、これでフィニッシュ!」


 俺は天高く舞い上がると、体を反らせながらハンマーに力を込める。

 そして、高速で縦回転をしながらアグニへとハンマーを叩きつけた。


『ぬぅぅ!!』


「さすがに、これは効いてくれよ! アグニ!!」


 叩きつけられたハンマーはその勢いのまま地面を陥没させ、周囲に雷光がほとばしる。

 なるほど、有効範囲10メートルってこれのことか。

 俺自身はわずかに残っていた推進力を使って、アヤネのところまで退いていた。


『この短時間で新たな力を得るとは……龍王の干渉があったか?』


「おそらくそうだろうな。名乗らなかったが雷龍王だと思うぞ」


 雷魔法のレベルを強制的に上げるような存在はほかにいないだろう。

 上げられた方もたまったものではないが。


『しかし、これで防具もすべて破壊された。来年は戦いやすかろう』


 今の一撃で残されていた鎧はすべて吹き飛んだようだ。

 そして、兜の下から現れたのは……白髪を伸ばした女性の顔だった。


「にゃにゃ! アグニって女性だったのかにゃ!?」


『人間だった頃はな。モンスターと化した今ではどちらでもない。人間だった頃の名残が残っているだけだ』


「なるほどです。さて、まだ戦いますか?」


『いや、今回はこれで終幕としよう。お前たちの可能性も十分に見ることができた。お前たちならば、来年に吾を討つことが可能であろう』


「お褒めいただきどうも。今からでも倒せるんじゃない?」


『それは無理な相談だろう。魔術師の青年が限界だ。その男の援護なしに吾と戦うつもりか?』


 ばれているか。

 マキナ・ハンマーは使用中、継続的に魔力を消耗する魔法らしい。

 あの爆発的な推進力はその魔力によって生まれているわけだ。

 非常に強力ではあるが、魔力の消耗も非常に激しい。

 それがマキナ・ハンマーのようだな。

 樹龍王の力による回復も追いついていないほどだし。


「にゃにゃ。フート殿が限界であるなら引き下がるしかないにゃ」


「と言うか、私たちも撤退するしかないでしょうね。フートさんの援護がなければ、どうあがいても戦えません」


「そうね。今回はこれまでね」


『そういうことだ。では、吾は失礼する』


 影の中に潜り込み、姿を消したアグニ。

 気配も完全に消えたし、なにか移動魔法のようなものだろう。

 ともかく、これで今年のアグニ戦は終了。

 やはり決戦は来年になるようだ。

 ああ、のんびりと休みたい……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る