292.那由他での五カ国会議
「俺たちのところは警備がずいぶん手薄だけど、なにか意味があるんですか?」
「お前らがいれば必要ないって判断だよ」
「にゃー。それは大変ありがたい評価ですにゃー」
「実際、『白夜の一角狼』様たちが警備に当たっていてくれる限り、よほどのことがないと無事ですわ」
「その評価はありがたいです。でも、一応人を割いてもらった方が……」
「人が多いと、とっさに守りにくいだろう?」
それもそうか。
自国の王だからといって特別な考えは抜きにしよう。
「それよりも、このあと予定されている会議にも一応出席してもらうぞ」
「構いませんが……歓迎式典や五カ国同盟樹立宣言の予定を決める会議ですよね? 俺たちにできることは限られていると思いますよ?」
「いや、お前たちにも関係のある話だからな。そういうわけなんで付き合え」
「承知しました」
国王陛下の言葉に従い、このあと行われる会議にも出席することになった。
そこに向かう途中、久しぶりに内務卿にもあったのであいさつをする。
「内務卿、お久しぶりです」
「おお、フート殿。無事、依頼を果たしてくれたようですな」
「ええ、まあ。結構ギリギリだったこともありましたが」
「報告は受けております。あの状況では仕方がありません」
「そう言っていただけると助かります」
「そんなことよりも、フェンリル学校より提供された『魔術式開発具』です! あれは実に素晴らしいですな!」
「そうなんですか?」
自分の国の王族よりも大事なことって一体……?
疑問が頭に浮かんでしまうが、内務卿は話を続ける。
「属性が足りなければ使えないとのことでしたが、そこは後天性魔法覚醒施設で補えばいいだけのこと。黒旗隊や近衛騎士、一般騎士に一般兵に至るまで、装備を強化できましたぞ!」
「それはよかった。でも、予算も大分かかったのでは?」
「いえ、元から使っていた装備を鍛え直しただけで済みました。なので、予算はそこまでかかっていないのです」
なるほど、それはいいことずくめだな。
その後も内務卿といろいろ雑談をしているうちに、会議場へとたどり着いた。
「会議場に着きましたな。では、私はこれで」
「ええ、また」
内務卿は那由他国の国王席そばに陣取る。
国の重鎮なのだから当然か。
俺たちの席は、大分後ろの方なのでそこに座るとしよう。
用意された席に着いて待っていると、フローリカがやってきて俺の隣の席に座る。
……いいのか、これ?
「フート様、ごきげんよう」
「フローリカ。王女の席はもっと前なんじゃないのか?」
「本来でしたら、私の席はありません。私も同行いたしましたが、なにか発言できる立場ではありませんもの」
「いや、そうかもしれないが……」
「なので、フート様の隣に席を作っていただきました。構いませんよね?」
はあ、本当に女子ってこういうときに強いな。
断る理由が思いつかない。
「わかりましたが、無理はしないでくださいね?」
「無理などいたしません。よろしくお願いいたします」
フローリカと話している間に、各国の国王や要人が会議室に集まってくる。
皆、今までとは違い、国王としての風格を持った顔つきだ。
各国の人間が全員着席し、那由他国国王が着席するといよいよ会議が始まった。
「各国の王族たち、そして要職に就いている者たちよ。はるか那由他までの空の旅、まことに感謝する。そして、五カ国同盟を樹立できたことは大変意義があることだ」
「気にするでない、那由他王。我々としても、法神国のやり方には賛同しかねていたところだ」
「左様、リヴァ帝国も今回の件は渡りに船。法神国と決別できる上に、貴重な回復魔法の使い手を育てる機会をもらえるのだからな」
「回復魔法使いの育成に関してルアルディから情報提供を。私どもは先だって後天性魔法覚醒施設を入手いたしました。それを使い、魔術師や騎士、兵士などを育成しましたところ、現状どの兵種でも7割ほどの割合で回復魔法を覚えています。まだ育っていないため実運用にはほど遠いですが、このペースでしたら回復魔法専門の部隊も創設できます。それに、応急手当レベルでしたら前線で行うこともできるようになりますわ」
ルアルディのアイーダ王太女が発した言葉に会議場がざわめく。
どの国もルアルディが先行して後天性魔法覚醒施設を入手しているのは知っている。
だが、この短期間に実用ベースの運用方針がまとまるとは思っていなかったようだ。
「それは素晴らしいですな。我々も国元に戻ったら、すぐにでも兵の育成をしなくては」
「そうだな。獣神国は回復魔法を軽視していたが……話を聞くとそんな軽々しい問題じゃなさそうだ」
「はい。獣神国の皆様は自己治癒能力に長けておいでです。ですが、しっかりとした回復魔法を覚えた方がよろしいかと」
「そうさせてもらおう。貴重な意見だったぜ、アイーダ王太女」
「ありがとうございます」
「後天性魔法覚醒施設の有用性について話を聞いていただけたところで次の話題に移ろう。内務卿、例の本を配ってくれ」
「はい、承知いたしました」
内務卿が各国要人に配った本、それは俺の書いた魔法の教本2冊だった。
ここで配るほどのものかなあ?
「那由他王、この本は?」
「今現在、那由他国で広まり始めている魔法の教本だ。その効果については……姫君たちに聞く方が早いだろう」
「どういうことだ、ハルネリア?」
「はい。その本ですが、私たちが那由他国へ向かう途中に魔法教材として使われた本ですわ。内容はお読みいただくとして、精霊魔法と元素魔法の根源が精霊の力を借りていることなどが詳しく書かれております」
「なに? 元素魔法は七大龍王様の力を借りるのではないのか?」
「いえ、精霊の力をお借りしています。私は実際に体験したのでわかりました。その本に書かれている内容を検証していけば、魔法技術はめざましい発展を遂げますわ」
「実際、その本を教材にし始めてから那由他の魔術師団の能力は飛躍的に向上している。難解なことは書いていないが、今までの常識を否定するようなことはいろいろと書かれているのでな、納得する結論が出るまでは時間がかかるだろう」
「ふむ、これはもらって帰ることができるのですかな?」
「もちろんだ。ある程度まとまった数を渡そう。それを写本にして配布するのも構わない」
「ずいぶん太っ腹ですな」
「いや、那由他の魔術書を扱う書店では普通に取り扱っているのだよ。なので、隠し立てするものでもない」
「お父様、これが今の那由他ですわ」
「いやはや、ここまで国力に差がついていようとは……」
「それもこれも、どこぞの赤の明星のせいだがな。話が逸れたが、教本に関してはそれぞれの国にまとまった数を用意する」
「助かります」
「それでは、ここからは歓迎式典と五カ国同盟樹立宣言式典の予定だ。『白夜の一角狼』諸君、お前たちにも今回は参加してもらうことになる」
いや、それはさすがに聞いてないんですけど?
「五カ国同盟の立役者であり、フートはフローリカの婚約者となるのだ。ある程度は顔を売ってもらわねばな」
絶対、俺の反応が見たいだけだな、あの狸親父。
隣でフローリカもクスクス笑っているし、打ち合わせ済みだったんだろう。
避けられそうにないし、覚悟を決めて参加しますか。
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