293.宴のあと
「疲れた……」
「はい、正直に疲れました」
「貴族の社交って、どうしてあんなに面倒なのかしら」
「仕方がありませんにゃ。吾輩もあまり関わりたくはありませんがにゃ」
今、俺たちがいるのは王城の一角に間借りした寝室だ。
五カ国同盟会議が終わって数日後、同盟樹立宣言がなされて国内は一気に湧き上がった。
今回の同盟樹立の立役者として俺たち『白夜の一角狼』が紹介され、同時に俺がフローリカの婚約者になったことも宣言される。
俺たちのことを知らない一般市民はよくわかっていない様子だったが、俺たちを知るハンターなどは大いに盛り上がったらしい。
「まあ、同盟樹立宣言はよかったよな、うん」
「フートさんがフローリカちゃんの婚約者になったくらいしか、目立つ要素がありませんでしたからね」
「問題はそのあとの記念パーティだにゃ……」
「本当に貴族どもはめざとい……いいえ、うざったいわ」
同盟樹立記念と銘打たれた、各国国王との懇親会を兼ねた記念パーティ。
ここに俺たちも参加することになったのだが……とにかく、目立っていた。
同盟樹立の立役者であり、第一王女フローリカの婚約者でもある。
目立たないはずがないといわれればそれまでなんだけど、とにかく目立った。
「唯一の救いは宮廷魔術師長や内務卿、軍務卿にカルロス王といった要人の皆さんがそばにいてくれたことですかね」
「あれがなかったら、いいように話しかけられていただろうからな」
「社交界のルールでは、身分の低いものから身分の高いものに声をかけてはいけませんにゃ。各大臣や魔術師長、外国の王様がそばにいては話しかけることなんて許されませんのにゃ」
「はぁ、勘弁してほしいわ」
「そこは国王陛下がなんとかしてくれるはずですにゃ。今は待ちましょうにゃ」
「待つねぇ……いつまで待てばいいのかしら?」
「そんなに長くは待たなくていいはずだにゃ。それに、もうすぐ6月になりますにゃ。アグニとの戦いは7月の半ば。貴族との煩わしい付き合いに関わっている暇などありませんのにゃ」
「確かにな。問題は、それをあちらがわかってくれるか、だが」
「……そこも国王陛下頼みだにゃ」
「ネコ」
「リオンさん……」
「お前を責めても仕方がないんだがなぁ」
「きっといいように取り計らってくださいますにゃ」
「どちらにしても、国王陛下頼みか。面倒ではあるな」
「貴族連中の頭はおめでたいですからにゃ。去年、国を滅ぼされそうになったことなどすっかり忘れているのでしょうにゃ」
「どちらかといえば、フローリカちゃんが嫁ぐことでもう同じことが起きないと思っているのでは?」
「結局はおめでたい頭ってことよね」
「違いない」
俺たちは揃ってため息をつく。
国王を初めとする王族はしっかりしてるんだけど、貴族がな……。
俺たちが考え込んでいると、ドアをノックされてアルマの声が聞こえる。
「失礼いたします。フローリカ様がおいでです。入室いただいてもよろしいでしょうか?」
「フローリカが? 構わないです。入れてあげてください」
「はい。……どうぞ、フローリカ様」
「ありがとう、アルマ。こんばんは、フート様、ミキ様、アヤネ様、リオン様」
「こんばんは、フローリカちゃん。どうしたんですか、こんな時間に?」
「いえ、皆さんが慣れないパーティに出席してお疲れではないかと思いきてみました」
「そうだな……皆、疲れ切ってるな」
「やっぱり。お父様にも、配慮してほしいと伝えてあったのに」
「配慮はしていただけていましたよ。常に要職の方々がいられましたので、余計な声かけをされずに済みましたから」
「そういう問題ではありません。どうせなら、お父様のそばでずっと一緒に過ごすよう、配慮すればよかったのに」
「さすがにそれはそれで目立つから、遠慮してほしいかな?」
「そうですか、アヤネ様?」
「フローリカ殿下。あまり目立ちすぎもよくないのですにゃ」
「私はまだ、大人の社交場にはあまり出たことがないのでよくわかりません。でも、フートさんたちのような一般人の方が立ち会う場ではないと思います」
「そのお気持ちだけで十分ですよ、フローリカちゃん。あなたの優しい気持ちはよく伝わりました」
「そうですか? 私はまだ話したりないのですが……」
「ふふふ。本当は、パーティのことをきっかけに私たちとお話をしたいだけですよね? なら、もっと楽しいことでおしゃべりをしましょう?」
「え、ええと……」
「そうね。面倒なことを思い返すよりも楽しいことを考える方がマシよ」
「ですにゃ。では、吾輩は自分の寝室に戻りますにゃ。フローリカ殿下、ごゆっくりですにゃ」
「は、はい。リオン様もお疲れ様でした」
「いえいえ。では、また」
リオンが部屋から退出して、俺たち4人だけが部屋に残る形となった。
さて、これからなにについてはなそうか?
「あ、あの! 明日は私の婚約指輪とネックレスを買いに行くんですよね?」
「その予定だな。都合が悪くなったのか?」
「そんなことはありません! ただ、今までお父様以外の殿方から贈り物をいただいたことがないので……」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。明日行くお店なら、いい品を選んでもらえます」
「そうね。基本は冒険者やハンターみたいな職業向けらしいけど、普通の宝飾品も取り扱っているから安心して」
「そうなんですね。楽しみです!」
「そうか。ちなみに、フローリカはどんな色が好みなんだ?」
「そうですね……白でしょうか? 白いお花とかが好きなんです」
「白ですか。難しいですね。普通の金属だと銀色になりますし、ミスリルが混ざると青みがかります。白い金属なんて魔法金属くらいでは?」
「そうね。それに、白い宝石っていうのも滅多にないわよ? 透明な宝石なら結構あるけど、白い宝石って……真珠?」
「あ、あの。私の好みを言っただけですから。そんなに真剣に考えなくても」
「あら、かわいい妹分のお願いだもの。真面目に考えるわよ。ねえ、旦那様?」
「そうだな。明日、『テラ・ディ・ビリランティッァ』に行ってニネットさんに相談してみよう」
「そうですね。やはり、難しいことは本職に聞くのが一番です」
「『テラ・ディ・ビリランティッァ』?」
「宝飾品店の名前よ。私たちの指輪やネックレスもそこで購入したの」
「もし、王室御用達のお店で購入しなければいけないとかがあるのでしたら、そちらに従いますが……どうなんでしょう?」
「私も聞いたことがありません。明日、お父様に確認してみますわ」
「ああ、そうしてもらえるか。それにしても、白い色か……パールのバレッタとか似合いそうだな」
「私もそう思います。ちょうどいい感じのがあったら一緒に買いましょう」
「なければ注文して作ってもらいましょう。魔法道具じゃないし、ニネットさんが直々に作らなくても大丈夫でしょう?」
「えっ、えっ?」
「そうするか。ネックレスもパールネックレスにするか?」
「どうしましょうか? 清楚なイメージのフローリカちゃんにはよく似合うと思いますが」
「まずは明日、実物があるか確認してみましょう。話はそれからでも悪くないわ」
「あ、あの。もう買うことは決定ですか?」
「決定だな」
「もちろん決定です」
「私たちはあまりオシャレをできないから、フローリカちゃんには華美にならない程度にオシャレをしてもらわないと」
「あうう、頑張ります」
結局、その夜はフローリカが眠くなるまでどんなアクセサリーがいいのか、どんな服装が似合うのかを話し合うことになった。
フローリカは俺たちと一緒に眠れるように許可を取ってきていたらしく、飛行艇で過ごしていたときのように4人で寝ることになった。
明日は……いろいろ買い物かな?
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