288.出航準備中の一コマ
五カ国同盟が正式に樹立したあと、俺たちは那由他に戻るための準備を本格化し始める。
とは言っても、『鳴神』の完全な修理は那由他に戻ってから行うし、やることといえば水と食料の補充くらいだ。
ただ、それも五カ国分の飛行艇全機に積み込むとなると大変な量になるわけでである。
「那由他とルアルディはともかく、ほかの三国は足りるのですか?」
「ああ、行きの分は問題ない。帰りの分は那由他で補充してもらわなくちゃいけないがな」
「うむ。それを見越して食料や水を搭載してきておる」
「我らリヴァ帝国もだ。復興作業中のルアルディに、あまり過剰な負担はかけさせられまい」
「お心遣い感謝します。正直、5隻分となると苦しかったもので……」
那由他に向かう飛行艇の責任者、アイーダ王太女はほっととした表情を浮かべる。
食料も水もある程度の備えはあるのだろうが、さすがに飛行艇5隻は厳しいのだろう。
飛行艇5機の編隊というのが滅多にないことらしいから仕方ない。
「それよりも、ルアルディも旗艦を出して大丈夫なのか?」
「ほかの国々が旗艦を出すのです。我が国だけ二番艦というわけにもいかないでしょう」
「それもそうだな。出発準備ができ次第、ルアルディで五カ国同盟の樹立を宣言し、我らは那由他へと移動しよう」
「そうだぜ。今回の五カ国同盟、盟主は那由他なんだからな」
「我らにあまり期待されてもな……可能な限り力は貸すが、どうしても兵力を送ることは難しいぞ?」
「構わないさ。法神国には煮え湯を飲まされ続けていたんだからよ」
「左様。それに対抗できる手札が手に入った。それだけで十分よ」
「ルアルディとしてもお力添えしたいのですが……」
「ルアルディは国内の混乱を抑えることがまず先決だな」
「我らも同意見だ。教会の手のものが残っている可能性がある以上、安全とも言い難いだろうからな」
「申し訳ありません。お言葉に甘えさせていただきます」
ルアルディも旗艦『チェーロ』を出すことになっている。
格式などを考えて、と言うよりこの同盟がそれだけ本気だということを示すためらしい。
アイーダ王太女が同行するのは、国王がまだ長旅に耐えられないから、と言う判断だ。
「しかしながら、まさかここまでの大同盟になるとは。思ってもみませんでした」
「心配するな、アイーダ王太女。誰も思っていなかったのだからな」
「こればかりは、法神国が自ら招いたことであるが……『白夜の一角狼』に頼んだイツキって女は何者であるか?」
「我々もその真偽は確認が取れていない。ただ、『白夜の一角狼』の言葉を信じるならば、この世界を見守る龍王の一柱『樹龍王』らしい」
「樹龍王……聞いたことがないな」
「心配するな。俺も聞いたことがなかった。だが、目の前でみせられた術は人間のそれじゃねぇ。龍王の業といわれたほうが納得できる」
「むぅ……獣神国王が言うならば信じるよりほかないか。しかし、七大龍王以外にも龍王がいたとは」
「我も『白夜の一角狼』から聞いて初めて知った。……もっとも、彼の者たちも七大龍王以外の龍王と接触して初めて知ったらしいが」
「そもそも龍王と接触するということが前代未聞ですぞ」
「『白夜の一角狼』の話を聞くと、我が那由他を襲うモンスター『アグニ』は龍王たちとも接点があるらしい。それで、龍王たちは『白夜の一角狼』に『アグニ』を止めてもらいたいようだ」
「モンスターを止める……すなわち、倒すということですな」
「我もそう考えている。今はまだ力が足りないらしいが、来年までには届かせると豪語しておるわ」
「来年までには……ですか。具体的な方法は?」
「魔黒の大森林、あそこに一年近く籠もって修行をするそうだ。何回か近隣の街まで補給には戻るらしいが、それ以外は魔黒の大森林で過ごすと」
「……あいつらの強さを知らなきゃ自殺行為だな」
「『白夜の一角狼』とはそこまで強いのか?」
「魔法使いのエルフが俺とタイマンで俺を殺さずに勝てる、その程度の強さはあるぜ?」
「控えめに言っても化け物ですな」
「それでもかなわぬ『アグニ』とは、一体どれほどの災いなのか……」
「ここで議論しても始まらぬことだけは確かだな。さて、どのようにして倒すのやら……」
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