289.五カ国同盟樹立宣言

『以上をもって、我々、那由他、ルアルディ、獣神国、コスタ国、リヴァ帝国の五カ国同盟樹立を宣言する!』


 拡声の魔導具を使ってルアルディ城前広場に集まった観客へと、ルアルディ国王が宣言した。

 その声が響き渡るとともに、国民から歓声が巻き起こる。

 ルアルディの国民としても、獣神国などから攻め込まれる心配がなくなったことはよいことなんだろう。


「思いのほか、盛り上がっていますね。ルアルディの国民たちも」


 俺は疑問に思ったことを隣りにいるアイーダ王太女へと素直に聞いてみる。

 彼女も嫌な顔をせずに、真面目に答えてくれた。


「ルアルディとしても、法神国寄りと見られていた国々が味方に着くのは嬉しいのよ。それは、国民にとっても同じことなの」


「宣戦布告を受けていることは国民たちも知っているんでしたっけ?」


「もちろん。それを知ってなお、この国に留まって混乱を起こしていないのだから強い国民よ」


「法神国なら破壊活動の十や二十してきそうですが」


「それも含めて折り込み済み、とだけ答えておくわ。いろいろとやり方はあるからね」


 うん、あまり深入りしないでおこう。

 やっぱり、法神国つまりは教会との戦い方はそれぞれの国で手段を持っているらしい。

 詳しく聞いてもいいものじゃなさそうだな。


「さて、この宣言が終わったら、各国の飛行艇に乗り込んで那由他までの移動だけど……那由他側に問題はあるって聞いているかしら?」


「いえ、とくには。なにかありましたか?」


「たいした問題じゃないわ。那由他の『鳴神』は航行距離も長くなってきているし、戦闘もしているしで問題はないのかなと」


「ないそうですよ。どれも深い傷じゃなかったようですし、積載してきた修理機材で足りているようです」


「ならよかったわ。……樹立宣言も終わったようね」


「そのようです。大きな混乱がなくてよかったですよ」


「よく言うわね? 影で工作員を数名捕獲しているくせに」


「さて、なんのことでしょう?」


 アイーダ王太女の言うとおり、俺はこの樹立宣言の場でテロを行おうとしていた工作員を確保している。

 方法は……今回もまた樹魔法に頼って、危険なものや怪しい匂いのするものを持っていないかチェックし、問題がありそうな人間は衛兵にチェックしてもらうという方法をとった。

 まったく、爆発物なんて危険なものを持ち込むなよな……。


「うむ、終わったぞ。フートよ」


「お疲れさまです。エイナル国王陛下」


「お主がいろいろと張り巡らせてくれていたおかげで、かなり安心できたがな。まったく、これだけの臣民を集めて安心できるというのもいいことだ」


「そうじゃな。樹魔法といったか。かなり便利な魔法じゃな」


「事前に花の種を集めておいたり、必要な花を咲かせるための配合をしなければいけませんがね。便利ではあります」


「一種の設置罠系魔法か。守りに関してはほぼ完璧だって聞くからぞっとしねぇな」


「どうでしょう? 根付く場所があって初めて意味をなすので、飛行艇での移動みたいに空ではあまり効果がないのですよね……」


「なるほど……明確な弱点もあるか」


「って言いつつ、俺との戦いに使ったあれはなんだよ?」


「ああ、あれですか。あれはヤドリギの種です。寄生した相手の体力と魔力を吸い上げて、無力化するという樹魔法の産物ですよ」


「こええよ! とにかく、樹魔法以外にも強力な魔法をガンガン使うような魔術師だ。ほかの3人も頼りになるし、いいチームだよな」


「本来的には俺のほかに最低でもアヤネとミキが居ないと機能しないんですけどね、俺たち『白夜の一角狼』って」


「そうなのか?」


「俺がオールラウンダーだからそう見えるかも知れません。ですが、魔物を引きつける役をアヤネ、物理攻撃をミキ、このふたりがそれぞれの役割を担当してくれないと結構厳しいです。とくに俺だと盾役としての耐久力は、並みの人間相手ならともかくカルロス王やモンスター相手だとすぐに割られますし」


「へぇ、ってことはアヤネは俺の攻撃にも耐えられるのか?」


「あくまで、俺のサポート込みで、の話ですが」


「試してみてぇが、そういうわけにもなぁ……」


「当然です。立場をわきまえてください」


「わかってるよ、カリッド」


 今まで黙っていた獣神国のカリッド王子がたまらず、といった感じで口を挟んでくる。

 確かに、模擬戦を受けろとか言われても厄介だから助かった。


「そういえば、カリッド王子たちは、このあとどうなさるのですか?」


「我々は獣神国に戻り今回のことを発表する。コスタ国やリヴァ帝国の宰相殿たちも、それぞれの国にお連れしなければいけないしな」


「……そういえば、コスタ国とリヴァ帝国は旗艦しか出してなかったんですよね」


「急な話で旗艦以外の飛行艇は用意できなかったのだよ。それ以外の他意はないから安心してほしい」


「いえ、責めてるわけでは……少々言葉を選ぶべきでしたね。申し訳ありません」


「いや、こちらこそ先に説明しておくべきだった。それでは、我々はそれぞれの飛行艇に向かうとしよう」


「おう。カリッドたちもそれぞれの役目を果たせよ」


「父上こそ羽目をはずすことのないようにお願いします」


「……信用されてねぇなぁ」


 それぞれの国の代表者たちが、各国の飛行艇に分散して搭乗していく。

 俺もエイナル国王陛下とともに『鳴神』へと乗り込んだ。


「それで、今回の宣言時にテロを行おうとしていた連中はどれだけいたんだ?」


「入り口で衛兵に引き渡したのが17名。そのあと、広場で捕らえたのが28名ですね」


「28名も広場まで通していたのか?」


「正確には、衛兵に扮していたのが18名。その衛兵に誘導されて入場した連中が残りの10名です」


「ちっ。やっぱり、油断できねぇな」


「ですね。飛行艇にミキ、アヤネ、リオンを残しておいたのは正解かも知れません」


「なにかあったのか?」


「それはまだなにも聞いていないので。ただ、面白くない報告を聞くことになるかと」


「めんどくせぇ……」


 その懸念はあたっていたようで、近衛騎士の鎧姿をした者たち数名がフローリカたちを殺害しようとしたらしい。

 もちろん、一緒にいたミキたち3人にすぐさま取り押さえられたわけだが、そいつらは法神国からの刺客だというから更にめんどくさい。

 その報告を聞いた俺とエイナル王は、思わず頭を抱えたよ。


「出発前に、艦内をくまなくチェックだな。あとは、乗組員が入れ替わっていないかも確認だ」


「はっ! すぐに取りかかります!」


 どうやら、似たような襲撃はほかの飛行艇でもあったらしく、どこも出発前に搭乗員と艦内チェックという大作業に追われることとなった。

 ちなみに、俺たちはフローリカを含めお姫様たちの身辺警護を行うこととなり、弟子たちとともにテラスルームにいる。


「……姫君たちは自分たちの国の飛行艇に戻らないのですね?」


「私どもは那由他に住むことが決まっておりますので……」


「それに今からの移動はお互いに危険ですし」


 反論のしようもないな、うん。

 全ての飛行艇で確認が終わったのは約10時間後、それからの出発となったがなんとか那由他への旅路につくことができた。

 海の上で襲撃は……ないよな?

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