287.夕食会
「夕食会ですか、楽しみですな」
「左様。ここ数日はハードワークでしたからな」
「それが儂らの仕事じゃ……とはいえ疲れるのは事実じゃの」
「俺は頭脳労働苦手なんだがよ……」
「そこは国王の務めとして諦めよ」
各国の国王陛下が話をしながら夕食会の会場へと入っていく。
俺たちはその後に続いての入場だ。
席も一番下座だし、問題ないな、うん。
「すまぬな、『白夜の一角狼』殿。最大の功労者である君たちを下座に座らせるなど」
「まったくだ。今からでも席次を変えられぬのか?」
俺たちの席次について異を唱えてくれるのはコスタ王とリヴァ皇帝だ。
ありがたいのだが……正直やめてほしい。
「本人たちの希望だよ。コスタ王、リヴァ皇帝。実際、国家元首より上座なんて目立ってしょうがないだろう」
「それもそうか。すまぬ、感情だけで物事を言ってしまった」
「今日は他貴族どもの目がない夕食会といえ、そこは気になるか」
「我でも気になる。仕方があるまい」
「それもそうじゃろうて。……ところで、『白夜の一角狼』のミキ奥方がいないのじゃが……」
「ミキは今、厨房で料理の真っ最中です。できあがり次第、合流するかと」
今頃ミキは、人数分と試食分のチキンステーキを焼き上げるのに苦労しているだろう。
……そういえば、野生の鳥でも
「ミキ殿は料理もするのか?」
「おう。そこらのシェフよりもうまい料理が食えるぞ?」
「さすがにコース料理を指揮するのは無理であるがな」
「ほほう、それではなにを食べさせていただけるのでしょうな?」
「それは完成してからのお楽しみとさせてもらおう。我は『鳴神』で試食させてもらったが……とてもうまかったぞ?」
「……ちっ、俺も『鳴神』にいりゃよかったか!?」
「父上、はしたない真似はやめて、料理が出てくるのを待ちましょう」
「う、うむ。そうだな。料理の到着を待とう」
歓談をして待つことしばし、ついに料理が運び込まれ初めた。
最初はアミューズのようだが……クラッカーの上に煮こごりのようなものが載っている。
あ、これは。
「な……これは……」
「アミューズから驚かされますな!」
「はい! このゼリーのようなものが、とても濃厚な味わいで癖になりそうです!」
これ、ミキの料理か?
それともミキが作った料理のあまりをシェフが使った料理か?
判断に困るが、間違いなくモンスター食材の料理だ。
「ほほう。これは!」
「彩り鮮やかな前菜ですな!」
「食べてしまうのがもったいないです!」
ここで蒸し鶏か……。
これ、メインの料理が鳥なのに、鳥ばかりで大丈夫なんだろうか?
「スープは優しい味のコンソメでしたな」
「このあとの料理に期待できるというものです」
あのコンソメには鶏ガラは使ってないよな?
フレスヴェルグのドロップには骨は含まれてなかったよな?
「次は魚料理ですか。これもなかなか美味しい」
「はい、身も柔らかくて、おなかに優しい味わいです」
「……しかし、アミューズや前菜のようなガツンとくる感じはないな」
「父上、お控えください」
「獣神国王よ、私もそう思う。魚は私たちルアルディが提供させてもらったが……鳥肉のインパクトに勝てないな」
「あん? アミューズも鳥肉だったのか?」
「おそらくは鳥肉の軟骨などから煮こごりを作り、それを使った料理だ。前菜にも鳥肉が使われたが、味の方向性がまるで違う。これならば、メインディッシュも鳥肉であろう。いや、期待できるぞ、那由他国王」
「我としても正直驚いている。メインの一品だけだったはずなのでな……」
「これだけ美味しいお肉を、メインだけだなんてもったいないですわ!」
「そうです! 鳥肉メインのコース料理、それでいいではありませんか」
「我としても異論が出ないなら問題ない。次はソルベだな」
ソルベ、つまりシャーベットは……まあ、至って普通かな?
アクセントとしてレモンの皮がちりばめられていたりしたけど、あとの肉料理に悪影響を与えてもいけないという配慮だろう。
そして、メイン料理がついに運ばれてくる。
そこにあったのは、やはり鳥肉のステーキだ。
ただ、当然のごとく試食のときよりも豪華に彩られている。
「ほほう、これはまた……」
「チキンステーキとは、ストレートにきましたな」
「ですが、このチキンステーキ。とても美しいですわ。まるで宝石みたい……」
「各国の王に姫君たちよ。料理の評価は構わないが、せっかく暖かいままで食べられる機会だ。これを逃す手はないぞ?」
「……そういえば、今までの料理もすべて温かいままでしたわね」
「気がつきませんでしたわ」
「娘たちよ、今はこの料理をいただくとしよう。私ももう限界だ」
「は、はい。……すごいですわ。ナイフもすんなり入っていき、切り分けられます」
「そうだな。味の方は……」
「はい。味は……」
エイナル那由他国王とフローリカ以外は、最初の一口を食べた瞬間に固まってしまった。
次に動き出したと思えば、鳥肉のステーキを無心に食べ始める。
ある程度耐性のある那由他国のふたりでさえ、かなり早めに食べているあたり、やはりミキの料理はあまり本気にさせられないな。
さて、そんな中、最初に食べ終わったのは獣神国王だった。
「……うまい。ただそれだけだ。こんな感想を持った料理は初めてだぞ。できれば、もう一皿頼みたいところだが」
「父上。……いえ、私ももう一皿食べたいですが」
「全員分、もう一皿ご用意させていただいておりますよ」
そう言いながら入ってきたのは、コックスーツに身を固めたミキだった。
うん、ああいう服装も悪くないな。
「は、マジか? もう一皿あるのか?」
「はい。一皿では足りない方もいるかと思いまして、今、準備中でございます。ご希望なさらない方はいますか?」
その言葉に、誰も反応しない。
つまり、全員がもう一度あの一皿を求めているということだ。
「かしこまりました。準備が整うまでもうしばらくお待ちください」
ぺこりと頭を下げ、再びミキは部屋から出て行った。
残された全員は少し不思議な気持ちになる。
「おい、『白夜の一角狼』お前ら毎日こんなにうまいものを食ってるのか?」
「さすがにここまで手の込んだ料理は滅多に食べませんよ。普段は、家庭料理レベルです」
「それでもうらやましいですわ。あのような美味しい料理が毎日食べられるだなんて」
「吾輩たち、少し麻痺してきていますが、これが正常な評価なんですにゃあ」
「ミキの料理って破壊力抜群だったわね」
「なあ、奥方の料理を少し分けてくんねえか? 酒のつまみにしたい」
「獣神国王! 抜け駆けは許しませんぞ!」
「そうです! 我々とて、それは可能であれば望みたいところ!」
うわぁ、収拾がつかなくなってきたよ。
とりあえず、ミキの料理については『ミキが管理しているから、そちらにお願いしてくれ』と言っておいた。
ある意味丸投げだが、現実問題ミキの料理は非常食として持ち歩いている分以外、誰のマジックボックスにも入っていない。
やがてミキが2枚目のステーキを運んできたとき、場は一瞬で静まりかえった。
今はステーキを味わうのが優先と。
ちなみに、全員が2枚目のステーキはゆっくり味をかみしめながら食べていたよ。
今度、この味を楽しめるのはいつになるかわからないからな。
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