286.夕食会準備
「それでは、条約は結べたんですね」
「おう、時間はかかっちまったがな」
ルアルディについて5日目の午後、国王陛下が帰ってきて結果を報告してくれる。
那由他としては、距離的な制約があるためにあまり関われなかったそうだが、残り四カ国にとっては実りのある内容だったようだ。
今までは正式な国交がなかったり、敵対的だったりした国々だから仕方がないのかも知れないけどな。
「今後の予定はどうなりますの?」
フローリカも興味津々といった様子で国王陛下に問いかける。
「今日の夜は夕食会だ。さすがに、ルアルディの現状で晩餐会は開けないからな」
「夕食会か。俺たちには関係なさそう……」
「なにを言ってやがる? お前ら『白夜の一角狼』は強制参加だ」
俺は逃げの一手を打とうとしたが、国王陛下に塞がれてしまった。
やっぱりだめか。
「お前らが理由もなく不参加になれるわけがないだろう? 今回、大同盟を成立させた立役者だぞ?」
「そうですにゃ。フート殿は往生際が悪いですにゃ」
「……あまり格式張ったところは苦手なんだよ」
「まあまあ。基本的なテーブルマナーは学びましたし、大丈夫ですよ」
「ミキってこういうとき気楽よね。私もできるなら遠慮したい側よ?」
「アヤネ殿はドレスを着るのが面倒なだけにゃ」
リオンのツッコミにアヤネは天を仰ぐ。
どうやら、あたりのようだ。
「ふふふ。たまにはきれいなドレスを着て、旦那様の褒め言葉をいただくのも悪くないですよ? アヤネさん?」
「う……それは……褒めてほしい」
「じゃあ、アヤネさんはドレス姿で参加決定ですね」
「うん、そうする」
アヤネはあっさりとミキに丸め込まれてしまう。
それでいいんだろうか?
「フート殿、覚悟は決めるべきですにゃ」
「わかってるよ。参加しないとは言ってないだろう? ちなみに、国王陛下。ほかの参加者は?」
「ん? ルアルディからは、ルアルディ王と王太女。獣神国からは獣神国王と第一王子。残りの二国は王と連れてきている姫君だな」
「基本、各国ふたりなんですね」
「おう。俺たちの国も俺とフローリカのふたりが代表だ」
なるほど、それでこの場にフローリカもいるのか。
各国が王族をふたりずつのようだ。
「それでだな。ミキ奥方には悪いが……」
「モンスター肉料理ですね? なんのお肉がいいでしょう?」
「鹿はこの前ルアルディで出したし、熊は……在庫が少ないんだよな?」
「そうですね。熊肉はちょっと……」
「あとは……フレスヴェルグのときに手に入れた鳥肉か?」
「そいつはうまいのか?」
「ミキ?」
「ちょっと淡白な味ですね。ただ、モンスター肉は素材を生かした方が美味しいので……ソテーかステーキ、あるいは蒸し鶏でしょうか?」
「ふむ、味見用に作ってもらっても?」
「構いません。少し厨房に行ってきますね」
ミキは、それだけ言い残して厨房へと向かう。
そのあとはミキの料理ができるまでしばらく雑談などをして過ごした。
やがてミキが戻ってくると、先ほど宣言したとおりの料理3品が机の上に並べられる。
「さあ、召し上がってみてください。試食をした限りでは、蒸し鶏が一番美味しかったのですが……華やかさがないんですよね」
「どれ……うむ、確かに蒸し鶏が一番うまい。だが、やっぱり一番地味だな」
「ですわね。美味しいのですが……各国の王族に振る舞うとなると地味さは否めません」
国王陛下とフローリカも、見た目の地味さが気になるようだ。
ミキとしては、これ以上の野菜を増やしたくはないらしく、彩りを増やすことは困難らしい。
野菜を増やしすぎると匂いや味が移ってしまうのだとか。
結局、全員で話し合った結果、無難にステーキで行こうということになってしまった。
コース料理の一品だし、それが無難なのかもな。
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