247.マルティン王救出

「さてそれでは説明してもらおうか、王太女殿下」


 本日はルアルディ王国によって会談を設定されている。

 先ほどの騒動によって時間を無駄に消費し、すでにお昼を過ぎているが那由他側は会談を優先したようだ。


「それについては誠に申し訳なく。状況を説明させていただきます」


「うむ。ときに、マルティン王はどうなされたのか。空席のままだが」


「それについてもご説明いたします。まずは襲撃犯どもについてのお詫びをしたいのですが……」


 王太女殿下がこちらを向きお詫びをしようとする。

 だが俺はそれを制して先に進めてもらう。


「いえ、それは後ほどで大丈夫です。ほかのことを優先してください」


「……わかりました。後ほど改めて謝罪の席を設けさせていただきます」


「うむ、それがよい。すまぬがまずは外交官が二組いたことについて説明を願おう」


「はい。……お恥ずかしながら、あれは私どもが手配した外交官と姉の陣営が手配した外交官にございます」


「姉? オルゾーラ殿か? なぜそのようなことを?」


「はい、それですが……」


 王太女殿下はしきりに俺たちのことを気にしている。

 ここは退室した方がいいかな?


「フートたちのことなら気にするな。秘密は守る。そうだな?」


「ええ、もちろん。退室すべきならそうさせてもらいますが」


「いや、那由他国王が大丈夫と判断しているならば大丈夫だろう」


 国王陛下は信頼されてるな。

 さて、どんな話が飛び出すか。


「……国王陛下ですがいま病に伏せっております。そのため、国の内部で政争が活発化してしまいいまの状況と」


「失礼ながらアイーダ王太女よ。時期女王はそなたで決まっておろう?」


「はい。ですがそれに異を唱えるものが多く。特に教会勢力があちら側に付いてるため発言力が違います」


 その言葉に那由他の面々は『またか』という顔になる。

 ここでも教会勢力は好き勝手をやっているらしい。


「教会勢力か。我が国では一掃……というよりも勝手に出て行ったのだがな」


「存じております。ですが我々の国ではそうもいかず、回復術士は教会頼みでして」


「それについては技術を売り込みにきた。……だが国王不在、国も割れているいまでは話を進めるのは難しいか」


「申し訳ありません。財務大臣もあちら側に付いているので話にならないかと」


「……困りましたな、国王陛下」


「まったくである。フートよ、お前の手札で病を治す方法はないか?」


 ここで俺に振るのか……。

 正直、あるのだけどあまり手札はみせたくないしな。


「結論だけ簡潔に。老衰以外でしたらどのような病でも治せます。ですが、方法によっては私の切り札を使うことになるので『白夜の一角狼』以外のものにみせるわけには参りません」


「ふむ、やはり手札を持っていたか」


「あまり公開したくないのですよ。ばれたとしても人間相手なら対処できないとわかっていますが」


「あの、赤の明星とはいえこの少年の言葉を信じるのですか?」


「うむ、我々那由他側は全面的に信じよう。それだけの実績を挙げてきたからな」


「……那由他国王がそうおっしゃるのなら。ですが、どのように治療を?」


「通常の毒でしたら回復魔法で治ります。回復魔法が効かないものについては薬草を用意いたします」


「いや、薬草は我々も用意したのだが……」


「すまぬが、マルティン王の寝所に案内してもらえるか? フートの行動については、我、エイナルが全責任を負おう」


「承知いたしました。そこまでおっしゃるのでしたら。……ただ、姉と遭遇するのだけはお覚悟を」


「……承知いたした。同行者はどうすればいい?」


「できれば少人数の方が」


「わかった。我の護衛は軍務卿とアレックスに頼む。フートはどうする?」


「俺はひとりでも大丈夫……ああ、いえ。ミキとアヤネを連れていきます」


 ひとりでも大丈夫と言おうとしたらすごいにらまれた。

 心配なのはわかるけど、そこまでにらまなくても……。


「……というわけでこの6人だ。問題はあるか?」


「いいえ。念のために武器は預からせて……いただくわけにも参りませんね。まったく、王宮内で他国の王族が襲撃されるなど前代未聞の恥だ」


「その件はマルティン王の治療後である。手遅れになる前に急ぐぞ」


「手遅れ? ……まさか!?」


「その可能性もあり得るということだ。急ぎ案内を頼む」


「かしこまりました。急ぐぞ!」


 そこからの行動は本当に早かった。

 宮廷内を駆け足で走り抜け、一気に中央部を抜け王家のプライベートエリアとおぼしき場所まで入り込む。

 だが、そこで待っていたのはアイーダ王太女殿下と同い年くらいの女性であった。


「あら、アイーダ。今更やってくるとはね。お父様なら先ほど天に召されたわよ?」


「なにを言っている! オルゾーラ!」


「事実を述べているまでよ。そうでしょう、アルフレート大司教様?」


「ええ、オルゾーラ様。誠に残念ながらつい先ほどマルティン王は……」


 オルゾーラと呼ばれている女とアルフレートという教会関係者。

 この二名の会話を遮るように国王陛下が叫ぶ。


「フート、この場は我らに任せよ! 責は我、エイナルが負う! お前たちはアイーダ王太女殿下とともにマルティン王の寝所まで駆け抜けよ!」


「承知いたしました。ミキ、アイーダ王太女殿下を!」


「はい! アイーダ王太女殿下、失礼します」


「え、は? あなたたちなにを?」


 アイーダ王太女殿下が混乱しているがこの際無視だ。

 事態は一刻を争うようだし!


「〈其方は雷によって生まれし蜃気楼。雷精が肉、雷精が血。その力、司どるは総てが雷精。我が望むはその力の一部、大地より総てを縛りし力なり。その力は総てのものを繋ぎ捕らえるものとなりてこの世に現れよ!! マキナ・ハンズ!!〉」


「なに!?」


「マキナ・ハンズ!? こやつが手配書にあった赤の明星!」


 うーん、手配書というのが気になるがいまは無視する。

 マキナハンズを極広範囲に使い、道を塞ぐ総ての者を感電させて地に倒す。


「なに、一体なんなの!?」


「いくぞ、一気に飛び越す!」


「はい!」


「了解!」


 多少助走もつけられるし、100メートル程度の幅跳びは余裕である。

 俺たち3人が飛び越した向こう側にも分岐路があった。

 それについては多少パニックを起こしながらもアイーダ王太女殿下が道案内を続けてくれて、マルティン王の寝所まで到達する。


「ここが寝所ですか?」


「ええ。……なんで、ここの門番まで倒れているのかしら?」


「こいつがマキナ・ハンズを無制限に放ったせいよ。まったく、このエリア一帯の兵士は全員感電してるんじゃないの?」


「……かもな。国王陛下にはあとで謝っておこう」


「まあまあ。責任は国王陛下がかぶってくれるそうですしいいじゃないですか」


「ミキ、アンタってこういうときいい性格してるわよね?」


「……それよりも寝所の扉が開かないのだが……」


「どれどれ……魔法的なロックと物理的な鍵が両方かかっていますね」


「なぜそのような……」


「うん、魔法のロックは破壊しました。物理的な鍵は焼き切ってしまってもよろしいですか?」


「え、は、早いのね? ……オホン、構わぬ。一刻も早く国王陛下の状況を確認せねば」


「では失礼して……開きました」


「貴殿の前ではどのような鍵も無力ではないのかね?」


「高レベルになると手段を選ばなければ大抵の鍵は無力ですよ。そもそも鍵がある場所を通らなくてはいけないわけでもないですし」


「……よし、中に入るぞ」


「いえ、最初は念のためアヤネが。頼むぞ」


「任せて。それ!」


 アヤネが扉を開けるとそれに呼応してトラップが発動する。

 そんなものがアヤネに通じるはずもなく、すべてたたき落とされるが。


「どうしても中に入れたくなかったみたいね?」


「そのようだ。……さて、ほかにトラップはなさそうだな」


「ねえ、フート? 最初にトラップがあるかどうかわからなかったの?」


「扉のせいで魔力遮断されていてわからなかったんだよ。……本当だぞ?」


「その言葉、信じてあげるわ。さあ入りましょう、アイーダ王太女殿下」


「あ、ああ。貴殿たちは本当にすごいのだな」


「レベル100を超えるモンスターに比べれば余裕ですね」


「あんなのと比べたらね」


「おしゃべりはあとにしよう。……あの方がマルティン王陛下であってますか?」


「! ああ、そうだ!」


「失礼ながら触診させていただきます。……弱いですが脈はまだある。本当にぎりぎりですね」


「本当か!? それで、助かるのか!?」


「アイーダ王太女殿下、落ち着いてください」


「あ……すまぬ。取り乱した」


「いえいえ。フートさん、助けられますよね?」


「もちろんだ。エイル、フェアリーヒール!」


「エイル!? フェアリーヒール!? 文献が正しいのであればレベル7の回復魔法だぞ!?」


 アイーダ王太女殿下は俺の魔法を知らないんだったか。

 ついいつもの調子で使ってしまったが……隠すような手札じゃないしいいや。


「う……うむ……」


「父上!?」


 弱々しくであるがうめき声を発したマルティン王陛下にアイーダ王太女殿下が駆け寄る。

 するとマルティン王陛下も意識がはっきりしたのか、しっかりした目つきでアイーダ王太女殿下を見つめた。


「アイーダか。ここは……私の寝所だな。私は一体どれほどの時間をここで過ごした?」


「はい、およそ半年でございます」


「……それほどまでか。して、そのものたちは?」


「那由他国王陛下がお連れいただいた赤の明星のお三方にございます」


「……なるほど、私の治療もその3人が行ったのだな」


「そのようです。フートといったか。詳しい説明を頼む」


「はい。マルティン王陛下は遅効性の毒と呪いがかけられていました。それをエイルで回復、それだけでは体力が回復せず生死の境をさまよったままですのでフェアリーヒールで回復させていただきました」


「教会のものでさえ使えないレベル7の回復魔法が扱えるとはにわかに信じがたいが……事実なのだろうな」


「はい、私も見ておりました」


「よかろう。して、現状はどうなっておる?」


「それは……」


「……よい。オルゾーラめ、自分を推す貴族どもと結託して好き放題やっておるな?」


「申し訳ありません。私では抑えきれず」


「ふぅ、これではまだ儂が倒れるわけにもいかぬな。アイーダ、すまぬが肩を貸せ。そして、那由他の赤の明星方。すまぬがしばし警護を頼む」


「承知いたしました」


「ではいくぞ」


 そこから先は状況が一変する。

 先ほどオルゾーラと呼ばれていた女性がいたところまで戻ると那由他の騎士とルアルディ王国の騎士がにらみ合いをしていた。

 だが、マルティン王陛下が現れたことでルアルディ王国の騎士は膝をつき、この騒ぎの首謀者であるオルゾーラとアルフレートを捕らえて連れていってしまう。


「申し訳ない、エイナル王。我らルアルディの政争に巻き込んでしまった」


「この件については後の会談で話をまとめよう、マルティン王。我々は一度休みたいのだがどうすればよろしいか?」


「迎賓館を用意してあります。そちらへとご案内差し上げましょう」


「うむ。マルティン王の体調もある。会談は明日に延期でよろしいか?」


「……いや、エイナル王が遣わせてくれた赤の明星たちのおかげですこぶる体調がよい。二時間ほど時間をいただければこちらの準備は整う」


「承知した。こちらも二時間後であれば問題ない。では二時間後に」


 国王同士の話し合いで会談時間も決まった。

 そのあとは迎賓館へと案内されるわけだが……なにもないといいな。

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