248.会談前会議

 みんなが迎賓館に移動する中、俺は黒旗隊に付き添われ足早に鳴神へと戻る。

 目的はもちろん捕まえた襲撃犯たちからの情報収集だ。

 艦内に用意された牢屋に着くと申し訳ないが黒旗隊の騎士には見張りをしていた騎士ともどもこのフロアから出てもらう。

 事情はあとで説明するとだけ伝え、このフロアの見張りをテラに頼んだ。


「……きたか、小僧」


「きたよ。正気に戻ってくれたようで結構」


「ふん。さっきは驚かされたが口を割ると思うか?」


「あんな方法じゃ割らないと思ってる。だからこのフロアを閉鎖させてもらった」


「ああん?」


「ふふ……さあ


「う、ぁ……」


 俺の使ったにより、5人全員から20分ほどで情報を無理矢理かき集めることに成功する。

 この会話は国王陛下から預かった録音用の魔導具に保存させてもらったし、あとは放置でいいかな。

 ……ああでも、自害したり誰かに殺されても面倒か。

 5人の体内にを埋め込んでおき俺はこのフロアを浄化、秘術の気配を完全に消し去った。


「テラ、見張りご苦労様」


「オウフ」


「……フート殿、終わりましたか?」


「お待たせしました。もうこのフロアに降りても大丈夫ですよ」


「承知いたしました。……なんでしょう、甘い香りがただよっているような?」


「まあちょっとした小手先の技を使った残り香です。それではやつらの見張りをお願いいたします。……ああ、彼らは簡単に死ぬことも殺すこともできなくしてあります。危なくなったときにはあなた方の命を優先してください」


「はあ、わかりました」


「それでは」


「はい。フート殿も国王陛下の護衛をお願いいたします」


「ええ、もちろん」


 今度は牢屋のフロアを上がったところで待っていてくれた黒旗隊の人と一緒に国王陛下たちが待つ迎賓館へと急いで向かう。

 迎賓館まではテラに乗って移動したのでさほど時間はかからずに移動できた。

 到着した俺はすぐに会議室へと通される。

 迎賓館にある会議室には主立った面々が勢揃いしていた。


「早かったな、フートよ。口を割らせることは難しいか?」


「いえ、国王陛下。すでに全員から話を聞き出しました」


「……本当か?」


「ええ。人間、痛みには強くても快楽には弱いものですよ?」


「一体どれほどの手札を隠し持っているのか怖いものがあるが……まあよい。音声記録はあとで聞こう。首謀者はわかったか?」


「はい。やはり……といってはなんですが教会勢力の人間だったようです」


 俺の言葉に周囲がどよめく。

 もっとも、大臣クラスは想像が当たったと言わんばかりのため息をついただけだが。


「教会勢力か。どこまで行っても邪魔をする」


「よほど我々が目障りなのでしょうな。まったく面倒な」


「しかし証拠は自白のみなのだろう?」


「はい。襲撃犯が使っていた武器もテラが押収してくれていたようですが……それで身元をあぶり出せるとは思えません」


「念のため我々でも調べたい。預けてもらえるか?」


「承知いたしました。トラップなどは解除いたしましたのでご安心を」


「……フート殿、つまりトラップも仕掛けられていたと」


「そういうことです。誰かが調べようとすれば武器ごと大爆発を起こす仕掛けが施されていました」


「本当に厄介な……」


 この場にいる全員が苦虫をかみつぶしたような顔を隠さない。

 それほどまでに忌み嫌っているのだ。


「……ところで、フローリカ王女殿下は?」


「フローリカは身を清めさせている。すまぬがアヤネ殿とゼファーを借り受けたままだ」


「いえ、ひとりにしていないのであれば問題ありません。それとテラは予定通り俺の弟子たちの護衛にまわらせますがよろしいですか?」


「構わぬ。元々そういう約束だ。それを不測の事態で対処しきれていないのは我らの落ち度である」


「……テラ、みんなの位置はわかるな。いけ」


「ワフ」


 テラは会議室から駆け出していく。

 俺たちは俺たちの話を続けようか。


「フートよ。すまぬがこのあとの会談、最初の議題はお主への謝礼となるであろう」


「謝礼? ですか」


「本当に欲がないですな、フート殿は。あなたはこの国の国王を死の淵から救いました。ルアルディ王国として謝礼を支払わなくては面子が立たないのです」


「……そこまで考えていませんでした」


「フートは人命救助となると本当に欲がない。だが、王太女に聞いた話によるとエイルとフェアリーヒールを使ったのであろう? それだけで莫大な対価を要求してもおかしくないのだぞ?」


「ただより恐ろしいものはないということですか」


「学んでくれたのであれば結構。……問題はどの程度の対価を要求するかだ」


「うーん、お金をもらっても正直困ると言うか……」


「であろうな。フェンリル学校に寄付することもままなるまい。スラムなどで運営している孤児院も順調と聞く。金の流れが滞るのはよろしくないのだ」


 だろうね……。

 経済に詳しくない俺でもわかってしまうほどだからなぁ。


「そもそもこの国からそんなにお金を持ち出すこと自体よろしくないのでは?」


「そうなる。さて、どうしたものか……」


 どうやらこの問題はかなり深刻らしい。

 自分たちが同じ状況になれば国庫の半分を譲り渡しても仕方がない状況らしいのだ。

 那由他という国が受け取るならともかく、俺個人がそんな莫大な金額をもらってもどうにもならない。

 本当にどうしたものか……。

 あ、そうだ、あれならあるいは。


「国王陛下。ルアルディ王国から魔玉石を譲り受けるというのはどうでしょう?」


「魔玉石か……確かに、あれは国にとってはなんの役にも立たん。せいぜい鑑賞品だ。そしてお主たちにとっては戦力の向上が見込める品だな」


「はい。この国に魔玉石の在庫があるのでしたらそれを譲り受けることで対価とすれば問題ないかと」


「よかろう。その案でいこう。もし魔玉石の在庫がなければ……すまぬが魔宝石を譲り受けてくれ」


「……まあ、直接金銭を受け取るよりよいと思って受け取ります」


「結構。次は……今回の混乱に対する謝罪をどういう形で受け取るか、だな」


「まったくもって厄介なことになっておりますな」


「用意していた議題に入れないとは」


「あちらも国の面子がある。フートよ、まずはお主が王太女から我とフローリカの襲撃について詫びが入ることになる。面倒であろうが受け入れてくれ」


「それで話が進むなら受け入れます」


「うむ。その他の混乱は我々の方で引き受ける。……まったく、貴重な時間を無駄に消費する」


「これでは初日の午後に予定していた議題は明日以降に延期ですな」


「まったくである。オルゾーラ王女と……アルフレートといったか、あの教会のは。その沙汰も我々が関与しないわけにはいくまいて」


「ルアルディ王国の第一王女の裁きを我々が関与ですか……内政干渉ぎりぎりですな」


「本当ですな。しかし我々も関わってしまった以上、なにも口を出さないというわけにもいきますまい」


「先が思いやられるな……」


 国王陛下のつぶやきはその場にいる全員の思いでもある。

 国同士の話し合いなのだからさくさく先に進むとは限らないのだろう。

 でも、もう少し穏便に進まないものかな……。

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