209.邦奈良の現状 学校防衛会議

 さて運営会議の方は一段落したので魔法学科のデーヴィッド学長に声をかける。

 内容はこの学校のセキュリティーについてだ。


「この学校のセキュリティーですか。フート学長のいない間にいろいろありましてな。こちらとしても対策は講じておりますが」


「いろいろあった?」


「盗賊の類いが侵入しようとしたことがあったのですよ。幸い見回りの警備員にすぐ見つかったため、事なきを得ましたが」


「うーん、それだけだと困りますよね」


「はい。フート理事長たちはなにかアイディアをお持ちではないでしょうか?」


 防犯のアイディア、アイディアねぇ。

 ぱっと思い浮かぶのはあれだけど、あれっていろんなところに設置されているから効果的なのであって、学校だけじゃなぁ。


「そんなときは防犯カメラよ! あれなら一カ所に留まりながら学校のいろんなところを見渡せるわ!!」


 俺が考えていたことをズバッと言い抜くアヤネ。

 まあ、アイディア自体はいいんだけどさ。


「ボウハンカメラ……確か赤の明星がいた世界にあるという、さまざまな位置を映し出す道具でしたな」


「そうそれ。それがあれば監視は楽になるんじゃない?」


「アヤネ。ここは魔法もある異世界だということを忘れていないか?」


「へ? どういうこと」


「それはですな。ひとつはそういった装置に映らなくなる魔法というのがあるのです。わりと低レベルの闇魔法ですので使えるものも多いかと」


「そんなぁ。いい手段だと思ったのに」


「あとひとつ。警備員が目視してから駆けつけるまでの間に盗み出し終えている可能性ですな。この世界ではレベルや支援魔法による筋力増加があります。重たいものであっても盗み出すのはさほど苦ではないのですよ」


「むぅ……手詰まりじゃない」


「そうでもないが……ちょっと物騒な方法になるな」


「理事長はなにかアイディアをお持ちで?」


「夜間の間だけ、特別な魔方陣やアミュレットを持たない相手に無差別に電撃攻撃を仕掛けて気絶させる。そんな魔導具、開発できないかな?」


「ふぅむ。わりと簡単にできますな。電撃攻撃は非殺傷ですな?」


「当然。あと、魔法が発動したら発動したことがわかるような仕掛けもほしい」


「なるほどなるほど。それでしたら2週間経たないうちに実用化のめどが立ちますな。学生たちには校章に、警備員にはアミュレットを渡しましょう」


「でもそれってアミュレットを奪われたら意味がないんじゃない?」


「そこはご心配なく。個人の魔力波とあわせて使用するように細工を仕掛けますので」


「……本当に頼りになるわね。うちの魔法学科」


「ほかに懸念材料はございますかな。可能な限り力になりますぞ」


「そうだな……給食などの食事に毒が盛られていないかを判別する機能を盛り込むことはできるだろうか?」


「むむ……毒の検出ですか……さすがにそれは難問ですな。すべての種類に対応することなど到底不可能ですぞ」


「まあ、そうだろうな。俺もこの前図書館で毒物の本を読んだとき種類の多さに頭がクラクラしてきたし、それを治せる回復魔法の万能性に驚いたよ」


「……ほほう! 回復魔法ですか! それは面白いアイディアですな!」


「なにか思いついたのか?」


「ええ、思いつきました。毒は回復魔法で消すことができる。ならば回復魔法を照射することができれば、毒を無効化できるのではないかと」


「そんな簡単にいくのかにゃ?」


「発明とは失敗の連続の上に成り立つのです! ああ、こうしちゃいられない。原案を書き上げなくては……」


「ちょっと待った、デイヴィッド魔法学長。回復魔法を照射するってどれくらいのレベルの、どの魔法を照射するんだ?」


「……おお、そこを失念していました。ハイキュア程度では致死毒には効果が薄いでしょうな」


「かと言って即死毒に有効なのは、確かレベル5のプラーナとレベル7のエイルですよね」


「ふむ、困りました。我が学校にはレベル4の回復魔法使いは数名いますがレベル5の回復魔法を扱える術士はまだ育っておりません。それに即死毒を防ぐとなるとやはりエイルがほしいところです」


「うーん、俺が邦奈良にいる間なら研究に協力してもいいが……その間にほかの協力者を見つけられるか?」


「レベル7は難しいでしょうな。レベル5には心当たりがありますのでそちらをあたってみます。まずは低レベル魔法を使った実験で効果があるのかを検証ですがね」


「検証ってどうするの?」


「効果の弱い毒キノコを混ぜた料理を毒物除去装置に通して実食してみるのです。もちろん毒消しは十分に用意しておきますよ」


「それならいいのですが……あまり無茶はなさらないでくださいね?」


「お心遣いありがとうございます。しかし、今回ばかりは身体をはる必要がありますからな。フート理事長、優先順位は先ほどの警備装置が上でよろしいですか?」


「そうしてくれ。ほかに防犯設備で強化したほうがいい面ってあるかな?」


「ちょっと思いつかないわね。ここの生徒ってかなり強いから」


「アヤネさん。個人が強くても集団相手には後れをとることはありますよ。というわけで、防犯ブザー的なものと非殺傷性のスタンバトンのような武器はどうでしょう?」


「にゃー。この世界じゃ襲ってきた相手を返り討ちにするのは当然の行為だけどにゃ」


「主に武器を上手く扱えない年少者向けです。身体が小さければ武器に振り回されることがあるでしょう?」


「……ふむ、それについては学校内の議題でも上がっていましたな。いまのところ問題は起きてませんが、今後は人さらいなどにも注意せねばということで」


「人さらいか……わかりやすい防犯方法で行けば防犯ブザー。囲みを抜けるのに必要ならばスタンバトン。あとは捕まった時に備えてなにかばれないような発信器があれば完璧なのだけど……さすがにそれは高望みか」


「発信器については半々といったところですね。奴隷目的で誘拐する連中には安全な場所まで連れ去った後、すべての衣類を奪い去るものたちも多くいると聞きますので」


「なによそれ! 女の敵ね!!」


「……まあ、羞恥心から逃げにくくするのも狙いのひとつでしょうな。マジックアイテムの類いを取り上げるのもありますが。ですが、どこにいるかをはっきりさせる発信器というアイディアは悪くありません。そちらも採用いたしましょう。スタンバトンというのは、弱い雷魔法を発生できる棍棒のような武器ですよね。そちらも鍛冶科と協力して試作品を作ります。最後にボウハンブザーですか、これの効果を教えていただきたいのですが……」


「この世界じゃ存在しないのか。首から下げたり鞄につけたりする小さなアクセサリー型のアイテムで、その下に引き抜けるようになっているリングがくっついているんだ。それを引き抜くととても大きな音量で助けを求める声を発生するんだが……この世界じゃそれだけだとダメだよな」


「ダメですね。ですが着眼点は面白いかと。大音響で相手をひるませそこをめがけてフィアーの魔法を仕掛けるのです。そうすれば相手はしばしの間動けなくなり、逃げ出すことができるようになるでしょう」


「あの、フィアーの魔法ってなんでしょう?」


「フート理事長たちは光や闇の魔法を使わないのでしたな。フィアーは闇属性魔法で相手の心の隙を突き恐怖で動きを鈍らせるという魔法です。あまり知られてはいませんが、衛士隊や騎士団などにも使用者がいますよ」


「……使っていることがばれたら一気に対策されそうだものね」


「そういうことです。ボウハンブザーについては国の許可が必要になりそうですね。フート理事長のおっしゃるとおり大音量を出すだけでも一定の効果は認められそうです。こちらは平行して進めましょう」


「すまないな。……先ほどの会議だと年少組の成長が著しいと聞いて心配になったから」


「それは私ども教師陣も一緒です。魔法の上達は早いのですが、身体的能力については伸びが悪い。年齢を考えれば仕方がないのですが、ならず者たちに狙われてはたまりませんからな。かと言って校内に縛り付けることも難しく……困った問題です」


「早いところ子供たちが安全に遊びに行けるといいんだが」


「そうですね。そのためにも今回案に出していただいた発明、きっちりやり遂げて見せましょうぞ!」


「あー、無理はしない程度にな?」


「はい!!」


 とてもいい笑顔で返事をされたが……これはダメだろうな。

 なお今回の発明品のうち防犯スタン装置、毒物除去用回復魔法照射装置は国でも研究開発を行うことになったらしい。

 国としても特に毒物除去は非常に大きな問題のようだった。

 そりゃお偉いさんが毒殺とかされたら大変だものな……。

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