208.邦奈良の現状 学校運営会議 3

「学校対抗戦ですか……正直なところ意見が割れていますね」


 学校対抗戦、つまり王立学院との対抗戦だ。

 状況はあちらから申し込まれているという話だが、あちらとしては受けろという命令のつもりだろう。


「そうか……でも、受けなければ相手は納得しないだろう?」


「受けても納得しないでしょう。あちらは貴族や大商人の子息ですから。無駄にプライドだけは高いはずです」


「そうでしょうにゃ。吾輩も講師として一度招かれたことがありましたが、まったく話も聞かずやる気もありませんでしたにゃ」


「だと思うぜ。俺はここの教師になる前あっちで教師をしてたこともあるが、まったくやる気がなくってな。それでいて不平不満ばかり口にする。あんなのが国を支えることになると思うと嫌気がさしてたまんなかったぜ」


「……とまあ、こういう意見もありまして。受けても受けなくても相手の不満は高まるばかりでしょう。まさかうちの生徒たちに負けろとは言えますまい」


「言ってもきかないだろうな。言わせるつもりもないが」


「だと思いました。なので意見が割れているのです」


 うーん、単純に受けてしまえばいいと思ってたが考えが浅かったか。

 勝っても負けても文句を言われるなら受けない方がマシ、でも受けなければなにを言われるかわからない。

 さて、どうすればいいのだろう。


「ふむ、さすがの理事長でもお困りのようですな」


「エドアルドさん……さすがに俺でも貴族がらみの案件は専門外だよ。どちらかというと力でねじ伏せる方が早いと思ってしまうようになってしまったから」


「それはそれで問題ですな。では私めから知恵をお貸ししましょう。この学校対抗戦を王前試合としてしまうのです」


「王前試合ってことは王様に見てもらうのか?」


「正確には王族の皆様や大臣等の重鎮ら、上位貴族などですな」


「にゃ。それでなにか変わるのですかにゃ?」


「国王陛下の御前ともなればうかつな真似はできません。ましてや、不正などを働けば教師の進退に関わります。抑止力としては十分かと」


「エドアルド殿、陛下たちがそんな簡単に動いてくださるとは思えませんが……」


「そこはフート理事長に期待ですな。私も昨日フート理事長からいただいた手土産を持参する際にそれとなく話をしておきますが……なんとかなるでしょう」


「そんな簡単に……」


「実を言えば陛下もフェンリル学校については興味がおありのようなのです。内務卿からどんな話を聞いているのかは想像できませんが、陛下にはお子様が5名いらっしゃいます。国王陛下のお子様たちは側近なども含めて王立学院に通うのが習わしです」


「そうですな。すでに第一王子と王太子である第二王子までは王立学院を卒業しております」


「陛下は年の離れた第三王子とまだ幼い第一王女、第二王女をどうするのかを考えておいでのようです」


「……エドアルド殿? 我らの学校には貴族、まして王族を受け入れるような真似はできませんぞ?」


「そこも含めてどうするかを国王陛下と王太子殿下はお考えのようです。国王陛下も王太子殿下やその側近たちもいまの王立学院の現状には嘆いておられましたからな」


「ただの学校対抗戦からずいぶんと大きな話になってきたものだなぁ……」


「遠い目をしないでください、理事長。私も現実逃避をしたい気分ですが」


「はっはっは。まさか第三王子殿下がフェンリル学校にくることはないでしょう。ですが、学校対抗戦を材料として王立学院の授業内容や教師陣の態度を一新させるくらいはやるのではないかと」


「本当にスケールの大きい話だにゃ」


「私たちではついていけません……」


「難しい話って苦手……」


「そこまで難しい話でもないですよ? 要はフェンリル学校との対抗戦を理由に王立学院の府抜けた体質にメスを入れたいだけですからね」


「それがスケールが大きいって言うんだよ……」


「ですな。我々フェンリル学校としてはそんな大ごとを起こすつもりなどなく、ただ人命救助を行っただけなのですが」


「いえ、学校対抗戦は遅かれ早かれ王命として行われることになったでしょう。今回はそれが早まっただけとも取れますよ」


「王命ですか……それならば仕方がありませんな。して、競技はどのように決められるのでしょう?」


「おそらく王立学院のことです、自分たちが決めるのが当然と思っているでしょう。なのでここは内務卿にお願いして王宮側で競技内容を決めていただこうと思っております」


「エドアルド殿、そんなことができるのですか?」


「先ほども申しましたが、理事長から手土産を預かっております。それを渡せば否やはないでしょう。それに王立学院のことで頭を悩めているのは王宮側も同じでしょうし」


「エリート校ならエリート校らしくけじめをつければいいのにな」


「フート理事長は本当に手厳しい。昔は……40年ほど前までは本当のエリート校だったようですよ。私も当時の事は存じませんが」


「私はおぼろげながら覚えていますな。当時の王立学院の生徒たちは皆礼節と実力を兼ね備えた国を支えるに相応しい生徒たちだったと覚えております」


「そうなのかにゃ? それがなんでいまのようになったのかにゃ?」


「私どももそこまでは……」


「私も存じませんね……ただ、王宮の皆様ならご存じかと。登城した際に伺ってきますか?」


「いや、今更そんなことを知っても仕方がない。いまは目の前のことに集中しよう」


「承知いたしました。……というわけで理事会としては学校対抗戦について受けるという方針ですがいかがでしょうか?」


「うーむ……学校の現場からするとやはり一抹の不安は残りますな」


「そんなに生徒の出来が悪いわけじゃないだろう?」


「逆です。生徒たちがはりきりすぎてしまわないかと……」


「……そっちの心配はしてなかったな」


「私めもそちらの心配はしていませんでした……」


「我が学校の生徒たちに『ほどほど』という概念が通じるかどうか」


「仕方がない、全力でやらせよう。その結果としてどんな結果になるかはわからないけど……それでも育てると決めた以上は放り出せないからな」


「その覚悟はしておりますよ。いまの時点でも想像をはるかに超えた成長をしているのですから」


 学校長のその言葉に教師陣が全員うなずく。

 ここまで成長するなんて誰も予測できなかっただろう。

 俺だって一般市民の子供たち程度に育てば成功、くらいのつもりで始めたのだからな。


「では学校対抗戦については受けるということで決定ですな。ほかに議題はありますでしょうか?」


 学校長の発言に対してテイマーギルドマスターであるマルガさんが手を上げて発言許可を求める。


「マルガさん、どうぞ」


「議題というわけではないだけど、そろそろこの学校の子供たちに従魔との交流会を持たせてあげたいのよ。上手く巡り会うことができればそのまま従魔登録してテイマーになってもらうわ」


「おお、ついにですか。しかし、思ったよりも早いですな?」


「本当は夏頃を考えていたのだけど子供たちの成長を見ると早いほうがいいと思ってね。ただ、どうしても従魔を運べる数が制限されてしまうから何回かにわけて行う必要があるけど」


「その方が子供たちにもよいでしょうな。資金は学校から出しましょう」


「理事会で話はついているけど、今年については無償で構わないわ。来年からは学校に負担してもらいますが。上手く相性のいいパートナーがたくさん見つかってくれると嬉しいんだけど」


「ですな。理事長も構いませんかな?」


「ああ、存分にやってくれ。場所は理事会で話していたとおり講堂で行うのかな?」


「講堂が一番広い屋内施設だからね、そこで行うわ。……従魔契約をしていない従魔を外で放つことは法で禁じられているからね」


「わかった。問題がないならそれで許可しよう」


「ありがとうございます。ほかにはなにかありますか?」


 その後も大きな議題はなかったが細かい話がちらほらと続き、昼休憩を挟んで会議は午後まで続けられた。

 この会議で思い知らされたのは子供たちの貪欲さだよ、本当に。

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