207.邦奈良の現状 学校運営会議 2

今回はフェンリル学校側からみた大聖堂爆破事件の話がメイン

立場が変われば視点も変わり、でてくる情報にも差異が出てきます

それではどうぞ


**********


「大聖堂爆破事件か……大分活躍したそうじゃないか」


「ギルド連合の方で大まかな話はお伺いでしょうか? ならば詳細についてご報告させていただきます」


 学校長は一息挟むと手元の資料に目を落とした。

 これらの資料は全員に配布されており、先ほどまでの報告も概要に関しては載っている。


「手元の資料の4ページ目からをご覧ください。そこから先が大聖堂爆破事件におけるフェンリル学校の生徒たちが参加した活動内容になります」


「……負傷者救助に回復魔法やポーション、傷薬による治癒、その他一般的な治療か。一言で書くとそんなたいしたことをやってないようにも見えるな」


「ええ、まあ。実際はものすごかったんですけどね」


「その日は野外学習の日だったと聞いたが」


「はい。あいにく主力とも呼べる生徒200名は大規模野外学習で不在でした。そんな中、街の中心部からとても離れたこの学校でもわかるぐらいの轟音と煙を上げて大聖堂が消えてなくなっていたのです」


「なるほど。それで生徒がまず向かった、わけじゃないよな?」


「もちろんです。最初は現場の様子を確認するために教師が派遣されました。ですがそこに広がっていたのは、大聖堂の破壊に伴う一般市民たちの負傷した姿でした」


「そのときには教会勢力は逃げ出したあとだと?」


「逃げ出した……というより堂々と立ち去ったと聞いておりますが、ともかくいなくなっていたようです。同時に王宮からの騎士もまだ到着していなかったようですが」


「……どれだけ早かったんだ、うちの教師」


「そういうことに特化していた元冒険者の方々にお願いしましたからね。戻ってきた教師陣から情報を得た私たちの選んだ選択は街の状況が収束するまでは待機してそのあと治癒などのお手伝いをするというものでした」


「ふむ、妥当だな」


「ですがその話を何人かの生徒たちに聞かれていたようで……生徒たちは救助活動から参加する気で満ちあふれていたんですよ」


「ある意味、この学校の生徒らしいにゃ。困っている人を見捨てられないというのはにゃ」


「説得したかったところですが事態は一刻を争います。現場には指揮をする騎士団が到着しているはずなのでその指揮下で救助活動にあたる、という条件で許可しました。そのあとは何名かの付き添いの教師とともに破壊された大聖堂へと向かい救助活動を始めたというわけです」


「ふーむ。野外学習に出た生徒はどうやって異変を知ったんだ?」


「特殊な信号弾で『都に異変あり、至急帰還せよ』と伝達しました。そして、彼らも2時間後には都まで戻り、救助活動に加わったわけです。もちろん、体力的に救助活動に加われないものもいましたが、そういった生徒は治癒にまわるか学校から回復薬を運び出す手伝いにまわっていただきました」


「ちなみに、使った回復薬って?」


「備蓄していた回復薬の8割です。これ以上放出しては生徒になにかあった場合対処できませんからな」


「それならいいんだ。続けてくれ」


「はい。騎士団の指示の元、救助活動にあたっていたフェンリル学校の生徒たちは……一言で言うと目立ちすぎたみたいですね」


「目立ちすぎた、とはどういうことでしょう」


「はい、ミキ様。そろいの制服に身を包み、高度な連携でがれきを撤去しつつ、生存者がいたら回復魔法で回復しながら救護所まで運ぶ姿は見習い騎士と勘違いされていたようです。後日、騎士団から正式に『あれは見習い騎士ではなく有志で駆けつけてくれたフェンリル学校の生徒たちであった』とお触れを出さなければいけないほどにですね」


「そんな面倒なことをせずに見習い騎士の手柄にしてしまえばよかったのに」


「アヤネ様、ことはそう簡単ではないのですよ。なんだかんだ、年少組までできる範囲で加わって全校生徒400名がほぼフル稼働していたのです。見習い騎士はそんな大人数はいませんし、制服のデザインが違うのですぐにばれます。騎士たちにとって評価が高かったのは大きながれきをどけるときの連携の取り方と、回復魔法の腕前ですかね。怪我の具合を瞬時に見極め必要なレベルの回復魔法を迅速に使用する。それでも足りない場合は、惜しげもなくポーションで回復する。人命救助の鑑だとお褒めをいただきましたよ」


「騎士団じゃ備蓄の問題もあるから、そんな大盤振る舞いはできないだろうしな」


「そうでしょうね。回復魔法士は連れてきていたようですが、野戦病院並みの忙しさになっていた救護所の空気にあてられて動きが硬かったそうです。ですが、そんな中をぴょんぴょん走り回る年少組の姿を見て、自分たちもできることをやらねばと心を奮い立たせたとか」


「……年少組が救護所で働いていたのか?」


「主に軽作業ですがね。何人かはレベル4の回復魔法が使える凄腕もいますので、レベル3では怪しいけが人がいた場合の切り札としても待機させていたみたいです」


「ギルド連合……理事会からは『年少組は学校に残った』と聞いていたけど……」


「それが……残していたのですが見張りをしていた教師の隙を突き、学校を脱出して救護所まで来た生徒が何人かいたんですよ。今更帰すわけにもいかず、手伝ってもらったのですが……高レベル回復魔法を使える生徒ばかりが来ていたのは運がよかったですね」


「それ、運がよかったのかにゃあ」


「リオン様?」


「最初から子供たちは誰を行かせるか決めていたように思えますにゃ。それに選ばれたのが、高レベル回復魔法を使える子供たちだったと考えられますにゃ」


「……まさか、そこまで考えられるとは……」


「ないとは言えないだろう、この場合」


「ですね。子供の成長が著しくてついていけません」


 ため息をひとつつくと、再度資料へと目を落とす学校長。

 聞いた話だと、これで終わらなかったはずだが。


「ともかく、この事件によってフェンリル学校のイメージはがらりと変わりました。元はスラムの浮浪児を集めて再教育を施すだけの施設だと思われてきましたが、いまでは突発的な災害にも対応できるような能力や勇気、知識を与えてくれる学校だという認識になっております。副次作用とでもいいますか……フェンリル学校の生徒が街歩きをすると以前よりも頻繁に声をかけられるようになったそうですね」


「興味を持ってもらえることはいいことにゃ。あとはそれで天狗にならないようにビシバシ指導するにゃ」


「わかっております。そのあたりの指導はビシバシ行っておりますのでご心配なく」


「で、問題はそれだけじゃないんだろう?」


「はい。理事会でもお聞きになっていると思いますが、一般市民からもフェンリル学校に入学させたいという希望者が現れました。……ただ、私どもとしては受け入れには慎重な立場をとらざるを得ないといったところです」


「理事会でも聞いているよ。学校長が考える理由は?」


「フェンリル学校がエリート校である理由は、子供たちの貪欲さによるものです。そこに一般市民の子供たちが入ってきたとしても、その貪欲さは身につかないと思います」


「一理あるな。理事会としては一週間ほど体験入学をさせてみて合格なら入学させることも考えていたのだが……」


「一週間どころか3日で根を上げますよ。それほどまで一般市民とスラムの子供たちの必死さは違います」


「ふうむ……一般市民でも家庭環境に余裕がなければどうだろう?」


「それならばついてくるかも知れませんね。ですが、アグニの件はいかがしますか?」


「それも理事会で話したが前倒しするしか無いんじゃないか、というのがこちら側の意見だな」


「それについては私たちも否定しません。それで、入学金なども話し合われたのでしょうか?」


「ああ。一年の学費は大銀貨4枚、ただし学費の支払いは一年間の猶予……つまり入学して一年後に支払わせる」


「私どもとしては構わないのですが……それでは、学費を支払わずに退学するものも多いのでは?」


「ああ……そこまで考えてなかったな」


「年間の授業料が大銀貨4枚というのは悪くない案だと思います。それくらいでしたら捻出できる家庭も多いですから。どうしてもダメな場合は成績優秀者に対する1年間の貸付金、あるいは免除制度なども導入すればよろしいかと」


「奨学金制度か。悪くないな」


「それに大銀貨4枚でしたら本人の頑張り次第で魔物討伐やアイテム作成で支払える金額……そうお考えなのでしょう?」


「その通りだ。本人のやる気次第で通える学校にしたいからな。逆にやる気のない生徒……もどうしても出てくるんだが、そちらはなるべく減らしていきたい」


「? やる気のない生徒は退学させればいいのでは?」


「そうすると、また成績下位者が怠け出すのさ。そういうものだと理解してもらうしかないな」


「わかりました。受け入れ準備などもありますのでそちらが整い次第、一週間の体験入学を入学試験として行いましょう」


「時期はいつ頃になるんだ?」


「おそらく4月上旬かと。今からおふれを出して田舎の生徒が集まれるギリギリの日程です」


「わかった。そちらはまかせるよ」


 うむ、ここまでは順調だな。

 さて、ここからが問題だが……。


「フェンリル学校の総意として聞きたい。『王立学院との学校対抗戦』受けるつもりはあるか?」

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