206.邦奈良の現状 学校運営会議 1

 ギルド連合での会議を終えた翌日、今度はフェンリル学校へと向かいそちらで会議となった。

 メンバーはギルド連合の一部のギルドマスターおよび俺たち4人に学校関係者たち。

 さて、どんな話題になるのやら。


「フート理事長、まずは無事のご帰還おめでとうございます」


「ああ、ありがとう。堅苦しい挨拶は抜きだ、早速始めよう」


「わかりました。まず現在の教育状況をご説明いたします。頼んだぞ」


「はい。まずは数学の指導ですがこちらは想定よりも進んでいると考えていいようです。生徒間で教えあうことが多く、それも学力向上の一因となっていると思われます」


「次に公用語の件だな。こちらは8割方の生徒がほぼ完璧に覚えている。まだ覚えきれていないのは年少組だが、こちらは時間があるので問題ないだろう。今後は高年齢者で希望するものを対象に専門用語や国際言語を教えていく予定だ」


「次は体力面での成長ですね。こちらについては成長著しいとしか言えません。元々スラムという過酷な環境で生き抜いてきた子供たちです。正常な環境を与えれば発育は並みの子供たちより優れていると言えるでしょう。また、さまざまな体力作りの運動にも積極的で教えているこちらの方がバテてしまいそうです」


「俺の番か? 俺は剣術などを含めた冒険者指導を務めているものだが……ここの生徒のやる気はすさまじいな。さっきも言っていたが、過酷な……その日の食いもんにも困るような生活をしてきたせいか生き残るすべを学ぶのに本当に貪欲だぜ。ある一定水準まで魔法や武器を扱えるようになった生徒を交代交代でレベル上げに連れて行ってもいるが……俺が昔指導したことのある冒険者のガキどもに見習わせたいぐらいの個人の戦闘力や複数人での連携だったぜ? ほんと、この学校の教師になれてよかったわ」


「魔法学科からは順調としかいうことがありませんな。いまは四号覚醒施設を4つ使って覚醒の指導、覚醒した生徒には魔法の指導をしていますがどちらも恐ろしいまでに吸収が早いです。特に年少組はまことに恐ろしいですな。すでに五色シャーマンが6人も誕生しております。近いうちに研究結果として公表しますが……年齢が低い方が精霊も近寄りやすいのかも知れませぬな」


 ……ふむ、ここまで聞いた学科はどこも順調と。

 ん、なにか精霊がいいたいことがあるようだな……。


「ふむ……小さい子供は一緒に遊んでくれるから近づきやすいんだと。よくわからない理屈だな?」


「フート理事長? いまのは?」


「ここに来ていた精霊が俺に話しかけていった。……っていうかこの部屋、精霊がかなり多いぞ」


「ほう……フート理事長が来ているからでしょうか?」


「それは否定しないけど……精霊たちもあの子たちのことが気になるらしいな」


「ほうほう! 精霊に愛されているとは素晴らしいですな!! 覚醒施設にそのような効果もあるとは!!」


「……んー、自分たちが力を貸している相手のことはいつでも気になるらしい。それが幼い精霊たちの選んだ存在だとなおさらのようだ」


「ふうむ……フート理事長、いまの発言は議事録に載せた方がいいでしょうかな?」


「学校長の判断に任せるよ。……精霊の声が聞こえるなんて普通の人からすれば眉唾物だけど」


「ですな。……一応、記録には残しておきましょう」


 俺の突然の発言で報告が一時中断してしまったが、その後は各専門分野における報告が続く。

 紡織・裁縫・調理の各講習はやはり女子に人気が高いようで集まる生徒のほとんどは女子だと報告された。

 ただ、男子もそれなりの数が混じっており、そういった生徒の腕前はかなり高いと太鼓判を押している。


 その逆なのは鍛冶ギルドでこちらは女子はほとんど来ていないそうだが、何人かのグループが参加しており腕前は男子に負けていないそうだ。

 なんでも、支援魔法を使って筋力を高め鍛冶を行っているらしい。

 それを見た男子が真似をしようとしたらしいが、かなり繊細なコントロールが必要なようで上手くいかなかったとか。


 調合・錬金術についてはあまり偏りがないらしく、男女ともに学びに来ているようである。

 できあがる製品の質も年齢を考えれば上々な方でできることならこのままギルドで雇いたいとも冗談めかしていっていた。

 ほかにも参加しているギルドの報告が続くが、どこも概ね問題は発生していないらしい。

 学生側もいろいろなギルドの講習に顔を出して自分に合うものを探しているのだとか。


「……現状の報告は以上ですね。フート理事長からはなにかありますでしょうか?」


「そうだな……このあと説明があるのかも知れないが、街で売っているフェンリル印の製品について聞きたいな」


「かしこまりました。それでは私の方から説明いたします」


 元々フェンリル印の製品は魔法学科と各ギルドの間で共同開発された『魔術式開発具』というものが起源らしい。

 これは、使う際に魔力を注入してやることで本人の魔法属性と共鳴し、作る道具に魔力を宿らせるという一種の魔道具のようだ。

 なんでそんなものを開発したのかを魔法学科に聞いてみると『できそうだったので研究として作った』とのこと。

 魔術式開発具の試作品ができたのは俺たちが礫岩の荒野に行った少し後、まともに使えるものができたのはその数週間後らしい。

 それを使い各ギルドから派遣されてきた指導員が各種アイテムを生産してみるものの、上手く魔力は宿らなかったそうだ。

 原因ははっきりしていて、指導員には対応する属性魔力が覚醒していなかったからである。

 そのため十分な安全性を検証した上で生徒に使用させると実験は成功し、魔力を宿した道具の開発に成功したようだ。


「ふむ、それだけなら売りに出す必要はなかったんじゃないのか?」


「それですめばよかったのですが……続きがあるのですよ」


 この実験の成功により生徒が扱う道具は基本的に魔術式開発具に変更となった。

 それを使いさまざまなアイテムが開発され、その中には鍛冶で鍛えられた武器や錬金術で作られたポーションに魔道具、調合で作られた傷薬も含まれていた。

 そして野外研修などもそれを使って行われるようになり、次第にその武器や道具が人目に触れるようになってきた。

 いわく、普通の子供が扱う武器とはひと味もふた味も効果が違うアイテムを使っていると。


「なるほど。それでその噂を聞きつけた鍛冶屋や魔道具屋がやってきたと」


「はい。私どもとしても最初はお断りしていたのですが、作成したアイテムの備蓄が増えてきたことと生徒たちが自分の作ったものが売れるということでモチベーションが上がることを期待し、少量ずつではありますが街に卸すようにしたのです」


「少量ずつというには、片手剣はかなりの数があったようだが……」


「片手剣は練習でもナイフやダガーと同じくかなりの数を作りますからね……卸す数も多くなってしまうのです」


「理事会でも聞いているが、製品の品質に問題は?」


「そちらについては各ギルドの専門家に鑑定してもらい、問題ないものだけを選別しています。苦情なども来ておりません」


「それはいいことだにゃ。でも、鍛冶屋でみた魔力を込めた武器。あれは値段からすると強すぎじゃないかにゃ?」


「……あれでも特級品は卸してないのですよ? 特級品と呼べるものができあがった場合、それを作った生徒たちに贈ることにしていますので」


「……あれより上がもう作れるのかにゃ」


「はい。魔術式開発具とともに各ギルドは何名かの生徒に声をかけているようです。私どもはそれを止めていませんが……理事長たちはどうお思いでしょう?」


「いいんじゃないか? 各ギルドだってただの慈善事業でお金を出してくれているわけじゃないんだ。早いうちから声かけくらいあってもいいと思うぞ。無理矢理な引き抜きはよしとしないがな」


「そこはわきまえているようなので大丈夫かと。私どもやほかの理事たちも目を光らせていますのでご安心を」


「じゃあ、この件はこれで大丈夫だ。街にフェンリル印の製品を卸すこともこれまで通り続けてもらって構わない。ただし、生徒に無理をさせないように」


「心得ております。……さて、次の報告は大聖堂爆破事件の際のことですな」


 うーん、概要は昨日聞いたが教師たちからの報告はどうなるのやら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る