194.ホームパーティ(開催編)

「それではただいまより吾輩たちの無事帰還おめでとうパーティを始めますにゃ!」


 リオンの宣言とともに、乾杯の音頭がとられる。

 ここにいるのは全員成人だが、お酒が苦手な面々も多く、最初の一杯だけお付き合いで飲むというのも珍しく無い。

 ……さて、俺はまずどうしようかな?


「おう、食ってるか、フート!」


「エーフラムさん。まだ始まったばかりですよ」


「それはわかっているんだが……この料理めちゃくちゃおいしくねぇか?」


「んー、それは普通の食材で作った料理ですかね」


「普通じゃない食材なんてあるのか?」


「モンスター肉があるじゃないですか。エーフラムさんも知っているでしょう?」


「……いや、俺、それは知らない」


「あれ、本当ですか。なら、あとで食べてみてくださいよ」


「おう。しかし、それにしても、ガキどもが元気になってよかったぜ」


「ガキどもって……弟子ですか?」


「おうよ。ハンターの厳しさを教えるために、わざと全員揃っている状況でグレゴリオに襲わせたんだが……上手くいかないもんだ」


「人生そんなものですよ。上手くいかないなんてざらです」


「ま、そんなものだよな。それにしても、なんだって今日は3人とも魔法習得ができたんだ? いままでは何度行ってもダメだったのによ」


「ああ、それですか。多分、気持ちの問題じゃないかな」


「気持ちの問題?」


「精霊たちも落ち込んでいたりジメジメしていたりする人間には近づきづらいんですよ。なのでいままでは失敗していたんじゃないでしょうか」


「……そんなのあったのか」


「わりと大事ですよ?」


「俺も気をつけるわ」


「ええ、そうしてください」


「んじゃ、俺はほかのメシを探しに行くわ。またな」


 エーフラムさんはごちそうが並べられているテーブルの方へと歩いて行った。

 でも、モンスター肉って地味な料理になってるんだよねぇ……。

 ライラさんは、ニコレットさんやあちらの弟子たちを巻き込んでお酒を飲みつつ魔法の講義をしている。

 あれ、絶対半分以上酔っ払っているよな。

 最終手段の回復魔法もあるし放っておこう。

 さて、俺はどうしたものか……。


「あの、先輩。少しよろしいでしょうか?」


「うん? リコか。構わないぞ」


 どうしようか考えていたら、今度はリコに声をかけられた。

 お皿にはいろいろと料理が載ってるし、楽しんでくれているようだ。


「リコ、パーティはどうだ? 楽しめているか?」


「はい! 村のお祭りじゃ出なかった料理もたくさんありますし、どれもすごくおいしいです。これを全部ミキ先輩が?」


「いつの間にかアイツの趣味……というか、ライフワークになってたからな。かなりの腕前だぞ?」


「すごいですね……私は料理なんて野営用の食事くらいしか知らないので憧れます」


「だったら、今度ミキに頼んでみればいいさ。基礎くらいなら教えてくれるだろう」


「だと嬉しいです。……そういえば、この子って魔法以外食べないんでしたっけ」


「レッサーフェンリルの食事は主人の魔法だな。……回復属性のレッサーフェンリルなんて聞いたことがないし、テイマーギルド側の焦りようからしても初めてのことなんだろう」


「そうなんですね。さっき、ヒールをたくさん使ったんですが、まだおなかがいっぱいにならないみたいで……」


「そこは地道に頑張るしかないな。魔法のレベルが上がれば効率よく餌を与えられるようになるし、レベルを上げてMPを増やす手もある」


「ですよね。うーん、どちらもすぐには難しいです。私の魔力が上がるまでもう少し我慢してね、ミラー」


「ワフン」


「ミラーか、その子の名前は」


「はい。ちなみに、アキームはハンティングホークにヴィドって名前をつけたみたいです。テイマーギルドの職員さんからも話を聞いていたみたいで、とりあえず今日は生野菜を食事に与えているみたいです」


「とりあえずってことはメインの食事はまた別なのか?」


「メインは魔物が落とす魔石らしいですよ。魔石を食べていくと段々進化して、最終的にはスナイパーホークになるとか」


 へぇ、魔石でねぇ。

 魔石は魔物を倒して入手すれば、単なる魔力の結晶体だから悪影響はない。

 しかし、そんな方法で進化する従魔もいるんだな。


「……正直、私たちにはかなり苦しいんですが」


「どうしてだ?」


「魔石って売るとお金になるじゃないですか。というか、弱い魔物から入手できるお金のほとんどは魔石です。それを食べさせなきゃいけないというのは結構厳しいものが……」


 ああ、お金か……。

 俺たちは都について早々大金を手に入れたから困ったことはないんだよな。

 でも、普通はいろいろとお金のやりくりに困るのが普通なわけだ。


「なので、ヴィドにもしばらくはお野菜で我慢してもらう事になります。……私たちが強くなれば早いんですが」


「強く、強くか……」


 ふむ、向上心はあるようだな。

 あとは本人のやる気次第だが……。


「なんなら少しだけでも俺たちが戦い方なんかを教えようか?」


「え、でもお忙しいのでは?」


「まあ、忙しいんだけどさ。その合間にでも、教える時間は取れるだろうし。もちろん短時間の詰め込み方式になるから、それを各自で反復練習してもらわなくちゃいけないんだけどさ」


「……本当にお願いしてもいいんですか?」


「というか、それが目的で俺のところにきたんだろう?」


「実はそうなんですが……かなりお忙しいと伺ったので断られるかなと」


「基礎を教えるくらいしかできないけどな。それ以降は、ちゃんとした師匠の元で学ぶといい」


「はい、ありがとうございます!」


「あとはほかのふたりがどう考えているかだな」


「私、確認してきますね!」


 勢いよく振り返り、リコはそのまま駆け出していく。

 ミラーはそんなリコの足元で心配そうにしていた。


「転ぶなよー」


 とりあえず声をかけたが……本人の耳には届いていないんだろうな。

 ……さて、俺もほかの仲間に話をつけるか。

 そう思って、ミキやアヤネ、リオンが集まっていたスペースに行くと。


「あら、あなたも頼まれたのね」


「吾輩もアキームに頼まれましたにゃ」


「私は拳闘士ですから、戦い方が違うので頼まれていませんけどバックアップならできますよ」


「「オンオン!」」


「……みんな、受ける気は十分か」


「だって、見ていて気持ちいいじゃない。やる気もあって磨けば光る可能性もある。あんな逸材を放っておくのはちょっとね」


「吾輩も小さい頃は里の先輩たちに迷惑をかけましたからにゃあ。その恩をここで返すのですにゃ」


「じゃあ、全員引き受けるってことでいいんだな」


「構いません」


「もちろん」


「だにゃ」


「……そういえば、リオン。里帰りはどうするんだ?」


「予定より早く戻ってきていますにゃ。それにいろいろ説明することがあるので里帰りは後ろ倒しにゃ」


「ならいいんだが……無理はするなよ」


「その言葉、アヤネ殿にもかけてあげてくださいにゃ。あと2週間もすれば発情期特有の症状が出始めますにゃ」


「……2週間ですか」


「……そんなに短いのね」


「予定が前倒しにできてよかったのにゃ」


「まあ、そちらはそちらで対処するとしよう。リコたちの面倒は俺たちがしばらく見るということで」


「そうしますかにゃ。もちろん、ハンターギルドの許可が下りればですけどにゃ」


「ハンターギルドの許可がいるの?」


「あの子たちはまだ新人ですにゃ。本来ならCランク以上の師匠についていろいろ学ばなければいけませんにゃ」


「ダメだったら諦めてもらうさ。とりあえず、俺たちの間では決定ということで」


 この話をリコたちに伝えたらとても喜んでくれた。

 最初は邦奈良まで送り届けて終了だったはずの縁が、ここまで続くとは思ってなかったな。

 さて、ハンターギルドの許可は下りるかな?

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