新人ハンターたちの訓練

195.早朝のハンターギルドにて

 俺たちの意思は決まったのでゲーテにその話をしようと思ったら『小難しい話は明日にしてください』と言われてしまった。

 確かにギルドが関わる話だし、一受付嬢のゲーテがひとりで決められることでもないか。

 ……にしても、よく食べるなゲーテは。


 その後、いい時間になったらパーティはお開き。

 あたりも暗くなってしまってるので、用心のためにテラとゼファーを護衛につけて帰宅してもらった。

 帰宅といってもリコたちも含む新人組はハンターギルドが用意している宿舎に戻るだけだし、ゲーテの家もそんなに離れていないらしい。

 ユーリウスさんたちは護衛そのものがいらないと言っていたので、まあ大丈夫だろう。


「いやー、皆よく食べてよく飲みましたにゃ」


「そうですね。お料理を作っておいた甲斐がありました」


「ゲーテ、かなり食べてたけど大丈夫かしら……」


「まあ、自制はしてる……と思うから大丈夫だろう。で、明日だが」


「朝からギルドに行きましょうかにゃ」


「それで問題ないなら早速鍛えるわよ」


「私はお手伝いしかできませんが……頑張ってください」


「そうだな。午後は、どこか適当な場所でレベル上げさせるか」


「それがいいですにゃ。戦闘技術に比べてレベルが足りてませんにゃ。レベル15付近ならゴブリンハントがいいでしょうが……吾輩たちが行くと冒険者の邪魔になるかも知れませんにゃ」


「それじゃあ、どこに行くの?」


「それもハンターギルドで聞いてみますにゃ」


「じゃあ予定は決定だ。後片付けをして……」


 後片付けをして寝よう、そう言おうとしたら、パールが目の前に現れた。

 あー、そういうことね。


「マスター、後片付けは私とブラウニーたちにお任せください」


「わかったわかった。それじゃあ適当にシャワーを浴びて……」


「お風呂の準備もできております」


「……さすが、家精霊。万能だにゃ」


「らしいから、順番にお風呂に入って寝よう」


「そうね。そうしましょうか」


 あれだけの椅子やテーブルの後片付けは重労働じゃないかと思いつつ、俺たちは引き上げて眠りにつく。

 そして翌朝だが……うん、庭はきれいになってるな。


「マスター、お目覚めですか」


「ああ。片付けご苦労様」


「たいしたことでは。朝食の準備もできております。どうぞこちらへ」


 ミキはまだ眠っていたし、ほかの皆も起きている様子はない。

 朝食はひとりで先に済ませてしまおう。

 朝食を済ませ、身だしなみを整え終えると皆が下りてきて朝食を食べていた。

 俺は目線だけで挨拶を済ませて、ソファーに座る。

 テラとゼファーにも朝食の魔法を与えながら少し考え事をした。

 ……さて、リコに指導できたとして、なにから教えるべきか。


「お待たせしました、フートさん」


「待たせたわね」


「というか、ずいぶん早く起きてたんだにゃ」


「なんとなくな。準備ができたならハンターギルドに向かおうか」


「いってらっしゃいませ。マスター」


 パールの見送りを受けハンターギルドまで歩いて移動する。

 正直、人数が少ないなら歩いた方が速い。

 そして、ハンターギルドにつくと……いままでのハンターギルドでは見たことがないほど混み合っていた。

 ハンターギルドの仕事は斡旋式らしいし、そんなに混み合うことはないと聞いていたんだがなにか変わったのだろうか?


「あ、フートさん、ミキさん、アヤネさん、リオンさん。おはようございます」


 受付でゲーテを探そうとしたらあちらから見つけてくれた。

 こちら側によってきてくれたので、このまま相談するとするか。


「おはよう、ゲーテ。……この混み具合はなんなんだ?」


「いえ、少し事情がありまして……昨日話そうとしていたことですよね。一体どんなご用件でしょう」


「ああ、実はリコたちのことなんだが……」


「あの子たちですか……ギルドでもちょっと困っているんですよ」


「困っているとはどういうことかにゃ?」


「一言でいいますと、指導員不足です。いま街に戻ってきている高ランクハンターは、すでに弟子を抱えている方々か補給のために一時帰還している方ばかりです。エーフラムさんたちは前者ですね」


「そうなんですね。それでこの人だかりは……?」


「それでですね。待機している高ランクハンターに対して、後天性魔法覚醒施設の件もあり都に戻ってきた下位ランクハンターがとても多いんです。そういった方々が、再度高ランクハンターに弟子入りしたいという要望が多く寄せられておりまして……」


「それで、指導員不足か」


「はい。足きりではないのですが、レベル40を超えているかDランク以上のハンターは諦めてもらいました。それでも、これだけのハンターが残ってしまい……。ハンター本部であるここだけではなく、都の支部すべてが似たような状況です」


「それは困った状況ですにゃ。本来ならば、吾輩がフート殿たちのパーティを抜けてでも指導員に入るべきなんでしょうがにゃ……」


「事情は聞いています。リオンさんはフートさんたちを鍛えることだけに集中してください」


「わかりましたにゃ。……でも、この状況、どうやって押さえ込むのですかにゃ?」


「そうなんですよねぇ……日銭は都から少し遠目の狩り場で稼いでもらっているのですが、そこも飽和状態でこれ以上増えると大変なんです」


 ……結構、ハンターギルドがマズい状況だった。

 とはいえ、俺たちも何組も指導できる状況ではないしな……。


「あの、なんとかする目処はついているんですか?」


「サブマスターはあと数日耐えてほしいと連絡しています。なにかお考えがあるのでしょう。……いまのギルドの状況はこのような感じですね」


「大変ね。ハンターギルドも」


「というか、こんなにいたんだな、ハンターって」


「普段は皆さん各地に散っていますからね。ただ、後天性魔法覚醒施設が王家直轄領にしかないため、邦奈良まで戻ってきている人が多いらしく」


「でもどうして弟子入りをやり直したいのかしらね?」


「うーん、弟子入り志願者の多くは複数の魔法属性に目覚めた方々なんです。なので魔法の指導者がほしいと」


「魔法の指導者、ねえ。フートじゃ感覚的すぎて大人数を教えるには向いてないから」


「ほっとけ」


「……っと、現状の説明はこれくらいにしましょうか。それで、今日のご用件はなんでしょう? サブマスターからは明日の朝と伺っていますが」


「ああ、リコたちの件なんだが……」


「ふむ……場所を変えましょうか。変に聞かれると殺気立ちそうです」


 ゲーテに連れられて相談スペースまで移動した俺たち。

 そこで、短期間でいいならリコたち3人を指導したいと申し出た。

 すると。


「本当ですか!? すごく助かります! あの子たち、戦闘技術は高いのにレベル不足で評価が低く、Fランクスタートになってしまったんですよ」


「やっぱりかにゃ」


「正直、あれだけのセンスを持った人材を腐らせるにはもったいないですからね。短期間でも指導していただけるなら助かります」


「じゃあ、この件は問題ないと」


「はい、問題ありません。……ただ、ギルド内でそのことを伝えてしまうと……」


「殺気立ちそうね、特にあとからきた子たちなわけだし」


「はい。幸い、まだ3人はギルドにきていません。自分たちだけで狩りに行ったとも思えませんし、宿にいると思います」


「それなら、俺たちが宿まで迎えに行くとするか」


「では私もご一緒します。ギルドからの正式な通達ということにしますので」


「りょーかい。さて、バルトをどう鍛えてあげようかしら」


「ほどほどにするにゃ。……吾輩もアキームを鍛えるのが楽しみにゃが」


「おふたりとも、お手柔らかに……」


「本人たちがどこまで行きたいかを確認してからにするわよ。さて、あの子たちがこっちに来る前に迎えに行きましょう」


「そうですね、そういたしましょう」


 と言うわけで、ギルドから宿まで移動する。

 テラたちににおいも追わせたので、まだどこにも行っていないはずだ。

 そして、宿までついたとき、3人は朝食を食べ終わり、今日の予定を考えているところだった。

 そこにゲーテが現れギルドとして俺たちが短期間ではあるものの師匠となり面倒を見ることを告げる。

 3人の喜びようはすごかったなぁ。

 ま、指導は手を抜かないけどさ。

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