193.ホームパーティ(準備編)

 リコの魔法の杖を買い換えた俺たちは、少し早いが家に帰ることにした。

 それなりの人数が集まっての食事会になるので、早めに戻って準備しておこうと考えたわけだ。

 そう思い、我が家の前に車を止める。

 うん、結界がしっかりと張り巡らされているな。


「……ここが先輩の家ですか?」


 結界の術式があるせいで見た目がすごいおんぼろな家に見えるものな。

 不安になるか。


「ああ。ちょっと待っててな、『鍵』を開けるから」


 事前に取り決めてあったとおりの術式を起動して結界にはめ込む。

 すると、結界が解除されて家が本来の姿へと戻る。

 ……戻るのだが、なぜか庭にはテーブルセットやグラスなどが並べられていた。


「……先輩、これって?」


「家は俺の家だが……庭はわけがわからないな」


 まあ、こんなことをするのは家精霊たちしかいないのだが。

 問題は、どこで俺たちの予定を知ったかであってだな。


「パール、いるか?」


「? 先輩?」


「はい、ここに。お帰りお待ちしていました」


「ひゃぅっ」


 パールを呼ぶとすぐに現れた……リコの背後に。

 リコは驚いてへたり込んでしまったぞ。


「パール、いたずらはほどほどにな」


「申し訳ありません。数カ月ぶりだったものでつい」


「あの、先輩、この方は?」


「俺の家を管理してくれている家精霊シルキーのパールだ。パール、彼女は今夜のゲストのひとりで……」


「リコ様ですね。ようこそフート様のお屋敷へ」


「屋敷ってほど豪華じゃないけどな」


 俺たちがそんなやりとりをしている間に、皆もぞろぞろと敷地の中に入ってきた。

 そういえばエーフラムさんも初めてだっけ。


「お前らハンターギルドの真裏に住んでるって噂は聞いたことあったけど、本当に真裏なんだな」


「ああ、本当に真裏ですよ」


「こんな立地条件のいい場所がなんでいままで残ってたんだか……」


「魔法的な処理が施されていたそうです」


「あー了解。ときどきあるんだよな、一定以上の魔力を宿していないと入れない館とか」


「それと似たようなものだにゃ」


「そう思っとくよ。……で、なんだかパーティの机と椅子、それからグラスは用意されているみたいだがなんでだ?」


「ああ、俺もそれが聞きたかったんだ。パール、なにかしたのか?」


「私がした、というより、ブラウニーたちがした、ですね。最近になってブラウニーの活動範囲が屋敷の外までなぜか広がり、ハンターギルドでマスターを見た個体がいたらしく。それでその子がついていき、今日、ホームパーティを開催する情報をつかんで帰ってきました」


「……なあ、フートよ。ブラウニーって家精霊の一種族だよな? こんな自由でいいのか?」


「俺も疑問に思ってるんで、なんとも……」


「他人に迷惑をかけるようなことは絶対にしませんので大丈夫ですよ」


「そこじゃねぇんだよなぁ」


「まったくだ」


「まあまあ。それで、パールさん。あとはどうすればいいでしょう?」


「あとはお料理と飲み物ですね。いかがしますか、新しく作るのであればお手伝いしますが」


「うーん、ちょっと疲れちゃいましたから出来合いのものを並べちゃいましょう」


「ちなみに、吾輩たちの間で『出来合いのもの』は作ったあとすぐにアイテムボックスに収納した料理のことにゃ」


「……それってほぼできたてじゃね?」


「できたてにゃ」


「あとは飲み物ですけど……ジュース類はタルでまだ残ってますね」


「タルで買ったけど誰も手をつけなかったからな」


「瓶詰めジュースや普通の水で十分だったからねぇ」


「そうなると、飲み物は買ってきた方がよろしいかと」


「そうだな。……リオン、ミキ。市場ってもう閉まってるよな」


「閉まってるにゃ」


「閉まってると思いますよ」


「……どこで買えばいいんだ?」


「どれ、とりあえずジュースのタルってのを見せてみろよ」


「あ、エーフラムさん。これですよ」


 エーフラムさんの前にドンっとタルを置く。

 俺でも持ち上げられる程度の重さしかないが、中身は飲み物でいっぱいだ。


「ふーん、一種類しかないのを我慢すれば、これでいけるんじゃねぇかな?」


「そうです?」


「ああ、大丈夫だろう。ってなると、酒か……ライラのヤツもああ見えて羽目を外すときはよく飲むんだよな」


 さて、お酒のストックはない。

 正確には料理酒として使うためにいろいろな種類の酒を少量ずつストックしているが、パーティで出せる量ではない。

 どうしようかね?


「しゃーねぇ。フート、車を出してくれ。ギルドに行って宴会するから酒をわけてくれって言うわ」


「それでいいんです?」


「多分大丈夫じゃないか? お前らの帰還祝いをお前の家でやるけど酒だけ足りなかったっていえば20人前くらいはわけてくれるだろう」


「……そんなに飲まないぞ?」


「俺らが飲むから心配すんな。つか、お前たちも一杯くらいは付き合え」


「まあ、一杯だけなら」


「よし、決まりな。じゃあ、ギルドに戻るぞ」


 というわけで、お酒をわけてもらいにギルドに戻るとライラさんやニコレットさん、それから弟子3人もギルドに戻ってきていた。

 タイミング的にちょうどよかったか。


「おう、全員揃ってどうしたよ?」


「いえ、私たちフートくんの家を知らないから……」


「ライラからフートの家に集合と言われたのだが、どこだと言う話になって困っていたのだ」


「それでゲーテさんがもうすぐ仕事上がりで、フートくんの家を知っているっていうから案内してもらおうと思って待ってたの」


「それで、エーフラムたちはなにをしにきたのだ?」


「酒の調達だ。パーティをやるのに酒がなくてな、ジュースも一種類しかないらしいしできればわけてもらいたいところなんだが」


「お待たせしました皆さん……ってフートさん?」


「やあ、ゲーテ」


「どうしたんですか? あ、皆さんを迎えに来たとか」


「いや、パーティをやるのにお酒がなかったからギルドでわけてもらおうとエーフラムさんが言い出して……」


「なるほど。でもちょうどよかったです。それでは私はこれで」


「あ、ゲーテ。よかったら、ゲーテもパーティに来ませんか?」


「あら、いいの?」


「まあ、身内だけの集まりですし、参加者は適当でいいかなと」


「じゃあ参加させていただくわ。……料理はミキさんのよね」


「そうですね」


「よし、おいしい晩ご飯ゲット」


「?」


「ああ、こっちの話よ」


「おーい、フート。こっちに来てくれ」


「エーフラムさんが呼んでるわよ」


「話がついたのかな? 行ってきますね」


 エーフラムさんはギルドに併設されている食事処の料理長と交渉して約30人分のお酒と何種類かのジュースを入手していた。

 俺が呼ばれたのはアイテムボックスにそれらをしまうためらしい。


「よし、これで懸念はなくなったな」


「そうですね。それじゃ、全員で戻りましょうか」


「おう。……しっかし、俺もあんな車ほしいぜ」


 エーフラムさんも俺の車の虜になったようだな。

 スキルで作っている車だからどうにもできないんだけど。

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