181.龍王のスキル
俺たちは増えたソウル量と、炎龍王が飛び去った空とを交互に眺める羽目となった。
天気は曇り……というほどでもないが雲がそれなりにあったのに、炎龍王の衝撃波で霧散したらしい。
俺たちには衝撃波を与えずに雲には衝撃波を与えるってどういう仕組みなんだろうな?
『ふむ、どうやら無事にソウルは行き渡ったようだな。結構結構』
事態を静観していたらしい、地龍王が状況を見て話しかけてきた。
「あの、地龍王……もらったソウルが55億ほどになっているんですが、多過ぎじゃ?」
『ふむ、その55億のうち5億はフレイディアの討伐報酬だ。魔石やその他の宝物が消滅した分、ソウルくらいは与えたのだろう。それは安心してレベル上げに使うがいい』
「それならいいのですが……さて、ほかに質問は……」
「じゃあ、私からね。ざっとスキル一覧を見たんだけど、フレイディア由来のスキルがないのはなぜ?」
『炎龍王のヤツがお前たちには不要と判断したのだろう。実際のところ、フレイディアのスキルは毒耐性であったり、毒の霧を生み出すものであったり、武器に毒の効果を付与するものだぞ? 今更必要か?』
「……必要ないわね」
「むしろ、私たち以外の人がいると巻き込みますよね」
『そういうことだ。おそらくはスキル取得は可能になっているだろうが……使わんだろう』
「吾輩からも質問にゃ。吾輩、100億ソウルをはるかに超えるソウルをもらっているのですが、これは手違いですかにゃ?」
『あやつのことだ。そのソウルを使ってレベルを上げ赤の明星を導けということだろう。いくらソウルパーチャスの恩恵を受けていても、リバーンの民と赤の明星では成長速度が違うからな』
「ははーっ、それではありがたく使わせていただきますにゃ」
『ほかになにかあるか?』
「俺たちに接触してきそうな龍王について教えてもらいたいんだけど……」
『そうだな……まず、お前には必ず雷龍王が接触するはずだ。お前ほど雷精に愛された存在も珍しいからな』
「そこはやっぱりくるんだな……」
『そして、お前たち全員の元には樹龍王が会いに行くだろう。なにかと適当な理由をつけては、分体で人間の街を旅している龍だ。今回のお前たちの一件、褒美を与えねば気が済まないだろう』
「褒美なら大量のソウルをもらったんだがな……」
『龍王のスキルを舐めるな。50億程度のソウルは一瞬で消えてなくなるぞ』
「ということは、ソウル集めのためにまたモンスターや魔物の討伐に向かう必要があるわけね」
『アグニと戦うのであればいまのレベルでは無理だろう。……もっとも、この近辺でここより強い魔物が生息しているのは魔黒の大森林程度だが』
「そうですにゃあ。いよいよ、あそこでの修行となりますにゃあ」
「ちょっとネコ、真面目に言ってる?」
「真面目も真面目、大真面目ですにゃ。魔黒の大森林魔物はレベル150以上、モンスターは190以上の難敵揃いですにゃ。そこに1年籠もれば大幅レベルアップ間違いなしですにゃ!」
「……1年も森の中、ですか」
「もちろん、補給とかで都に帰ることはちょくちょくしますにゃ。ただ、生活のほとんどがあちらになることは覚悟してくださいにゃ」
「モンスターから有用なスキルか魔導石を奪えればいいんだけど……」
『魔導石とやらはともかく、スキルは諦めた方がよかろう。おそらくは我々龍王が与えるスキルの下位互換になるからな』
「……ってことは本気でレベル上げに集中しなきゃなのね」
「それがいいですにゃ。たしかアグニのレベルが220半ばくらいだったはずですので、250を目安にあげたい所ですにゃ」
「アグニ相手だと、あっちよりも高い方がいいか……そうねそうしましょう!」
『ふむ? アグニのヤツがレベル220程度しかないだと?』
「いかがなされましたかにゃ、地龍王様?」
『アグニが最後に人間として我に会ったときはレベル400を超えていた。どういうことだ?』
「……ねえ。私たち、アグニにだまされてるんじゃない?」
「かもしれませんが……あの場で嘘を言う必要性なんてないですよね?」
「モンスター化したときにレベルが下がったのかにゃ?」
「答えの出ないことを推論してても仕方がないぞ。せっかく地龍王も残ってくれているんだし……で、地龍王。【炎属性魔法】って何だ? 取得ソウル量からいって炎龍王由来のスキルだとはわかるんだが」
『炎龍の属性、【炎】を扱うスキルだな。【火】に比べてよく燃えさかり、術次第では大爆発を起こし、火魔法では実現不可能な極高温も使えるようになる。その分、MP消費は激しいが……お前には関係なかろう?』
「それじゃあ【炎龍王の鱗粉】って?」
『それは炎龍王の力を周囲にまき散らして、近寄ってきた相手を爆破で吹き飛ばす魔法だな。一度爆破した部分には数秒間隙ができてしまうが、なかなかの便利さだぞ』
「はぁ……このふたつで10億か……確かに、龍王由来のスキルは消費が激しい」
「私たちのスキルも似たようなものなのね」
「多分そうだと思いますにゃ。……というか、吾輩のスキル【炎塵の爆裂】とか物騒な名前なのですがにゃ……」
「まあ、スキル検証はあとで行いましょう、ね?」
『ふむ、これで質問は終わりか。……ああ、そこのケットシー。お前だけは神器がないのであったな』
「はいですにゃ。まあ、赤の明星ではないので仕方のないことですにゃ」
『私が岩の剣ではあるが、神器を授けよう。炎龍が残っていれば炎の神器も渡せたのだが……』
「いえいえ! 身に余る光栄ですにゃ!!」
『そうか? 気にするほどでもないのだが……両手を前に差し出せ』
「はいですにゃ!」
リオンが両手を前に差し出すと、地龍王の鱗が数枚こぼれ落ち、宙をただよう。
それらはやがてひとつになり形を変えながらリオンの手に降り立ち……岩の剣になっていた。
『それが岩の神器だ。使い方はわかるな。精進することだ』
「はいですにゃ! ありがとうございます!!」
『イリーガルモンスターを発見、幼体のまま覚醒させてくれた功績は大きいからな。アレが成体だとこの辺り一面が形を変えていた』
「なんともスケールの大きな話だ」
『それほどなのだ、イリーガルモンスターは。……さて、私はもう数年、ここでイリーガルモンスターの気配がないか調べていこう。なにか用事があればまた会いにくるといい。さらばだ』
地龍王は再びストーンランナー……岩でできたエリマキトカゲ状のなにかに姿を変えて走り去っていった。
残されたのは、俺たち4人だけ。
短かったとはいえ、全力攻撃を繰り出していたのでかなりスタミナを消費している。
「終わりましたにゃ」
「終わったな」
「帰りましょうか……」
「そうね、帰ってシャワーを浴びたら仮眠にしましょう。スキルのチェックは後回しよ」
「賛成です。疲れちゃいました……」
「ではショットワイヤーで下山しますにゃよ。……ああ、帰る前に観測班にも説明が必要ですにゃあ」
リオンの言葉通り、俺たちが下山するとどこからともなく観測班のリーダーが現れて説明を求めてきた。
あの黒いもやのような竜はなんだ、なぜストーンランナーがこんなところに現れたのか、黒い竜を串刺しにした魔法は俺たちが使ったのか、などなどいろいろ聞かれた。
だが、リオンも一般ハンターにはあまり口外できないことと相手の追及をかわし、1日ほど休養をとったら検問所に向かってギルドマスターに直接報告することを伝えてほしい、と告げた。
観測班もギルドマスターに直接報告しなければいけないような事態だということは相当なことだと判断したらしく、これ以上追求してはこなかった。
だが、1日休んだら、できるだけ早く報告に行くように念を押されたが。
「というわけで、明日は休みにゃ。スキルの報告会も明日に回すのにゃ」
「了解したわ。今日は休養にあてればいいのね」
「あんな化け物と対峙したんだからな。知らないうちにかなり緊張してるだろうさ」
「そうですね……ゆっくり休みましょう」
結局、この日は夕食を食べたら全員早く就寝して、翌日は遅い時間まで眠っていた。
それほど疲れていたってことなんだろう。
二度とイリーガルモンスターには会いたくないぞ。
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