180.炎龍王ブレイズレイド

『お、そいつらがお前の言っていたニンゲンか? すでに加護を与えてるんだな?』


 戦闘機はガシャガシャと音を立てそうな勢いで変形し、竜の姿となった。

 そういえば、さっき長距離から爆撃したときは竜の姿で、トドメの時は戦闘機だったよな。

 変形機構付きとか誰が考えたんだろう?


『我が分体を相手にその正体を明かされるほどの実力を持っていた。その見返りだ』


『ほう。お前の分体相手にそこまで戦えたのか。なら、俺の分体とも戦えるか? やってみるか?』


『……やめておけ。お前の分体はこの世界基準で言えば300レベル以上ある。戦っても一瞬で終わってしまうぞ』


『なんだよ、根性がないな』


『……お前は本体の方で天龍と戦えるか?』


『あー……そういう意味ね。把握把握。次元が違うと』


 なにやら龍王同士で話が進んでおり、炎龍王との戦いは避けられるようだった。

 正直、あれだけ強い気配を放っている存在とは戦いたくない。

 アレだったらアグニともいい勝負……というか、アグニにも勝てるんじゃないのか?


『あー、そこのニンゲン。悪いが、俺らは普通のモンスターには手出しできねーんだわ』


「聞いてますよ。ただ、アグニにも勝てるんじゃないかな、と思っただけで」


『アグニ……アグニだと? アイツがモンスターに!?』


『炎龍、お前は地上を見なさすぎだ。アイツは間違った道を歩んだ。故にモンスターとなり、いままではなんとか理性で押さえ込んできたがそれも限界が訪れようとしている』


『ちっ……だが、モンスターになっちまった以上は、この世界の歪みだ。討伐してもらわないといけねーか』


『そうなる。相当強力なモンスターと化しているようだからな。ソウルもため込んでいるだろうよ』


『あー、それって絶対に倒さなきゃいけないヤツだ。ちっくしょう……』


 やはり、龍王はアグニと面識があるらしい。

 それもモンスター化する前のアグニと、だ。

 モンスター化するアグニは一体どんな人物だったのだろうか。


「なあ、ひとつ聞いてもいいだろうか?」


『かまわねーぞ。もちろん、答えられる範囲でになるけどな』


「アグニって生前……いや、いまも生きてるからモンスターになる前はどんな人間だったんだ?」


『アグニか……一言でいえばよく笑うニンゲンだったな』


『確かに。なにが楽しいのかわからんが、とにかくよく笑っていた』


『それでいて戦闘になると強いのなんの』


『アレもまた全棄者、ソウルパーチャス持ちだ。種族はドラゴニュート。最初はかなり苦労したようだが、我らと会うときには剣聖、賢聖、守護神の3つを手に入れていたな』


『仲間も強かったよなぁ……やっぱり、ソウルパーチャスは仲間と分け合ってなんぼのスキルだってのがよくわかる戦いだったぜ』


「え、ちょっと待ってよ! ソウルパーチャスって固有スキルじゃないの!?」


『あー、その間違いする赤の明星、多いんだよなー』


『黒のヤツもスキルについて『固有スキル』という表現はしていなかったはずだぞ?』


『スキルっていうのは転生前の性格とか実力とかでついてくるんだよ、普通は』


『その例外がいくつかあるが、最たるものが全棄者が手に入れる【ソウルパーチャス】だ』


『で、ソウルパーチャスの真価は【自分ひとりが強くなれる】ことじゃなく【仲間全員を強化できる】ことなんだよな』


『そうだ。それを理解できないソウルパーチャス持ちは大概数年で死ぬ。仲間に恵まれなくても数年で死ぬ。ソウルパーチャスは一種の呪いだ。上手く使えれば最高の祝福だがな』


 仲間を強化できるスキルと聞いて、とても腑に落ちた気がした。

 ミキやアヤネとサバイバル生活を始めてすぐに、【ソウルパーチャス共有化】を覚えられたのはそういうことだったらしい。

 あのときは自分も含めて生き残るための手段として共有化をしたが……それが最善の選択だったとはな。


「あの、先ほどから全棄者という名前でフートさんを呼んでいますが『全棄者』とはなんでしょう?」


『あー、わりぃ。それは答えられないんだわ』


『いずれ時期が来れば、黒のがお前たちの元に顔を出す。そのときに教えられるはずだ』


「……黒の、というのは赤の明星をこの世界に送ってくださるという『黒の部屋の神』でよろしいですかにゃ?」


『そうだ。アレは黒の部屋ではこの世界の神を自称するが、あくまで転生させるものを落ち着けるためのデマであり、この世界の神ではないのだが』


『アイツもアイツで、この世界の管理に手を貸してくれればいいんだけどなー』


『炎龍、それを天龍や冥龍らが頼んでいないとでも?』


『あー、断られたのか……』


『正確には、いまのバランスを崩すことになるので赤の明星を定期的に送り込むのが精一杯だそうだ。赤の明星が上手く機能すれば、モンスター狩りも苦ではなくなるからな』


『だよなぁ。それなのに伝説だけを信じて使い潰してるんだからヒト族は愚かだよな』


『それについては我々の関与すべきことではない。……が、赤の明星が機能しないとモンスター狩りが進まない地域があるのも事実なのだが……』


『マジ、困るぜ。モンスターが増えすぎるとイリーガルモンスターも生まれやすくなるからな』


「そういえば、先ほどの黒いもやが地龍王様の探していた敵ですかにゃ?」


『おそらくは、な。まさか、卵に擬態してモンスターから少しずつ魔力を奪っているとは思わなかった』


『お前ってどこか抜けてるよな』


『うるさい。この辺りを見回りに来たことは何度もあったが、卵など見たことがなかった。イリーガルモンスターの気配も、先ほど初めて感じたくらいだ』


『あー、あれな。他の龍王も焦ってたぜ? 超小型とはいえ、世界にいきなりイリーガルが発生したもんだからよ。樹龍なんかは魔黒の大森林を影響下から切り離すので精一杯になってたし、風龍はイリーガルの気配がこの荒野から出ないように腐心していた。俺が出向くことになったのは一気に焼き払えってことだろうな。じゃなきゃ、環境に影響の少ない雷龍か氷龍あたりが来ることになるだろうしよ』


『だろうな。まったく、今回の一件、肝が冷えたぞ』


『本当にな。連鎖的にイリーガルが発生しなくてよかったぜ』


『それはそこのニンゲンたちのおかげでもある。この荒野に巣くっていたモンスターをすべて倒して歩いていたからな』


『ほう。アグニと戦うための武者修行ってところか。いいねぇ』


 龍王たちの間だけで話がどんどん進んで行き、俺たちは口を挟むことすらできない。

 アヤネですら気配に気圧されている感じがあるし、リオンは完全にネコモードだ。

 この話、どこに落ち着くんだろう……。


『……しかし、このままではアグニを倒すなど夢物語だろうな』


『アグニのヤツも成長するだろうからなー。……よっしゃ、俺も加護を与えようじゃないか!』


『……また軽々しく加護を与えようとする。龍王が加護を与えるには相応のなにかを示す必要があるのだぞ?』


『お前が数年かけて見つけられなかったイリーガルモンスターを見つけて、さらに幼体の状態で目覚めさせ力をそぎ落としたってだけで十分な理由だろ! どうだ、反論はあるか!?』


『む……お前にしてはよくできた理由付けだ』


『ぶっちゃけ俺じゃなくて雷龍が考えた理由なんだけどな。雷龍も、そこの全棄者には興味があるらしい』


『……そういえば、雷精と相性が抜群によかったな』


『まあ、というわけで俺の加護をやるぜ。炎龍王ブレイズレイドの加護とスキルだ! 存分に使ってくれよ! あ、そこの妖精族にはこれ以上加護を与えらんねーからソウルを割り増しで与えておくぜ。……それから、今日渡したソウルだが、赤の明星たちはレベル上げに使うな。いずれ他の龍王も幾柱かお前たちに接触するはずだ。そいつらのスキルを覚えるために残しておきな』


「わかりました。……そういえば少し疑問に思ったことがあるんだけど、聞いてもいいか?」


『答えられるかはわからんが聞くだけならタダだぜ?』


「前に仲間が龍王は火だって言ってた気がするんだけど……」


『ああ、それな。火龍王もいるぞ。もっとも、アイツの役目はこの世界の環境維持が主だ。今回のようにイリーガルモンスターが発生した場合、そいつを倒しに行くのは俺の役目だな』


「ありがとう、疑問が解けたよ」


『そいつはよかった。俺みたいなイリーガルモンスター退治が専門なヤツも幾柱かいやがるし、環境維持が目的の連中もいる。そういった分担があって初めてこの世界は成り立っているのよな』


「大変なんですね、龍王様も」


『様って呼ばれるほどでもねぇけどな。そいじゃ、俺はこれで行くわ。がんばれよ、ニンゲン!』


 炎龍王は再び戦闘機のような姿に変わると音も立てずに大空へと飛び去った。

 一瞬で見えなくなるほどの高速だったのに、周囲に何の影響も出していないとはさすが龍王か。


「うわ……」


 龍王が飛び去った方向を見て感慨にふけっていると、アヤネの声が聞こえてきた。

 困惑したような声だったけどなにがあったのだろうか?


「アヤネ、なにかあったのか?」


「……ソウル、55億増えてる……」


 うわぁ……。

 炎龍王、大雑把過ぎないかな?

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