179.龍王VS.イリーガルモンスター
俺たちと黒い竜の間に割り込んだ、ストーンランナー、つまり地龍王はその身を盾にブレス攻撃から俺たちを救ってくれる。
あの黒いブレスを受ければ、そのダメージは決して低くはないだろう……そう思っていた。
実際、ストーンランナーの外層がどんどん剥がれていき、一番奥の竜燐に囲まれた部分まで姿を見せる。
しかし、地龍王が振り向いたのでわかったが、その竜燐には一切ダメージがなかった。
『……ふむ、想定以上にイリーガルモンスターの戦闘力が弱いな? 普通なら、いまのブレスでこの岩山の半分は砕け散るだろうに』
「そんな化け物なのですかにゃ、あの竜は……」
『戦闘中故、手短に話すぞ。アレは我々がイリーガルモンスターと呼んでいる存在だ』
「イリーガルモンスター?」
『そうだ。やつらは普通のモンスターと生まれる理由が違う。精霊の力がまったく通らない以上、ニンゲンたちに勝ち目はない。だからこそ、我々龍王が分体をつくって倒しに来ているのだが』
「……アレで弱いとか、私たちにとってはかなり絶望的なんですけど」
『ニンゲンの基準ではそうだろうな。我らの基準では、アレは赤子同然なのだが……ともかく、ヤツを仕留める』
地龍王は再び黒い竜に向き合うとその姿をストーンランナーから竜の姿へと変えた。
これが地龍王本来の姿……なのか?
どうにも違和感があるのだが。
「うーむ、マズい気がするにゃ」
「マズい気ってなによ、ネコ」
「いや、地龍王様とイリーガルモンスター? かにゃ? アレが全面衝突となれば……」
「この岩山が砕けるかも知れないな」
「ちょっ!? その可能性に気がついているのになんでそんなに落ち着いてるのよ!?」
「地龍王は逃げろとも言ってなかったし、なんとかしてくれるんじゃないかな? 戦闘中は」
「そうですね。それにあれだけ恐ろしかった黒い竜のプレッシャーがいまはほとんど感じられません。地龍王の力がそれほど強いのでしょう」
「そうでしょうけど……まあ、いまから一気に下山しても危ないか」
「ですにゃ。ここは覚悟を決めますにゃ」
「そうそう。いまはあの怪獣大決戦がどうなるか見物しようぜ」
「……ほんと気楽よね」
「それくらいの余裕がないとやってられませんよ」
「……それもそうか。警戒はおこたらずに様子をうかがいましょう」
「それがいいですにゃ。流れ弾が飛んでこないとも限りませんからにゃ」
「それの流れ弾ってドンだけよ……」
「まあまあ。その辺にも注意しましょう」
「そうね。危険と隣り合わせはいつもの事ね」
「そういうことだ。……始まるぞ」
様子をうかがっていた黒い竜だったが、しびれを切らしたのか地龍王に体当たりを仕掛けてきた。
地龍王は数メートルほど後ろに下がったが、問題なく受け止め、そのまま黒い竜の翼へと噛みつき、引きちぎってしまう。
そして、辺りには黒い竜の悲鳴のようなかん高い音が木魂する。
だが、地龍王から距離をとった黒い竜の背中にはまるで何事もなかったかのように、翼が生えていた。
「にゃ!? 効いてないのかにゃ!?」
「うーん、まったくわからないな」
「フートさんでもですか?」
「あれ、まったく別次元の生き物? とでも呼べる存在なんだよ。だから、この世界の物差しじゃ測りようがない」
「……じれったいけど、私たちの攻撃じゃまったくダメージを与えられないどころか足手まといだものね」
「そういうことだ。大人しく、ここから様子をうかがっていよう」
などと、俺たちが話し合っていることもお構いなく、地龍王と黒い竜は再度ぶつかる。
今度は黒い竜が地龍王に噛みつこうとしたが、それを察知した地龍王が黒い竜の頭部を下からわしづかみにした。
さらに、喉元から背中側に向けてブレスを発射、黒い竜の頭部は切り離されて黒いもやへと変わり地上へと落下を始めたのだが……。
「やった!?」
「やってないだろうなぁ」
「フート殿の意見に賛成にゃ。ほら」
「ああ、首から先が再生してる!?」
「生き物ですらないんですね……」
「アレを俺たちで相手するのは無理だわ……」
その後の怪獣大決戦も終始地龍王が有利なペースで進むのだが、あと一歩決め手がない。
大地の槍で串刺しにしても少しの時間ですり抜けてしまいあまり意味はなく、大地の刃で切り裂いてもすぐに再生する。
一度、高威力のブレスを放ったのだが、それすらもほとんど無効化していた。
このまま行けば、地龍王がその力を使い果たして負けそう……と考えたのだが、あれもまた地龍王の分体に過ぎない。
つまり、本体から力を供給されているわけで……この怪獣大決戦には終わりが見えないということになってしまう。
「ねえ、フート。これっていつ頃終わると思う?」
「はっきり言って見当もつかないな。地龍王は本体からエネルギーを供給されているだろうし、黒い竜はどの程度のダメージが入っているかわからないしで。そもそも討伐できるのか、あの黒い竜?」
「そうなんですよにゃあ。この戦い、一週間以上続いてもおかしくないですからにゃ」
「気が長い話ですね」
「地龍王様から考えれば、一日も一週間も大差ないとお考えのはずにゃ。吾輩たちとは尺度が違いますからにゃ」
「早いところケリをつけてほしいところなんだが……簡単にはいかないか」
そのあとも、地龍王と黒い竜の削りあいは続き、戦闘開始から3時間ほど経過した。
俺たちは、うかつに動くとどうなるかわからないので、ひたすら息を潜めて待機していたのだが……その努力を一瞬で無駄にする出来事が起こった。
遠くで竜の咆吼が聞こえたかと思えば、一瞬で赤い竜が飛来し小型のブレスみたいなものを周囲にばらまいて飛び去っていった。
俺たちは慌ててアヤネの背後に回り、アヤネは消炎の盾を使って俺たちをブレスから防いでくれた。
しかし、戦場は一面焼け野原……というか先ほどの火のブレスによる爆発により、小さなクレーターが無数にできていた。
『……まったく、炎龍はくるのが遅い上に大雑把だ』
「炎龍? ……まさか火龍王様ですかにゃ!?」
『否、炎龍王だ。今回のイリーガルモンスターは我らで見張っていたからな』
「地龍王、いまの爆撃でイリーガルモンスターとやらにダメージは?」
『それなり、といったところか。私との削りあいでかなりダメージは与えてあった。そこにブレスの雨が降り注いだのだからたまらんだろうよ』
「それで、これからどうするつもりなの?」
『我では攻撃力不足だからな。炎龍に焼いてもらう』
「それってどうやってですか?」
『ふむ、こうやってだ』
地龍王のセリフとともに、幾本もの岩の槍が突き出し黒い竜を突き刺していく。
その数はどんどん増えていき、黒い竜の体を上空高くまで運んでいった。
『この高さなら問題あるまい。焼き払え炎龍』
その言葉が通じているのか、再び龍の咆吼が聞こえ、今度は収束したブレスのようなものが黒い竜を貫通する。
数瞬遅れて大爆発……というか白い閃光となったブレスは黒い竜を焼き払い、岩の槍ごと消し去っていた。
『見事。イリーガルモンスターは消滅した』
『当然だろうよ、地龍。俺様が出張ってきてるんだぜ? 居場所と環境さえ揃えば問題なしよ!』
『その環境を整えるのが問題なのだがな……まあ、いい。少し紹介したいニンゲンがいるから降りてこい』
『お、地龍がニンゲンを紹介なんて珍しいな! よっしゃすぐ行くぜ!』
『お前の飛行は速すぎる。少し加減しろ』
『……あーそうだった。制約が多いぜ』
『不自由さを楽しむのもまた一興だ』
『はいはい。もうすぐつくぜ』
そして、空から現れたのは一匹の竜……ではなかった。
なんというか戦闘機のようなフォルムを持った存在、それが炎龍王らしい。
……戦闘機って高速で飛ぶのに理にかなった形をしてたんかなぁ?
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