182.検問所にて最後の会議

「……じゃあ、フレイディアのヤツが気が立っていたのはそのイリーガルモンスターとかいうヤツのせいなのか?」


 フレイディア……というかイリーガルモンスターの討伐を終えた翌日は休暇とスキル報告にあてた。

 その次の日から、車を使い再度検問所へと戻り、現在は再びギルドマスターやアレックスさんと会議となっている。


「それにしても、『炎龍王』ですか『火龍王』ではなく」


「炎龍王が別存在だと認めていたな。火龍王はこの世界の安定をつかさどり、炎龍王はイリーガルモンスターのように危険な存在を滅ぼすのが仕事、みたいなことも」


「で、お前のところには雷龍王がそのうち会いにきて、お前ら全員には人間がその存在を知らなかった樹龍王が会いにくるだろうって?」


「炎龍王の話を信じればそうなるわね」


「正直、スケールが大きすぎて困っちゃいますけど……」


「ミキ殿、スケールが大きい、なんてレベルじゃないのにゃ……」


「……この件は国王には報告いたしますが、重鎮以外には秘密ですね」


「だな。というか、存在が知られている七龍王以外に龍王が存在しているとか笑えんぞ」


「……気持ちはわかるけど事実っぽいからなぁ」


「そうですにゃ。諦めて受け入れるにゃ」


「受け入れるさ。受け入れても拒絶しちまうんだよ」


「それにイリーガルモンスターですか。我々には対処しようのない存在がいるというのも気になります」


「ああ。そこんとこどうだったんだ、実際に対峙してみて」


「うーん、まず魔法は完全に無効化されたな。精霊を遮断するバリアというかなんというか……そのようなものを全身にまとっている感じだった。精霊の助力を得て使う魔法は少なくとも全滅だ」


「物理攻撃も効きませんでした。近づくのは危険と判断したので長距離から攻撃できるスキルを使いましたが……なんというか、霧を殴ったような感覚です。実際、相手の体に穴は開きましたがすぐに塞がりました」


「攻撃を防御するのもダメね。覚悟を決めてブレスを受け止めようとしたけど……実際に受け止めていたらどうなったか想像できないわ。なんとなくの予感だけど、防ぎきれずにヤツの一部として取り込まれた気がするのよ」


「魔法もダメ、殴るのもダメ、防御もダメ、か。完全に詰みだな」


「そんなモンスターが人里近くに現れたら……」


「多分、そんなことにはならないと思うんだよなぁ」


「ほう。フートよ、その根拠は?」


「人里近くに出現しそうだったら、龍王が感知して幼体? になる前に滅ぼす気がするんだ。実際、樹龍王は人里を転々としていると聞いたし」


「うーむ……フートの勘はバカにできないからなぁ」


「しかし、現れてしまったら対処できないのも事実ですしね……」


「むしろ、対処しようと騎士団とかが突っ込んだら取り込まれて強化してしまいそうで怖い」


「……龍王任せってことか」


「そうですね。ですが、いままでそういった被害を確認したという報告は一度もありません」


「龍王がすべて封殺しているってことかね。……そもそもイリーガルモンスターってのはなんなのかってのも俺たちにはわからんしな」


「……そういえば聞き忘れたにゃ」


「そうね。というか、フートもネコも聞かないなんて珍しいこともあるわね」


「私もいま気がつきましたが……聞かなかったですよね、そういえば」


「……龍王たちが干渉していたのかもな。俺たちがイリーガルモンスターについて聞かないように」


「その理由はなんにゃ?」


「イリーガルモンスターってのは、認知されることで発生しやすくなるとか、だったら?」


「ふむ……確かに一理あるにゃ。吾輩たちが戦う事になったのも偶然の積み重ねだにゃ」


「それにしても、地龍王はなんで5年もかけてアレを見つけられなかったのかしらね?」


「卵の状態だったためだと思うにゃ。おそらく、普段は母竜の胎内にいたんだと思いますにゃ」


「いよいよ母竜を取り込んで孵化、って段階で俺たちが割り込んだのか」


「ちょっとできすぎなタイミングですよね」


「いや、フレイディア一匹を取り込んでも幼体だったことを考えると、数匹は取り込む予定だったんじゃないか?」


「その辺の仮定はやめとこうぜ。でだ、今回炎龍王から授かったスキルはなんだったんだ?」


「俺は【炎属性魔法】と【炎龍王の鱗粉】だ。【炎属性魔法】は火属性魔法に比べて破壊力と殲滅力が桁違いに上がってる。【炎龍王の鱗粉】は自分の周囲にキラキラ輝く粉を呼び出してそれを爆発させるスキルだな。主にカウンター用だから使う機会は少ないと思う」


「私は【炎龍王の炎爪】と【炎龍王の剛炎】でした。炎爪は岩でもスパスパ切れちゃうぐらいの高熱をまとった攻撃ができるようになります。剛炎は全部のステータスが上がるブースト技ですね」


「私の方は【炎龍王の爆炎】と【炎龍王の剛炎】ね。剛炎はミキと一緒だから置いておいて、爆炎は自分の前方を広く爆破させる技よ。防御主体の私にとっては珍しく能動的な攻撃技ね」


「お三方はほかに加護として【炎龍王の魂】【炎熱無効】を得ていますにゃ。吾輩が得たスキルは【炎塵の爆裂】ですにゃ。効果は剣で切り裂いた相手に熱傷を与えていき、いずれ爆発させるスキルですにゃ」


「……またエグいスキルを覚えてきやがったな。で、【炎属性魔法】とやらは確認させてもらえるのか?」


「うーん、難しい、というか、荒野の方まで出ればなんとか」


「修練場じゃダメか?」


「修練場だと周りの建物を破壊する」


「……それって破壊力ありすぎじゃねぇか?」


「俺も使いどころに困ってるんだよ。レベル7まで存在するらしいけど、それなんて都市ひとつ、砦ひとつを消し去るような魔法だし」


「……よし、これからすぐに確かめに行くぞ」


「ですね。どれだけの威力なのか確認しないといけません」


「わかった。それじゃ、行こうか」


 というわけで荒野の方へと出発し、誰も周囲にいないことを確認してからレベル1の魔法を発動させる。

 すると、レベル1の魔法であるのに、イフリート・アーム以上の破壊力を持った爆発が、荒野の一部を吹き飛ばした。

 ……うん、このスキルどこで使おうか?


「……レベル1でこれか?」


「そうなんだよなぁ。レベル2だともっと地形が変わる」


「これだけの威力と攻撃範囲があると単体魔法というより、広範囲殲滅魔法ですね」


「ですにゃ。なので、この魔法の存在については極秘事項にゃ」


「だなぁ。フートひとりで本当に国を相手できるようになっちまった」


「いままででも十分だったと思うのですが……龍王はなにを考えていらっしゃるのでしょう?」


「アグニの討伐には必要だと考えているみたいにゃ。ちなみに、フート殿が使えるのはまだレベル3までにゃ」


「アグニ、それほどまでの脅威ですか」


「龍王たちが知っている情報と俺たちが知っている情報、このふたつがかなり食い違っているみたいなんだ」


「そうね。龍王の言葉を信じれば、アグニはレベル400らしいし……」


「そんなバケモンに勝てるのかよ……」


「だからこそ、龍王たちは私たちにいろいろスキルをくれているんだと思いたいのですが……」


「そこのところも怪しいのですよにゃあ」


「ともかく、状況はわかった。お前たちはこれから都に戻るのか?」


「その予定ですにゃ。予定よりも数週間ほど早いですが、遅れるよりはマシですにゃ。今更、ここのザコでレベル上げというのも時間がかかりすぎますし、アヤネ殿に発情期特有の興奮状態が見られますのにゃ」


「そりゃ急いだ方がいいかもしれないな。一応、発情期の興奮状態を抑える薬が無いわけでもないが……」


「本当!?」


「使わねぇ方がいいぞ? 一度飲むと数カ月は全身の倦怠感やら頭痛やら関節痛やらに悩まされるらしいからな」


「うっ……それは嫌だわ」


「それに、その薬は獣人国でしか製造されていません。我が国とは正式な国交もありませんし、入手は不可能かと」


「……諦めるしかないのね」


「まあ、諦めろ。悪いパートナーじゃねぇだろ」


「それが余計に問題なのよ……」


「ともかく、吾輩たちは帰るとしますにゃ。なにかご用はありますかにゃ?」


「……すみませんが、黒旗隊としてひとつお願いがあるのですが」


「ああ、前に話していたヤツか」


「なにかにゃ?」


「ここの魔物の効率的な倒し方を教えていただきたく……一応倒せてはいるのですが、全員生傷が絶えません。回復魔法のレベル上げにはいいのですが……士気に影響が出始めていて」


「それくらいならいいんじゃないか? どうする?」


「私は構わないわよ? 要するに一般的なスキルだけでここの魔物を倒すやり方を教えればいいんでしょ」


「私も構いません。最近は強敵とばかり戦ってきましたし、なにか新しい発見があるかも知れませんし」


「というわけでその依頼、引き受けますにゃ。ただ、数日しか時間は取れませんがにゃ」


「ええ、数日もあれば大丈夫です。助かります」


 そして、3日ほど黒旗隊の魔物退治に付き合うこととなった。

 最初は俺たち4人でお手本を見せ、そのやり方を軸に黒旗隊流にアレンジして試してもらう。

 さすがエリート騎士団だけあってすぐにものにしてしまうんだからすごい。


 そんな日々を過ごしてから、俺たちは検問所を出発、邦奈良の都へと帰ることになった。

 さて、邦奈良の都はどんな状況になっているんだろう。

 怖いような楽しみなような……。

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