167.対ハーミットホーン戦 2
「さて、30分経ちましたにゃ。準備の方はよろしいですかにゃ?」
「ああ、問題ない」
「バッチリよ」
「と、言っても、今日は直接戦闘なしなんですよね?」
「その予定だにゃ。でも、もしかしたらハーミットホーンが追いかけてくる可能性も考慮しなくちゃいけないにゃ」
「そのときは私の出番ね!」
「さっきからやたらはりきってるな、アヤネ?」
「どうにも最近不完全燃焼で終わってるからね。今度こそ全力でぶちかましたいわ!」
「……ああ、あの技か。反動も大きいんだから無理すんなよ?」
「もちろんよ! ゼファー、回復は任せたわ」
「オン!」
「では行きましょうかにゃ」
穴から這いずり出て、ハーミットホーンのねぐらへと移動する。
ねぐらまでは10分ほどでたどり着いた。
そして、そこにいたのは……。
「……羽の生えたツチノコね」
「それもコウモリの羽ですね」
「なんというかこう、ケツァルコアトルみたいなのを想像していたわ」
「私もです」
岩陰からハーミットホーンの様子を確認した女子2名が、なんだかげんなりした表情を浮かべている。
俺としてはあんな感じだろうなと思っていたんだが……?
「ああいう生態のモンスターですにゃ」
「で、どうするんだ。奴さん、寝ているみたいだが?」
「モンスターって寝るのね……」
「初めて見ました」
「睡眠を必要としないモンスターもいれば、魔力の回復や更新に眠りを必要とするモンスターもいますにゃ」
「更新?」
「食べた獲物を吸収して自分を強くすることですにゃ。吾輩たちがソウルパーチャスでやっていることと同じですにゃ」
「なるほど。で、最初の話に戻るがどうするんだ? さすがに寝ているとはいえ、一発じゃあの角は折れないと思うぞ?」
眠っているハーミットホーンの頭部から伸びている一本の角。
それは大樹のような太さがあった。
さすがに眠っているハーミットホーンに不意打ちをかけたとしても、あの角を一発で折る自信はない。
というか、折っても回収することができないという問題もある。
「寝ているところまでは予定通りですにゃ。ちなみにタイタンズクラッシュ、一回使ったら再チャージまでどれくらいかかりますかにゃ?」
「うーん、それなんだが……」
「なんだがにゃ?」
「2発までだったら連射できそうなんだ。一発当たりのチャージ時間は20秒ほど、ただし2回まで連射可能」
「……地龍王様の加護のおかげですかにゃ?」
「そうとしか考えられんだろう? 俺、土の魔法なんて滅多に使ってないぞ?」
「うーん、悩みどころですにゃ。一発寝てるところに打ち込んでもらうか、防御壁を作ってもらった後に2連発でたたき込んでもらうかにゃ……」
「俺としては2連発を推奨だな」
「どうしてにゃ?」
「寝てるところに一発撃ち込んで折れたら、誰があの角を回収に行くんだ?」
「……その問題がありましたにゃ」
「意外と抜けてるわね、ネコ」
結局、強めの魔法を一発たたき込んで起こし、それから突撃を誘発させることとなった。
リオンいわく、寝ているところをたたき起こせば問答無用で突撃してくる、らしいが。
「さて。それじゃ、いくか。久しぶりの、マキナ・トリガー!」
「GUGYAOOO!?」
「うん、よかった。雷耐性や無効化はないんだな」
「いや、土以外は全魔法耐性があったはずにゃ。それをぶち破っただけにゃ」
寝ているハーミットホーンの片眼を狙い、そのまま脳までたたき込むようなマキナ・トリガーはさぞ効いただろう。
少なくとも目覚めの一撃にはなったはずだ。
「GYURURURU……」
「ふむ、脳みそにまでマキナ・トリガーが到達しているはずなんだがなぁ?」
「モンスターに常識は通じませんにゃ。……ただ、片眼はほとんど潰れたようですにゃ」
マキナ・トリガーを貫通させた向かって左側の目は白く変色していた。
あれ、高圧電力で焼けたんじゃないかな?
「さて、意識がこちらに向いてる間にフラッシュバンいきますにゃ! 皆さん、目を守ってくださいにゃ!」
リオンが懐から手榴弾のようなものを取り出し、ピンを抜いてハーミットホーンに向かい投げつける。
全員が目を守る姿勢をとって数瞬後、すさまじい閃光が部屋の中で炸裂した。
……ほとんどのモンスターって、これを受けても平然としているのか。
「よっし! フラッシュバンも成功ですにゃ!」
「ここからどうするの、ネコ」
「まあ、すぐにわかりますにゃ」
ほとんど視界を奪われたであろうハーミットホーンはねぐらの天井付近まで舞い上がり、こちらにその角を向けてきた。
ああ、なるほど、確かにわかった。
「じゃあ、俺の出番だな」
「突進開始後に防御壁を作れますかにゃ?」
「難しいことを言ってくれるが……なんとかしてみせるさ」
そうこうしている間にも、あっちは準備が整ったみたいで……。
一気に突っ込んで来た!
あれ、音速の壁、超えてるよな?
「さて、多重起動、ロックウォール!!」
可能な限りの枚数を目の前に防御壁として作り上げる。
そして、その岩の壁にものすごい音を立てて何か、つまりハーミットホーンがぶつかり……その勢いが止まったのがわかった。
「……何枚くらいの壁を作ったのですかにゃ?」
「俺もよくわからん。多分、20は超えてるが……」
「そんなことより角を折らないと!」
「そうだな。……タイタンズクラッシュ!」
見ることはできないが、岩の壁を通してどの辺に突き刺さっているかはわかる。
その、頭部と角の根本付近に向け、タイタンズクラッシュをたたき込んだ。
すると、メキメキと鈍い音を立てて角が折れていく。
タイタンズクラッシュの効果はまだ続いており、やがて……。
「GUGYAAAAA!!」
何かが折れるかん高い音と、ハーミットホーンの叫び声で角が完全に折れたことがわかった。
「案外、簡単に折れるものだな」
「普通はこの作業に一週間以上費やすのですがにゃ」
「ふたりとも、のんびりしてないで角を持ってとんずらよ!」
「はっ、そうですにゃ! フート殿、回収よろしくですにゃ!」
「わかった!」
ロックウォールを解除すると、立派な角と痛みにもだえるハーミットホーンが転がっていた。
俺は素早く角に近づき、アイテムボックスに角を収納する。
問題なく角は収納され、今日のミッションは無事終了だ。
後は逃げ帰るだけだが……。
「GYAO!」
「うわっと!!」
いつの間にか復帰していたハーミットホーンが俺に向かってかみつこうとしてきた。
ギリギリ躱したが、俺の素早さじゃやっぱりきつい!
そう思っていると、誰かに担ぎ上げられた。
「フートさん、少し苦しいかも知れませんが我慢してくださいね!」
「ミキか!! 助かった!」
どうやらミキが助けに入ってくれたらしい。
ハーミットホーンも突然敵が消えたので辺りを見回していた。
「よくやってくれたにゃ、ふたりとも! さあ、撤収ですにゃよ!」
「オーケー! しんがりは私が務めるわ!」
「お願いしにゃす! フート殿、ねぐらを出たら入り口に可能な限りのロックウォールで蓋を!」
「わかった!」
俺はミキに担がれたままねぐらを脱出する。
最後尾のアヤネとゼファーまで脱出したのを確認したら、ロックウォールを全力で使い道に蓋をした。
「ちなみに、あれはどのくらいの硬度なのにゃ?」
「さあな? 簡単には壊されないと思うが」
「ともかく、離脱してキャンプに戻ればこちらの勝ちですにゃ! さあ、いきますにゃよ!」
道の途中途中、何回か蓋をしてねぐらの洞窟を脱出、そのまま車に乗り換えて帰路についた。
無事キャンプまで帰って来られたから今日のところは俺たちの勝ち、なのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます