166.対ハーミットホーン戦 1

「さーて、出発しますにゃよー」


 ハーミットホーンの情報をもらった翌日は次のキャンプ地まで移動。

 そこは、もう少しで砂漠地帯という場所にある湖のほとりだった。

 窪地にあって、その場所全体が結界具で守られているので安全らしい。

 で、その日はそこで泊まり、翌日、夕方過ぎである。

 夜間の戦闘になるということで、昼間のうちに休息はとっておいた。


「それで、ハーミットホーンのねぐらってどこにあるんだ?」


「ここからですと砂漠の端を10㎞ほど移動したところですかにゃ。薄暗いですが、光るコケが全体に生えているので視界は良好なはずですにゃ」


「わかりました。時間的には車で走って行けば間に合いますか?」


「大丈夫ですにゃ。ハーミットホーンがねぐらに戻り始めるまで、あと数時間はありますからにゃ」


「ハーミットホーンって夜にならないと戻らないの?」


「通常はそうですにゃ。……さて、いきますにゃ」


 砂漠の外縁部をリオンの車で移動する。

 そこから見える夕日は、かなりきれいで一瞬見とれてしまう。

 そんな夕焼け空の中に、一瞬だけ地中から飛び出した何かが見えた。


「見えましたかにゃ? あれがハーミットホーンの狩りの仕方にゃ」


「……真下からの突き上げね。あれは私でも対処不能だわ」


「しかも誰を狙ってくるか、どのタイミングでくるかわからないのが厄介ですにゃ」


「砂の動く音とかはしないんですか?」


「それもしないにゃ。だからこその【礫砂の隠者】なのにゃ」


「そんなのと真面目に戦いたくはないわな」


「はいですにゃ。一応、真正面から戦う方法もあるのですが……吾輩たちにはねぐらを襲う方が楽ですにゃ」


「楽なのはいいことだ。……実戦経験も積みたいところだが」


「それは明日以降でも積めますにゃ。……まあ、ストーンランナーよりはるかに格下ですがにゃ」


「張り合い甲斐がないのね」


「角をへし折ってしまえばそんなものですにゃ。角による突撃はそれほどまでに恐ろしいものなんですにゃ」


「わかった、ともかくねぐらに先回りしようか」


「はいですにゃ」


 その後も車は順調に進み、やがて大きな洞窟の前にたどり着いた。

 洞窟の入り口は縦横どちらも幅数百メートル以上あると思わせるくらい大きく、巨大なモンスターでも十分に棲み着くことができそうである。


「ここがねぐらの入り口にゃ。ハーミットホーンのねぐらの入り口はわかっているだけで3カ所ありますにゃ。キャンプから一番近いのがここですにゃ」


「ふーん、じゃあ、ここでのんびりしていたらハーミットホーンと鉢合わせ?」


「いえ、その可能性は低いですにゃ。ハーミットホーンを見かけた位置から推測すると、別の出入り口を使っているはずですにゃ」


「とりあえず出会い頭の戦闘になりそうにないのはよかったです」


「洞窟内は不安定で車では走れないので歩きですにゃ。いきますにゃ」


「わかった。順番は?」


「吾輩が先頭で案内しますにゃ。それで、最後尾は鼻がきくテラとゼファーにお願いしたいのにゃ。ここには多少魔物が棲み着いていますからにゃ」


「魔物? モンスターの住処に?」


「ハーミットホーンの行動範囲は限定的ですからにゃ。そこに踏み込まなければ割と安全な居住地なんですにゃ」


「そんなものか。ともかく、2匹とも、後方は任せたぞ」


「「ワフン」」


「いい返事ですにゃ。さあ、先に進みますにゃ」


 洞窟内はそれほど入り組んではいなかった。

 ときどき分岐はあるのだが、小さな小部屋に続く道、といった感じでハーミットホーンにはまったく関係ない分岐だとわかる。

 しばらく歩いて行くと、大広間のような開けた場所に出た。


「ここがヤツのねぐら?」


「いえ、ここの奥がヤツのねぐらですにゃ。ここは、一言で言ってしまえば、階段の踊り場のような場所ですにゃ」


「よくわからない例えね」


「まあ、広い場所とだけ覚えておいてくださいにゃ。明日以降はここでの戦闘がメインになるはずですにゃ」


「わかったわ。それで、私たちはどこに隠れていればいいのかしら?」


「それは……こっちですにゃ」


 リオンが移動した先には人ひとりが通れる程度の穴が空いていた。

 這って入らなければならないから、危機回避には使えないな。


「ここが休憩ポイントになってますのにゃ」


「……中は結構生活感があるんですね」


「ハーミットホーンの監視をするハンターがここで寝泊まりをしますからにゃ。奥には水洗トイレやシャワーも設置されているはずにゃ」


「洞窟内なのに至れり尽くせりだな」


「結界具で守られていますからにゃ。それにここの岩盤は非常に強固な材質でできているとか。発見したときにはある程度形が整っていたので不思議がられていたそうですにゃ」


「……ハンターたち以前に誰かが使っていた?」


「その説が有力ですにゃ。ただ、一体誰が、どんな目的で使っていたかはまったくわからないそうですにゃ」


「だろうな。俺だってわからん」


「そういうことなので、危険性がないかを一通り調べ終えた後にハンター用の休憩ポイントにしたそうですにゃ」


「まさしく、使えるものはなんでも使え、だな」


「ハンターは強くたくましく図太くですにゃ」


「やれやれ……」


「ともかく、後はハーミットホーンが帰ってくるのを待つだけですにゃ。それまではゆっくりしましょうにゃ」


「そうだな、緊張しっぱなしってのもよくないか」


「その辺の切り替えは皆さんならもうできますにゃ」


「じゃあ、少し気を抜きましょうか」


「でも、ハーミットホーンが帰ってきてわかるんですか?」


「ハーミットホーンは洞窟内を飛んで帰って来ますにゃ、そのとき……」


 リオンが説明しようとしたとき、キィーンっとかん高い音が小部屋の外から聞こえてきた。

 耳のいいテラとゼファーはうずくまってしまっている。


「……とまあ、こんな感じの音がしますにゃ」


「つまり帰ってきたと」


「そのようですにゃ。あと30分くらいしたら襲撃をかけますにゃ」


「すぐじゃないんだな」


「帰ってきてすぐは警戒していますにゃ。自分のねぐらに侵入した魔物がいないかなどを調べるために、ですにゃ」


「なるほど。その警戒を解いたところを襲うと」


「正確には警戒されているとフラッシュバンが躱される可能性があるので嫌なだけですがにゃ」


「理由には十分だ。それじゃ、30分後に行動開始だ」


 全員が承諾の返事をして準備を始める。

 さあ、ハーミットホーンはどんなモンスターなんだろうな?

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