ハーミットホーン討伐戦

165.赤の明星たちの考察とハーミットホーンの情報

 検問所からいつものキャンプ地に戻ったところで夜を迎える。

 夜間の移動はあまりしたくない、ということで今日はここまでだ。


「とりあえず、お風呂と食事にしますにゃ。その後、【礫砂の隠者】ハーミットホーンについて説明しますのにゃ」


「わかった。ふたりもそれで構わないよな?」


「むしろそうしてもらえると助かるわ。ほぼ移動しかしてないとはいえ、結構疲れたから」


「私もです。車に長時間乗り続けるだけ、っていうのもきついものですね」


「そうでしょうにゃあ。吾輩も疲れましたから」


「じゃあ、いったん解散だな。それじゃあ、また後で」


 ハウスを出したら、思い思いに行動を始める。

 お風呂は料理担当のミキが初めに入るようだ。

 俺は最後でもいい、リオンにそのことを伝えて自室に戻る。

 そして、今日得た情報を整理してみることにした。


「ハーミットホーンについては、リオンが説明してくれるだろうからそれ待ちだな。問題はサジウス領の連中か……」


 死んでいたという騎士たちと行方がわからない赤の明星2名。

 普通に魔物に襲われ、赤の明星が他の騎士を囮に逃げ出したとかなら……それはそれで問題だけども、話はまとまる。

 だが、もしそうでないとすれば……。


「教会の連中が手を貸した? なんのため……っていうのは前にリオンが言っていたか」


 教会も元を正せば赤の明星が始まりである、とされているらしい。

 そのために教会勢力は赤の明星が現れれば、数人程度は確保したいと考えているともあのあとリオンが言っていた。

 だが、今回は世界中で赤の明星を誰ひとりとして教会で確保することができなかったらしい。

 そんなことを知っているリオンも大概だが……ともかく、リオンいわく教会は赤の明星がほしいとのこと。

 では、あの問題児ふたりであったとしてもほしがっているとすれば?


「騎士たちを暗殺して赤の明星を連れ出した、もしくは連れ去った……か」


 こちらの方がしっくりくる気がする。

 あの問題児たちには礫岩の荒野で戦えるだけの力はないはず。

 俺たちだってソウルパーチャスの力がなければ怪しいところだ。

 それなのに、あいつらの痕跡が見つからないというのであれば、誰かが連れ出したという方が正しいだろう。

 リオンやギルドマスターの話を聞く限り、それをしそうなのは教会勢力ぐらいなのだ。

 那由他の国で俺は、サジウス領の一件と公爵の反乱を鎮めたことにより一部の貴族階級で恐怖の対象にされているらしい。

 それに対抗するためにあのふたりを取り込もうとする、なんてこともあるかも知れないが、現実的には誰もやらないだろう。

 サジウス領の一件で、あのふたりはまだ成長途中だった俺たちにかなわなかったのだから。

 それがいまでは対軍魔法を気軽に扱えるひとり戦略兵器になった俺と、どの程度成長しているのかわからないふたり。

 あのふたりを取り込むのはかなり危険なギャンブルというものだ。

 サジウス領でのあいつらの態度も知れ渡っているし。

 そう考えると……。


「フート殿、お風呂空いたにゃ~」


「ああ、わかった」


 考え事はこれで中止だな。

 とりあえず、あの赤の明星2名については黒旗隊という騎士団たちに任せよう。

 さて、お風呂に入って食事を済ませればリオン先生によるハーミットホーンの解説だ。


「次の獲物【礫砂の隠者】ハーミットホーンですがにゃ。まともに戦えば全滅は避けられませんにゃ」


「……ちょっと、それじゃ意味がないじゃないの、ネコ」


「まあまあ、話を聞くにゃ。ハーミットホーンの生態は砂漠地帯の砂の中に潜み、近くを獲物が通りかかったら襲いかかるというものにゃ。それ故に、まともにやったら勝てないのにゃ」


「まともにやったら、ということはまともにはやらないんですね?」


「正解ですにゃ、ミキ殿。ヤツは日中そうやって狩りをしますが、夜になるとねぐらに戻って来ますにゃ。そこで戦闘を仕掛けますにゃ」


「……それってどう違うのよ?」


「まず、先手をとられないことが大事ですにゃ。それにヤツのねぐらは洞窟の中、飛び回ることができないので機動力もそがれますにゃ」


「そういえば竜を狩るんだったな」


「はいですにゃ。……まあ、あれは竜に数えられていますが、竜っぽくはないですにゃが」


「ん? どういう意味よ」


「ヤツは頭に一本の巨大な角を持ってますにゃ。そして頭部と体は蛇、それにコウモリのような翼をつけたのがハーミットホーンですにゃ」


「……また、謎生物ね」


「モンスターなんて大概そうにゃ。気をつけるのは角による突撃、これが一番危険ですにゃ」


「さすがに私の堅牢なら防ぎきれるんじゃない?」


「いまのアヤネ殿のステータスを確認させていただきましにゃが、それでもまだ怪しいですにゃ。堅牢は一回限りの緊急手段、と割り切った方が安全ですにゃ」


「……それ、どうやって防げばいいのよ?」


「ヤツの角を折る、それが第一目標にして最大目標ですにゃ」


「しかし、いまの話を聞く限り、そんな簡単に折れるものでもなさそうなんだが」


「はいですにゃ。恐ろしいまでの硬さを秘めてますにゃ。その欠片があればそれだけで超一級の槍ができるほどですにゃ」


「……それ、私たちで折れるの?」


「そこでフート殿の出番ですにゃ」


「……俺?」


「はいですにゃ。戦闘が始まったらすぐに吾輩がフラッシュバンを投げますにゃ。そうすればヤツの視力を奪えますにゃ」


「フラッシュバンって……閃光手榴弾?」


「ですにゃ。元を正せば赤の明星製だそうだにゃ」


「そんな技術まで輸入してたのね……」


「そういうものがあるのでしたら、いままでなんで使わなかったんです、リオンさん?」


「モンスターにはあまり効かないのにゃよ。低レベルモンスターで実験したことはあるのにゃが、目の前で爆発してるのに視力を奪えてないというのが多々あって、モンスター狩りには不向き……というか魔物狩りには不向きとされてきたにゃ」


「ああ、自分たちの視界も遮るからか」


「そういうことですにゃ。ただ、ハーミットホーンがねぐらにいるときは有効だというのは、長年の経験による資料の蓄積からわかっている事実ですにゃ」


「それで、視界を奪ってどうするの?」


「視界を奪うと、ヤツは別の手段で吾輩たちを見つけるようになりますにゃ」


「えーと、蛇だからピット器官とかでしょうか?」


「吾輩も詳しいことはよくわからないにゃ。ともかく、視界を奪えば吾輩たちに向けて角で串刺しにしようと突っ込んでくるはずですにゃ」


「ふむ、それを私がシールドバッシュではじけばいいのね!」


「いや、今回はもっと安全な手段を使いますにゃ」


「あら、私の出番はなし?」


「角を折ったら出番が回ってきますにゃ。フート殿、全力のロックウォール、何重までいけますかにゃ?」


「密度を上げて瞬時発動でだよな。うーん、試してみないとだが10数枚はいけるんじゃないかな」


「十分ですにゃ。角をロックウォールに突き刺してしまい、土のレベル7魔法の……」


「タイタンズクラッシュ」


「そう、それですにゃ。それで一気にへし折ってしまうのですにゃ!」


「……そんな簡単にいくかねぇ?」


「いきますにゃ。ヤツは土属性の魔法に滅法弱いですからにゃ」


「まあ、一発で折れなかったら他の魔法も試せばいいか」


「少なくとも深刻なヒビは入るはずですにゃ。そこまでいけば、後は全員で全力攻撃して折ることが可能なはずですにゃ!」


「わかったわよ。それで、角を折ったら直接戦闘開始なわけね?」


「いえ、角を折ったら折った角をアイテムボックスに格納して撤退ですにゃ。これが一日目の戦闘ですにゃ」


「……それ、すっごく消化不良になりそうなんですけど」


「まあ、聞くにゃ。ヤツは角を折られると、角を修復しようとし始めますにゃ。もっとも、角の完全な修復には数年かかるのですがにゃ」


「それと角を持って帰るのとどう関係があるのでしょう?」


「折った角がその場に残っていると、それを使って即座に修復されてしまいますにゃ。なので一日目は角を折って持ち帰る、これだけを念頭に置いて行動するのにゃ」


「わかったわよ。二日目以降は?」


「普通に戦いますにゃ。ただ、空を飛び回ってなかなか降りてこない、攻撃もしてこない、この状況が予想されますので、フート殿には早めに翼を破壊してもらって飛べなくしてもらいたいのにゃ」


「了解。ちなみにテラとゼファーの配置は?」


「テラはフート殿と一緒に攻撃ですにゃ。その分回復が手薄になると思いますので、ゼファーは回復に専念してほしいのにゃ」


「わかった。聞いたな、2匹とも」


「「オゥン!」」


「いい返事ですにゃ。さて、今日はゆっくり休みましょうにゃ。明日も一日移動して次のキャンプ地へ向かいますにゃ。そうしたら、その次の日の夜からハーミットホーン狩り開始ですにゃ!」

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