158.ストーンランナー戦 4

「ソウルが増えてるのかにゃ?」


「はい、いまなんとなく見てみたら少しだけ増えていました」


 ミキがそんなことを言い出したため、アヤネと俺もソウル量を確認してみる。

 すると、確かに昨日までのソウル量よりも増えていた。

 ……いままでの稼ぎに比べれば微妙な値だけど。


「俺も増えているな。わずかだけど」


「私もね。言われなければ気づかなかったかもだけど」


「ふーむ……過去、ストーンランナーの外殻に傷を入れた程度でソウルを手に入れた、なんて話は聞いたことがないのですがにゃ……」


「だが、実際に手に入ってるぞ?」


「そうなんですよにゃぁ。あの個体、どうにも謎が多すぎますにゃ」


「そうですね。それで、明日からの予定は変更しますか?」


「そちらは変更なしにゃ。2時間ほど戦って1時間休む、これを繰り返してなんとか討伐を目指すのにゃ」


「わかったわ。……さて、それじゃ寝ましょうか」


「そうですね。結構疲れましたし」


「俺は肉体的には疲れてないが体が怠いな……」


「あんなスキルを使い続けていれば当然ですにゃ。フート殿の体調次第では明日の狩りは中止にゃ」


「……なんかスマン」


「気にしないでください。知らなかったことですし」


「そうね。むしろ、このタイミングで気がつけてよかったわよ」


「そう言うことですにゃ。……さて、部屋に引き上げますかにゃ」


 話し合いも終わり、各自自室に戻りゆっくり寝ることに。

 幸い、翌朝には俺の体の怠さもなくなり、いつも通りに動けるようになっていた。

 ハウスを出て体の調子を確認していると、リオンがやってきた。


「……その調子でしたら大丈夫そうですにゃ」


「だなぁ。で、作戦は考えてあるのかリオン?」


「ですにゃ。まず、一層目はサクッと10分くらいで壊してしまいたいですにゃ」


「……いままでの半分くらいの時間だが大丈夫か?」


「うーん、最初はフート殿に無理をしてもらいますにゃ」


「それくらいなら構わないけど……どうすればいい?」


「昨日、【精霊集中力上昇】使用中はレベル5以下ならほぼノータイムで撃てると言ってましたにゃ。あれは本当ですにゃ?」


「ああ。なんならいまやってもいいぞ」


「そこまでしなくても大丈夫ですにゃ。戦闘開始と同時にスキルを使ってもらって、レベル5の火魔法と水魔法を連発してほしいのにゃ」


「なるほど、それで一気に脆くすると」


「そうにゃ。十分に脆くなったら吾輩とミキ殿で砕きますにゃ」


「了解だ。一層目が崩れたら、イフリート・アームとアイスコフィンを撃ち込んでからクールタイムに入らせてもらうよ」


「お願いするにゃ。問題はここから先が長丁場になることなのにゃが……」


「そうだな。昨日は4時間戦い続けてようやく半分壊せた程度だったものな」


「はいですにゃ。ですが、気持ちが焦ってしまえば命取りになりかねませんし……難しい線引きですにゃぁ」


「まあ、なんとかなるだろう。それよりも朝食の準備ができたようだぞ」


 ハウスの方からミキが手を振っていた。

 俺たちを呼びに来たんだろう。


「……どちらにしても、今日はお試しですかにゃ」


「だな。何回戦えてどの程度破壊できるのか確かめてみないと」


「雑魚を倒してレベル上げをしなおしてもダメでしょうし、ミキ殿に例の一撃必殺スキルを覚えてもらってもダメでしょうからにゃあ」


「なんとも難しい話だ」


「ままならないにゃ」


 このあと朝食で今日の予定を話し、予定を確認したらキャンプ地から出発。

 ストーンランナー捜しと行くわけ……だと思っていたのだが、ヤツは昨日と同じ場所で待ち構えていた。

 破壊した岩は……うん、しっかりと再生しているな。


『来たか、ニンゲン。さあ、楽しもう』


「命をかけた戦いを楽しむとは変わったモンスターだにゃ!」


『我々モンスターにとっては戦いとは最大の楽しみ。それも自分と互角に渡り合えるものたちであるならばなおさらな』


「……なるほど、逃げ出すモンスターが少ないわけだ」


『さて、いままでは先手を譲ってやっていたのだが、そちらの攻撃力は概ね把握できた。次は防御力を試させてもらおう』


「ッ!! 来ますッ!!」


 ストーンランナーが一気に駆け出し、俺たちに向けて体当たりを仕掛けてきた。

 体当たりと言っても、並みの自動車なんかよりははるかに速い訳で……。

 ミキとリオンは余裕で躱し、俺はかなりギリギリ、アヤネは様子を見てから躱したのかな?

 俺たちの間を通り過ぎていったストーンランナーは、途中で向き直り先ほどよりも速い速度で突撃をしてきた。

 今度もミキとリオンは回避を選択したようだが、アヤネは違った。

 どうやら、真っ正面から受けて立つようである。


「フート、支援魔法!」


「了解!」


 ありったけの防御系支援魔法をアヤネにかけ、防御力を高める。

 アヤネの方も突撃してくるストーンランナーに臆することなく、睨み付けるように待ち構えていた。

 そして接触の直前、アヤネがスキルを発動させる!


「シールドバッシュ・爆!」


『ぬぅッ!」


 アヤネの盾が一瞬光りそこにストーンランナーが激突した結果、すさまじい爆発がストーンランナーを襲った。

 これによって、ストーンランナーの第一層の岩は派手に罅が入っており、すぐにでも壊せそうだが……アヤネは?


「……いたた……やっぱり反動だけでもダメージがでかいわね。というか骨が折れてるんじゃないかしら」


「あんな化け物と激突して骨が折れる程度で済んでるのがおかしいぞ?」


「はいはい。そんなことより治療よろしく」


「ああ、フェアリーヒール」


 俺の回復魔法で全快したアヤネは再びストーンランナーと向き合い、その盾を構える。

 その姿を見たストーンランナーは嬉しそうに一吠えしたあと、念話を送ってきた。


『いいぞ、いいぞ! まさか、我が体当たりを受け止めるのではなく、その勢いを逆に我に与えるとは!』


「ぶっつけ本番の技だったけどね。で、第2ラウンドはまだかしら?」


『うむ。そうしたいところだが、思った以上にダメージを受けた。ひとまず今回は退かせてもらおう』


 その言葉と同時に、ストーンランナーは崖の上へと飛び上がりその向こう側へと姿を消してしまった。

 さて、取り残された俺たちはというと……。


「なんなのよ、アイツ! あの程度のダメージで逃げ出すなんて!」


「そうですね。昨日までの行動を考えるとおかしいですよね」


「……ひょっとしたら一層目だけじゃなく内部にもダメージが入っていたとか?」


「……そんなことありえるのかしら?」


「吾輩も疑問には思いますが……フート殿の意見に賛成にゃ。……しかし、この崖を超えられてしまうと追跡が困難にゃ」


「ショットワイヤーで飛んでいくのはどうなの?」


「ここの崖、ワイヤーが引っかかりませんのにゃ。それに崖の向こう側も切り立った崖。車で回り込むにも2時間以上かかる距離にゃ」


「……どうするよ?」


「……とりあえずお昼くらいまでは探してみませんか?」


「ミキ殿の案に賛成だにゃ。それ以上探し回ると帰りが遅くなって危険だにゃ」


「決まりね。ほら、早く行くわよ!」


 というわけで車に乗り込んで移動を開始したわけだが、結局ストーンランナーを見つける事はできなかった。

 リオンいわく、この近辺に隠し通路か何かがあるかも知れないとのこと。

 どちらにせよ、今日はこちらの手札を一枚見せてしまっただけで終わりとなった。

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